102.これから
この章のラストです
オリバーを先導に俺達三人は小竜に乗り連れ立ってついて行く。行き先はギルドだ。
「凄いね、さすがにマスターと呼ばれるだけあるわね」
アリスは目をパチクリさせながら周囲の様子に目を奪われている。
というのも、多少のこそこそ話はあるもののオリバーが前を歩けば、街の人達は先程と打って変わって通常運転に戻っている。
「ああ、信頼されているんだな」
「ああ、確かに。私は彼を誤解していたようだ」
俺達が感心していると、リンクも両手を組み、真剣に見入る様子が尊敬を示していた。
◇ ◇ ◇
俺達はギルドに着いた時には西の空が真っ赤に染まり出していた。ひと仕事を終えた多くの冒険者達が報酬を受け取りにぞろぞろ集まって来る。
「う、うわあ。魔物が座っているぞ」
ギルドの入口に待機させた小竜たちを見て案の定大騒ぎ。置き物のように動かなくなる者もいたが、手を出す者は一人も居なかった。
「最高の案だったでしょ?」
アリスが得意気に顎を上げた。彼女の案とは小竜たちの首に『飼い主アリ。触るな危険!』のプレートを垂らしておく事。
多分、そんなものが無くても誰も怖がって触ったりはしないだろうと、喉から出そうになったが、ここはフフンと鼻を鳴らす彼女を立てて黙っておいた。
応接室に通された俺達はオリバーから事情聴取を受ける事になった。なぜかいつもと同じようにヤックも一緒だ。勿論ハーブティとお茶菓子も用意されている。
「先ずは、どういう事かかいつまんで話してくれないか」
オリバーは耳をそばだてて、一言も逃すまいと俺達の方へ身を乗り出した。
「まあ、あれだ。サイクロプスを倒しに行く途中で魔物に襲われているこのリンクに出会ったんだ」
「ふむ、それで」
「それを助けたらヴィーラ族の村に案内された。優秀で正直者で気は優しくて力持ちにしか入れん場所だ」
「……アリス、こいつを何とかしてくれないか」
オリバーが頭を抱えながら大きなため息をついた。適当な事を言っていると思われたらしい。
「もう、レアったら。マスターごめんなさい。でも、あながち嘘でもないのよ」
じつはね、とアリスは事の経過を説明した後、リンクをマスターに紹介した。
オリバーは「まさか、本当にヴィーラ族が居るとは……」と呟くと、両手を組み感慨深げに胸元で握りしめ、リンクに目を向けた。
「そうか。レアの後半の部分を除いて概ね正しかったのか。して、リンクさんとやら今回ここに来られた目的を教えてはくれぬか」
リンクは一切表情を崩さず、オリバーを真っ直ぐに見つめていた。
「……国王に渡す物がある」
一瞬、空気が凍りついた。
「えぐっ!ゴホンッ、ゴホンッ……こ、国王様?」
オリバーはむせ返り、顔を真っ赤にして咳き込みながら椅子をきしませた。引き攣った表情が、彼の動揺を隠しきれない。
「いくら何でも国王様に会うのは……」
オリバーが裏返った声でそう言うと、リンクは黙って立ち上がった。
「そうか、ではここには用はない」
早口にそう言うと、リンクはコツコツと足音を立てさっさと出口に向かって歩いて行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
アリスは大慌ててお茶菓子を口に詰め込み、ハーブティを流し込んだ。
「……。そうだ、ヤック、これ約束のものだ。報酬は後で取りに来る」
俺は亜空間ボックスからサイクロプスの魔石を三つ取り出し、テーブルの上に放り投げた。
「ぎゃあ!なにこれ」
ヤックはそのまま腰を抜かし、ひっくり返ってしまった。
「レア、ちょっと待て!」
オリバーが必死の形相で俺の腕を掴んだ。俺が立ち止まったのを確認したオリバーは厳重に施錠されている金庫から一枚の書類を取り出した。
「そのままでは国王様は絶対に会ってくれない。これを持って行け」
オリバーが俺に差し出した物は国王直筆の署名が入った親書。
「これを渡すことは、私の信用を全て君たちに預けるということだ」
俺がそれを受け取るとオリバーは直ぐに背を向け、持ち上げた手を振った。
オリバーのくせになかなか粋な事をやってくれる。思わず口元が緩んでしまった。
「借りは返してもらった」
俺は王の親書を亜空間ボックスに入れるとリンク達を追いかけた。ギルド前には既に小竜と小竜の姿はない。
俺が取り残された小竜に近寄ると見知らぬ冒険者達が鼻息荒く目を爛々とさせながら近寄ってきた。
「さっきそこに居た竜に乗ってすっ飛んで行ったのはあんたの仲間かい?」
俺の事を知らない冒険者だ。丁度いい。
「そいつらはどちらに向かったか判るか?」
「あっちへ向かって飛んで行ったぜ」
男は城のある方向を指さした。アリスもリンクを追って城へ行ったか。
「サンクス」俺は簡単に礼を言い、その男に100ピネル硬貨を指で飛ばした。
男は片手で硬貨を受け取ると頬を緩めて「気を付けなよ」と手を振った。
「さあ、俺達も城へ向かうか」
俺は一人取り残されたミヤビの頭を撫でると、寂しそうに「キュイ」と鳴き声を上げた。俺はその背に跨り、ゆっくりとミヤビを走らせた。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
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