08 アッタリア戦(5)
アッタリア人は夜目がきく。
砂漠に入ってきた敵を攻撃するのは、日が暮れてからになるだろう。
おそらく逃げ道を塞ぐように攻撃してくるアッタリア兵を後方から攻撃し、道を開いて逃がすしかない。
だがこちらが予想している岩場を奥まで進んでしまっていると難しい。
荒野を砂漠に沿って北に進み、砂漠の岩場になるべく近づいて暗くなるのを待つ。
日が陰り始めた頃、砂漠に入り、目的の岩場の方に進んでいく。
「オルグ、どうだ?」
「岩場の中央にほとんどが集まって戦っていますね。東側にも小さな集団がありますが、こちらは自分たちでどうにかなりそうです」
「自分達だけ逃げているのか?」
「まぁ、そういう事です」
「では、そちらに向かった兵が戻って来ないうちに行くしかないね」
アッタリア兵の後方、数メートルに近づいてウルフレッドが声をかける。
「よし、黒曜石は持っているな? 取り込むタイミングを間違えるなよ、帰るまでが戦だからな」
「ウル、十八メートル左手前方です」
オルグが敵の位置を教えてくれる。
左手を前に出し、魔具を使って火炎をいくつか放ち、それを合図にウエストリア兵が戦いに入る事になる。
ウルフレッドは、右手に剣、左手に火炎を放つ魔具を付けて戦う。
離れた敵には炎火が効率的だし、近接戦闘では剣の方が使いやすい。
オルグは地の魔力を使う事が得意なので、大地の上に存在するものの位置を把握する事に優れている。
「ウル、右側、岩場の向こうから来るのがいます」
「今度は左に、まっすぐ」
常に自分の近くにいて、火炎を放つ場所や方向を教えてくれる。
「あまり離れるなよ、お前は防御がさっぱりだろう」
「大丈夫ですよ、ちゃんと敵の位置は把握していますから」
オルグは気にする様子もない。
「それより急いだ方が良さそうです、先に逃げた連中の相手をしていたのが戻って来ます」
クラウスに先導させ、ファーレンの部隊と共にしんがりを務める。
防御に徹して戻る事に集中すれば、魔力の少ない者でもどうにかなったので、なんとか軍をまとめてウエストリアの方に向かう。
ウエストリアまで残り数十メートルと言う頃、左手から新手がやって来る。
アッタリア兵は、引き際も良いが勝利にも貪欲だ。
勝てると思った戦では、やっかいな敵になる。
最後の黒曜石を取り込んで、既に時間が経っているので、そろそろ限界が近づいている。
こんな所でと思った瞬間、エリスがアッタリア兵に突っ込んで行くのが見える。
「無茶をする」
その間にウエストリアの国境近くまで戻ると、エリスにも引くように合図を送る。
「いやぁ、助かったよ。さすがに疲れた」
軽口を叩いてみるが、前日の回復が出来ていない自分がぎりぎりの状態だった事は知られている。
ライオネルは怒るし、セルトは泣くし、エリスも側から離れようとしない。
「こちらで国境周辺の警備はできますので、クラウスやファーレンと共に緑樹院に行って下さい」
「緑樹院がここまで来ているのかい?」
「はい、癒しの使い手の方が何人か。長官殿が送って下さったようです」
「それは助かるな。これでは男前が台無しだからね」
エリスの肩を借りてそちらに向かいながら、
「ライオネル、これでしばらく長引く事になった。素直に引いてはくれないだろう」
「また仕掛けて来ると?」
「おそらくね、だが水と食糧が持つとは思えないから、数は減るだろう」
「では、守りに徹して対応します」
「頼む」
ライオネルに国境を任せた後、オルグに向かって言う。
「君も休養だよ、まだ頼みたい事があるからね、それまでにこの怪我をお互いどうにかしよう」
ウエストリアの兵に犠牲は出なかったが、先に砂漠に入った兵の一部は失う事になった。
おまけにこちらに余力がないのも知られた形になる。
前回はうまく罠に嵌ってくれたが、アッタリア兵はおそらく砂漠から出てこなくなるだろう。
面倒な事になったと憂鬱な気分になるが、その数分後、緑樹院で一人の女性に会い、その事だけは感謝する事になる。




