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飛ばされた最強の魔法騎士 とっても自分の星に帰りたいのだが……  作者: 季山水晶
第六章 新たな課題

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99.リンク驚愕

 荒い鼻息音が周囲に響き渡り、木の葉が舞い散る。


 激しく荒い唸り声を上げまだ影しか見えていない距離なのに獣臭が漂う。砂埃の中から真っ赤な目だけが怪しい光を放っている。


 揺らぐ巨大な影が奴の生命力の高さを示している。


「うふふ。大きいわね。倒し甲斐があるわ」


 厳しい目つきで口角だけを上げ、細剣フェニックスを構えたアリスがそう言った。自身の三倍以上の巨大な相手に怯む気配は一切見せない。


 片やリンクは顔中に汗を掻き、唇は血色を失っている。


 リンクは弓を手に取るが、指の振幅が大きく弓がまともに持てていない。


「こ、この手……この手が……く、くそう」


 戦慄わななく右手を左手で抑え込むが、揺れは増すばかりだ。近づいてくる地響きの方へ眼をやりながら彼の顎に力が入り、首筋がこわばっていく。


「なんで、なんでだ」


 思う様にならない手に苛立ちを感じているのか、しきりに自身の手を叩くリンク。そこへアリスがそっと近づき彼の肩に手を置いた後、頬にキスをした。


「え!え!な、何?」


 リンクは大きく仰け反った後、手に持つ弓は零れ落ちた。大きな二度の瞬きの後、自身の頬に手を当てながらゆっくりとアリスの方へ向き直った。


「落ち着いたかしら?あなたならやれるわ、期待しているよ」


 アリスがリンクにウインクをした。


 魔物と遭遇する前とは別人のように落ち着いた表情を見せるアリスを、リンクはしばらく呆けたように見つめていたが、目をキッと見開くと唇を締め急いで弓を手に取った。


 いつの間にか手の震えは止まっていた。


「任せてください」


 リンクのセリフに気合が籠る。迫りくる脅威に彼は弓を引いた。ギシギシと弓が鳴り、場の空気が張り詰めた。


 メキメキッと木々が裂け倒れて埃の舞う中、真っ先に登場したのは横殴りに振られた大きな斧だ。


「こいつも武具を装備してやがる」


「え?ベヒモスって武具持てないの?」


 アリスの声のトーンが上がり、驚きが俺にも伝わって来る。


「ああ、ノーマルは持っていない。武器を提供していた奴は倒したはずだが、知恵を得たか」


「どういう事?」


「その話は後からだ。さあ、来るぞ」


 そこから長く振り回された長い鼻が姿を現し、全貌が明らかになる。


 予想通り、小山のような巨体には赤い斑が散らばり、突風のような鼻息は周りの木々を大きく揺らす。


 身体には古びた防具を装着し、ギラギラ光る眼は俺達を睨みつけている。


 舞い散る埃の中でベヒモスが手に持つ斧を振り上げた瞬間、リンクは弓の緊張を開放させた。


 息つく暇もなくリンクは二本、三本とその顔に向けて矢を放っていく、狙うは血走った大きな眼だ。一本目の矢がベヒモスの目尻辺りを掠めたが、その他の矢は奴の持つ重厚な盾で遮られる。


「くそう、でかいくせに動きが早い」


 リンクは奥歯が軋むほど強く噛み締め、次の矢を引きながらチャンスを待った。


 アリスは既に行動を起こしていた。細剣フェニックスを身構え、低い体勢でベヒモスに駆け寄った彼女はベヒモスの分厚い足に切りかかった。


 ベヒモスはそれを察知していたのか左腕に持っていた盾を地面に落としアリスの攻撃を跳ね返した。激しい金属音が当たりに響き渡る。


「弓に気を取られているはずなのに、なんて奴なの」


 アリスの眉が歪み、彼女の動きが一瞬止まる。が、その反応を見逃さずにベヒモスは手に持つ鉄斧を彼女に向けて振り下ろした。


 激しい音と、眩しいくらいの火花が飛び散る。


「何て子だ、あの斧を受け止めたぞ!」


 リンクは現実感が霧散し、理解が追いつかない。目の前で戦っているのはまるで巨人と小人、その小人が巨人の攻撃をまともに受け止めたのだ。


「今のアリスは自身にかけた重力魔法を解除し、さらに身体強化魔法をかけたのだ」


「あんな小柄な女性なのに……」


 俺は口が半ば開いたまま固まっているリンクにそう説明した。まあ、驚くのは無理もない話だ。


「さあ、リンク、お前もそんな事をしている場合ではないだろう。今、ベヒモスはアリスに気を取られて隙が出来ているぞ」


「私の矢は……役に立てるのか?」


 矢を握る手が重く感じているのかリンクは不安げな声を漏らす。


「ああ、期待しているって言われただろう?打ち続ける事で隙が生まれる。アリスも戦いやすくなるんだぜ」


 唇を締め直したリンクは再び弓を構え、ベヒモスの顔に向かって矢を打ち出す。


 ベヒモスの咆哮が山々を揺さぶった。リンクとアリスの絶え間ない攻撃にいらだちを隠せないのだ。そして長い鼻先をアリスに向けた。


「その攻撃は知っているわよ」


 以前戦った時にそこから水を吹き出すことは既に理解している。アリスは身体を目一杯仰け反らせ細剣フェニックスを振りかぶった。


「GZZZZ!……」


 言葉にならない雄叫びと同時に、鼻が横揺れを始める。リンクの矢がベヒモスの右目を捕らえたのだ。


 アリスは刀身に炎を纏わせ、ここぞとばかりにベヒモスの図太い足を切りつけた。再びベヒモスの咆哮が響き渡り、切断面から噴水の様に奴の体液が噴き出した。


「次はその鬱陶しい図太い腕」


 大地を踏みしめ跳ね上がるアリスにベヒモスの体液が辺りに飛び散っていく。


 バランスを崩し傾きながら崩れ落ちるベヒモスの腕をアリスは容赦なく切り落とす。崩れ落ち、激しく砂埃舞う巨体を飛び越え、アリスは喉元に細剣を突き刺した。


「終わったな」


 徐々に消えゆくベヒモスの亡骸を見ながら俺はそう呟いた。


 呆然とその様子を見ていたリンクが突如両掌を自身に向け、目を見開いた。


「弓しか放っていないのに……経験値が」


 自身に多大な経験値が舞い込んできた事で彼は現実に引き戻された。


「こんな私でも役にたてたのか……」


 ため息交じりのセリフに彼の安堵感が伝わってくる。


「ああ、お前が居たからアリスも勝てたんだよ」


 俺は優しくリンクの肩に手を添えた。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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