103.城へ
第七章開始です。よろしくお願いします。
「ねえ、レア。何処に居るの?今リンクさんと門の兵士が揉めていて大変なのよ」
小竜に乗り城に向かって夜の街道を走っている俺に、アリスが通信機を使って話しかけてきた。アリスの声の奥から薄っすらとだが、言い合いの声が耳に入る。
まともに戦えば城の兵士十人や二十人くらいリンク一人で簡単にやっつけてしまう程の実力だ。
──きっと兵たちはそんな事をつゆにも思っていないだろうな。
だがそこは城だ。多勢に無勢、いくらリンクとはいえ三桁の数の兵士相手ではさすがに勝てないだろう。
──いや、それがきっかけにヴィーラと人の関係が再びこじれるのはまずい。
迫りくる大量魔物の暴走の前の不和はこの国、若しくはこの星の崩壊を意味する。
……自分の星に帰れなくなるどころの話じゃない
やれやれ、と小竜の頭を撫でながら直ぐにアリスに返答をする。
「ああ、何とかリンクを押さえておいてくれ、くれぐれも戦闘にならぬようにな」
「わかった」と言ってアリスは即座に通信を切った。緊迫した状況が俺にも伝わって来る。
「頼む、少し急いでくれ」と囁けば、ミヤビはフンと頷きスピードを上げた。
◇ ◇ ◇
ミヤビのザクザクと砂を弾く音が響く中、僅かに残る夕日の光が遠景のロシドメシア城をおぼろげに映し出す。この先で揉め事があるとは考え難い風景だ。
……もう数分で到着する。持ってくれればいいが。
城の門が見えると、そこに幾人かがたむろっている姿がかすかに見えた。俺は聴力を引き上げその会話に耳を傾ける。怒鳴りあってはいるが、まだ争いまでは起こってはいないようだ。
その現場に近づくと、アリスがリンクを前から押さえつけ、アリスの後方には十人ばかりの兵士が城を守るかのように立ち竦んでいる。
小竜たちはその集団から少し離れた所でおとなしく待機をしており、少し離れたところで背筋を伸ばした数人の兵士が小竜たちの監視を続けている。
兵士たちも小竜を従えるリンクが恐ろしいのか、迂闊に手を出さずにいるようだが、その中で腕に自信ありといった兵士の中の一人が槍を突きつけながら怒鳴り声をあげていた。
「何処のどいつか知らないが、何度も言わせるな!お前の様な怪しげな奴を王に会わせるわけはないだろう。どうしてもというなら、その書類とやらを渡せ。俺から王に渡す」
「人類にとって重要な物をいち兵士に託せる訳はないだろう。身の程を知れ!」
「なんだとこいつ!何が人類だ虚言を吐くな」
「ちょっと、リンクさん……兵士さんもやめてください!」
眉間に皺をよせ汗を垂らしながらアリスはリンクを押さえつけているが、正に一触即発状態だ。よく見るとこめかみに目一杯の血管を浮かび上がらせているリンクの指先に魔力が集中している。
──これはいかん!
「ちょっと待てリンク、それにそこの兵士もそれ以上この男を煽るのは止めろ」
俺は二人の間に割って入った。
ミヤビに乗った俺が間に入ったものだから、力自慢の兵士も身体をのけぞらす。
「な、何だお前は。お前もこいつの仲間か!」
少し震える声で歯をむき出しにしながら、槍の矛先を俺に向け直した兵士が語気を荒げた。
ミヤビから俺が降りると、賢いミヤビは仲間の小竜の元へと歩き出す。それを見届けた後、兵士の槍先を掴んだ。
「やめておけ、お前が十人居てもこの男にも俺にも歯が立たない。それよりもこれを見ろ」
「くそ、な、何て力だ」
ビクともしない槍を引きながら兵士はギリギリと歯を鳴らす。
「おい!お前らも手伝え」
その瞬間にガシャッと鎧のきしむ音が重なり合う。
他の兵士が動き出したその時、俺は片腕でオリバーから預かった国王直筆の署名が入った親書を取り出し、兵士の前でバサッと広げた。
「ああ?何だそれは……え!国王様直筆の親書、ほ、本物なのか?いや、仮に偽物だとしたら……」
兵士たちは動きを止め、矛先を地面に落した。そしてボソボソと呟きながら無意味に手を上下に動かした。その時、後ろから星状の装飾が施されている兜を被った別の兵士が声を掛けた。
「どうした?何を揉めている」
「はっ!ロビン兵士長……実はこの者どもが……」
口周りにブロンドの髭を蓄えたロビンと呼ばれた男は、俺が広げている親書を一目見て頷いた。
「うむ、確かに国王様が書かれた親書に間違いない。だが、今はもう夕の刻、直ぐにお目通りをさせるわけにはいかん。その旨を伝えておくので、明日の朝再び来られるとよい」
「それが緊急を要する事でもか?ロビン兵士長」
敢えて彼の名を呼んだ俺を見て、ロビンは眉を顰めた。
「緊急を要するなら謁見は可能だが、俺の中では緊急を要するというのは『今何かをしなければ命に関わる』という事だが、それで間違いは無いか」
ロビンの厳しい目つきを見て、後ろからアリスが「いい加減にしなさいよ」とばかりに俺の服の裾を引っ張ってくる。
(やれやれ、ただ確認したかっただけなのだが……俺とて今動く意味が薄いことくらい分かっている)
「ああ、その解釈で間違いはない。明日出向くとしよう」
俺がそう言うと、ロビンもフッと鼻を鳴らし「城下町に外来用の宿屋がある、目印は赤い旗だ。今夜はそこで泊ればいいだろう」と自筆のサインの入った宿屋の名刺を渡してきた。用意のいい事だ、きっとこういう訪問客は多いのだろう。
俺達が背を向けると、他の兵士が「魔物を連れている奴を放置しても良いのですか?」とロビンに問いかけていた。
「お前たちは小竜を知らないのか?俺も初めて見るが、本当に居たのだな。うむ、なかなか格好が良いではないか」
そう言ってロビンは笑い声をあげていた。
ふふふ、なかなか男気があっていい兵士じゃないか。
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