07 アッタリア戦(4)
「あきらめると思うかい?」
子爵から離れ自分の天幕に戻りながら聞くと、側に仕えるライオネルが答える。
「無理でしょう」
「だろうね」
「どのくらい犠牲が出ると思う」
「半数でおさまれば、と言う所でしょうか」
「多いなぁ、、、」
そう言うと、すっかり影に徹するようになったオルグに声をかける。
「オルグはその辺にいるかい?」
「はい、何か用ですか?」
「うん、ちょっと噂を流して来てくれるかな?」
「噂、ですか?」
「そうだね、『砂漠は物凄く暑くて水が無いとすぐ死ぬ事になる』とか、『砂漠には、猛毒の虫がいる』とかね」
「水と毒消しの薬を持って行けってことですか?」
「必要だからね。ついでに行軍の足が遅れるか、逃げる者がいればもっといい」
「分かりました。何人か連れて行ってきます」
「うん、頼んだよ」
「エリス、篝火が沢山必要になる。そっちはお前に頼むよ」
「承知しました」
「セルトには、何人か連れて渓谷に霧を起こして、行軍の足を止めて貰おうかな」
「かしこまりました」
「ライオネル、後の事はお前に一任するよ」
「分かりました」
「我々は何を」
クラウスとファーレンの二人が聞いてくる。
「お前たちは、休め」
そう言うと、すぐに自分も天幕に入って寝てしまう。
ウルフレッドの軍は、五人の将によって動かされていた。
その中でも最も攻撃に向いている魔力を持っているのが、クラウスとファーレンの二人だ。
明日、自分達の主人は、彼らと共に砂漠に向かう事になる。
翌日、王都の貴族達を見張っていたセルトが知らせに来る。
「何と言った? 砂漠に入っていったのか、この真っ昼間に?」
「すみません、まさか日の上がった砂漠を進むとは思はなかったので」
セルトが答える。
「いや、流石に僕もそれは予測していなかったよ」
知らないという事は恐ろしい。
渓谷を通る時、霧のせいで行軍が遅れた。
ヘステリアの荒野と砂漠を境にした国境に着いた時、太陽は真上に近かった。
真っ昼間の砂漠は灼熱の地獄になる。
まさかその中に入って行くとは思いもしなかった。
荒野で夕方まで過ごし、夜の砂漠に入れば、すぐにアッタリア兵と戦う事になる。
彼らと砂漠で戦うのは不利になるので、先に進まず戻る事もあったかもしれない。
また、こちらが仕掛けるにしてもアッタリアの側面から攻撃できるので、人も被害も少なくて済む。
だが、昼の砂漠ではアッタリア兵は攻めてこない。
攻めて来ないからとそのまま進めば、体力を削られた所を逆に攻められる。
先に進んでしまった兵が、砂漠の奥にある岩場の方まで進んでしまえば、こちらの兵とかれらの間にアッタリア兵に入られる。
「どのくらいの軍になった。」
「七百くらいに減っています。昨夜の噂や霧に紛れて抜けた者も多かったので」
「この辺りの岩場で休む事になるだろうな」
オルグが作ってくれた砂漠の地図を広げて、行軍の行き先を予想する。
「だといいのですが、この奥まで進んでいると」
「厄介だな」
「ウルフレッド様が放っておけないのは理解しますが、私は賛成しかねます」
ライオネルが告げる。
一番の年長者である彼が、その言葉を発したが、それは誰もが思っている事だった。
砂漠に進んだ兵達は、ウエストリアの民では無い。
例え彼らが全滅したとしても、こちらが責任を感じる必要は無い事だった。
「分かっている。命を捨てるつもりはないよ、引き上げ時を間違えたりしないさ」




