第12話 冷たいアイスと、温かい時間
先輩にリィを連れて行ってもらった後、近所の魔導具屋に行く。ダンジョンで無免許ヒールを繰り返して稼いだお金で、洗濯機を買うためだ。……と言っても全自動のやつは金貨50枚くらいして高すぎるし、そもそもリィの家には水道が通っていない。なので、魔力を充填すると自動で回転する洗濯樽を買うことにした。
店員に荷物運びを呼んでもらい、荷車に乗って家まで帰る。小さくてかわいい馬ですねと言ったら、コレはロバロだよと笑われて恥ずかしかった。
リィの部屋に散らかっている服を集め、粉石鹸と一緒に洗濯樽に入れる。井戸と家を何往復もして水を入れ、樽に魔力を込める。
「すげー、ほんとに回りだした。圧倒的な文明の力を感じる……。でも、すすぎの時に水変えなきゃなんだよな。……水道って神だったんだなー……」
腕が痛くなるまで水を運び倒し、なんとか洗濯を終える。家の横にある木と木の間に古いロープが張ってあるのを見つけ、服を干していく。
「お父さんっ!!」
「えっ!?……あ、リィ、おかえり。おー、さっぱりしたじゃん」
リィは振り向いた僕を見ると、がっくりと肩を落とした。そうして悲しそうな顔のまま、黙って家に入っていく。
「リィ……?なんだろう、呼び間違えたのが恥ずかしかったんかな……先生をお母さんって呼んじゃう的なあれかもな、うん」
しばらくして、ぜえぜえと息を切らしながら先輩がやってくる。
「先輩、お疲れ様です。リィ、大人しくお風呂に入りましたか?」
「……まあ、多少ぐずられたがね。アイスを口に突っ込んでやったら素直になったよ」
「アイスなんて売ってたんですか?」
「魔法でちゃちゃっと作った」
「あれ、そのでっかい袋はなんっすか?何か買ったんですか?」
「ミルクとクリーム、卵に砂糖に塩だ。帰ったらリィとアイスを……いや、それは今はいい。君の姿を見るなりリィが猛烈に走っていったんだが、一体どういうことだ?」
「全然わかんないっす。なんかしょんぼりして家の中に入っちゃいました」
「明らかに様子が変だ。見に行った方がいい」
「……確かにそうっすね。行ってみるっす」
リビングにリィはいなかった。
「リィの部屋の扉が閉まってる……多分あそこっすね」
「施錠されているな。おいリィ、どうした?」
「……なんでもない」
「嘘をつけ。なんでもないなら、そうして引きこもる理由もないだろう」
「……なんでもない!」
「君な……理由も教えずぐずっていては、対処のしようもないだろ!」
「まあまあ、先輩……ここは穏便にいくっす。……リィ、大丈夫?具合悪いの?」
「うるさい!全部ハルトのせいだ!!」
「えっ。な、なんでぇ……?」
「あっちいけ!」
「取り付く島もない、か。しょうがない、落ち着くまで待とう」
先輩と椅子に座り、リィが出てくるのを待つことにする。
「僕、なんかリィが怒るような事しちゃったかな……」
「さあな」
「ダンジョンで足手まといになってた?僕と一緒にいるのがずっと嫌だった?それともまさか……こっそりハンバーグに野菜を混ぜたのがばれたとか!?」
「やめろ。本人の口から事情を聴かないまま勘ぐったって、疲れるだけだ」
「それもそっすね……」
「床に氷の台座を作って……と。この上に置いておけば、しばらくは傷まないだろう」
氷の塊にアイスの材料を乗せると、先輩は懐から小さなバイアルに入ったポーションを取り出し、それを飲み干した後、大きく伸びをする。
「んーっ……じゃ、私は寝る。リィが出てきたら起こしてくれ」
「すんません、付き合わせちゃって」
「誤解するなよ。私はこれっぽっちもリィの事を心配していない。ただ、アレと一緒にアイスを作ると約束をした……それを果たしたいだけだ」
そう言うと、先輩はテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。
「寝るの早っ。……素直じゃないなあ、先輩も」
・・・・・・
「んぁ……?」
物音に気付いて顔を上げる。辺りはもう暗い……気付かないうちに眠ってしまったようだ。口の端のよだれを拭き、寝ぼけながら天井に魔法をかける。
「……っ!」
ミルクの瓶を手に持ったリィがぎくりとした顔でこちらを見る。
「あ、リィ。良かった、出てきたんだ。……先輩、起きてください、リィが来ましたよ~」
「ぐおおおお……なんら、世界が揺れる~」
「僕がゆらしてま~す」
「ぐおおおお……はっ。……なんだリィ、やっと起きたか」
「や、それは先輩でしょ。リィは寝てたわけじゃないと思うっすけど……」
気まずそうにうつむいて黙っているリィに、先輩は何事もなかったかのように言う。
「では、アイスを作ろう。今から氷の塊を作るから、それをダガーで適当な大きさに砕いて深い器に入れてくれ」
「ん……」
「僕もやるっす!」
氷の欠片を器に詰めた後、塩をかける。アイスの材料を入れたコップを器の中に入れ、コップの中身を木のスプーンで混ぜる。
「おお……!固まってきた!すごい!」
「こっちも固まってきたっす!ははっ、なんか普通に楽しいっすねこれ」
「二人ともガキだな……」
「あー、そーいうこと言うと先輩にはアイス分けてあげないっす」
「な、なに……?悪かった……」
「許すっす!」
出来たアイスをスプーンに掬い、先輩に差し出す。
「はい、あーん」
「……うん。甘くてうまいな」
「エイア、エイア、もっとくいたい」
「ならもう一度作れ。氷が解けてきたら足せ」
「ん!」
満足いくまでアイスを作ってから、リィは口の周りについたのを舌で舐め取って言う。
「うまかった。でも、くだものぶっ壊すやつもやりたい」
「……なんすかそれ?」
「あれはお前にはできない」
「じゃ、またやって」
「まあ、別に構わないが……」
「ん、約束。こんどはバイパインでやって」
「分かったよ……全く、偉大な魔導士の力をなんだと思ってるんだ、君は……」
その後は三人で屋台のご飯を食べ、そのまま先輩と別れてリィと二人で家に帰った。リィは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに寝てしまった。
・・・・・・




