105.アマンダ
「春には喜んで、夏は涼しい。それで秋には豊作で冬は暖かいものって事ね?そんな生き物いたかしら?」
「生まれた時の足は四本で、それから二本になって最後には三本になるものだったら分かるのだが……」
「何よそれ、分かった子供の乗り物でしょ。最初は三輪車、次にコマ付の自転車で、最後は普通の自転車」
「おいアリス、それなら最初は三本で次は四本で最後は二本になるぞ」
「あら、ホントだ。で、レアの答えは何?」
「俺の知っている話ではライオンの身体に人間の顔を持つ奴が居て……」
「ほへぇ」
俺とアリスが好きな事を言っていると、受付のベルが『チンチンチンチン!』とけたたましく鳴りまくった。
突然の攻撃にビクッと肩を震わせた俺とアリスに鋭い視線が光る。
眉を吊り上げたアマンダはブフゥと大きな鼻息を吹き出し、怒号を放った。
「煩いよあんたら!答える気がないんならさっさと帰んな。で、そこの耳の尖った兄ちゃんはだんまりかい?あんたも分からないのなら、今夜は橋の下ででも寝るんだね」
いきなり振られたリンクはというと、軽く指先を震わせながら蟀谷から一筋の汗を垂らしている。
「そ、その答えは『樹木』だ。なんであんたがこの様な問題を……」
リンクが震える声を上げると、アマンダは自身の髪を搔き上げた。
「「あっ」」
俺とアリスは同時に声を上げた。
「その耳は……『砂かけ婆』だったのか」
俺が言葉を発すると何処にあったのか、すかさず手に持つ扇子が飛んできた。
──パンッ!「いてっ!」
「誰が砂かけ婆じゃ。そこは『エルフ』か若しくはそこの男と同じ『ヴィーラ』というとこだろうが」
「そうだよ、レア。私なんかそのアピール耳を見た瞬間から師匠と同じって分かったんだからね」
ほんの冗談のつもりだったが、アマンダには通じない。ワイワイガヤガヤ騒ぎ立てる中で顔を引き攣らせたリンクは俺達の間に割って入った。
「その話はその辺で良いか?この方は間違いなく俺と同郷のヴィーラ族だ。一体いつから……」
「この宿屋は創業百五十年だよ」
すかさずリンクは顔と手を派手に振る。
「いや、そうではなく、この人族の街に来たのはと」
「おまえさん、乙女に年齢を聞くなど無粋だと思わないかい?」
「お、おとめ?すまない、乙女だとは思わなかった。その見た目で……」
──パンッ!「いてっ!」
再び俺に扇子が飛んできた。
「もう、ややこしくなるでしょ。レアはもう黙ってて!それにリンクも。乙女に年齢を聞くなんて失礼だに」
アリスはヴィーラ族のおばばと同じ語尾を使って微笑んだ。同時にアマンダの頬もほころぶ。
「そうかい。あんた達はあの村に行ったのだね。シルヴィア様もオーランドも元気だったかい?」
「やはりあなたは……わ、私はヴィーラ族の戦士であるリンクと言います。あなたは?」
握りしめた拳を震わせ、リンクはアマンダから視線を逸らさない。
「何を言っているんだい。さっきからあんたはリンクリンクって呼ばれているし、私はアマンダだって名乗っているだろう」
耳をほじってピンっと指を刎ねるアマンダは何故かリンクに辛口だ。その横でアリスはリンクの腕をツンツンと突いた。
「ねえねえリンクさん、シルヴィア様って誰なの?」
アリスが長い髪を搔き上げながらリンクにそっと耳打ちをする。
「シルヴィア様はおばば様の事です」
そういうリンクの唇が小刻みに震える。
(あのおばばシルヴィアという名前だったのか)
俺はプッと噴き出しそうになった息をグッと飲み込んだのだが、リンクとアマンダにキッと睨まれてしまった。
「コホン、つまりアマンダさんの立場はおばばより下でオーランドよりも上って事だな。で、ただ一泊させるだけでここまで話を引き延ばしたんだ。あんたの目的はなんだ」
アマンダは腹を抱えてカカカカッと甲高い声で笑いを上げた。
「ああ、おとぼけはここまでにしようかね。リンク、あんたが来ることは判っていたんだ。シルヴィア様から二百年前に聞いていたからね」
「おいおい、あんたと言い、おばばと言い、一体ヴィーラ族ってどれだけ生きるんだよ」
長生きだとは思っていたが、二百年前の予言とは。それに日まで当てられるとは、おばばの予言も恐ろしく正確だ。
クククと笑いを浮かべるアマンダを横目に、俺は生唾を呑み込まずにはいられなかった。
「さっきその娘も言っただろう、乙女に年を聞くのは失礼なんだよ。悪かったねリンク、試すような真似をしてさ。私も同族に会うのは久しぶりなんで、一応確認させてもらったわけだ」
打って変わって頬を緩めたアマンダを見て、リンクは頭を垂れる。
「いえ、村を出られたアマンダ様の話は聞いておりました。お顔を存じ上げていなかったので、失礼を致しました」
「うむ」と頷いたアマンダは異空間から鞘に入った剣を取りだし、リンクにさし出した。鞘には細かな唐草の様な模様が刻まれ、漆でも塗ってあるかのように黒光りをしている。柄の部分も色とりどりの絹糸が織り込まれており、年代を感じさせるが、高名な鍛冶師によって丁寧に作られたものだと分かる。
引き攣るリンクの頬に浮いた汗がツツツッっと流れ落ちる。
「わあ、アマンダさんも亜空間ボックスを使えるんだ」
アリスは羨ましそうに目を丸くする。
おいおい、驚くのはそれよりもその豪華の剣の方だぞ。
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