06 アッタリア戦(3)
「あそこにいるのが、王都の平民達か」
砂漠に引いたアッタリア兵を追う事を、一番に主張していたマクシミリアン子爵が部下と話す。
「そうですね、彼らに先導させましょう」
「王都の民であれば、我々が使っても何の問題も無いからな」
若いウエストリア伯が、王都で魔力を持つ平民達を集めていた事は知っていたし、その彼らを自分の領地に連れて来ている事も聞いていた。
王都の民は約定を持たない。
個々の領主との約定を持たない以上、彼らを自軍に入れ、自分たちの為にも働いて貰って何の問題も無いはずだった。
マクシミリアン子爵は、十歳も年下の若造に、アッタリアが残した鉄が奪われる事に納得出来なかった。
こんなに早くアッタリアとの戦いが終わる訳がない。
千人以上のアッタリア兵が来ると噂になっていたが、実際はそれ程でも無かったか、勇猛果敢だと言われているアッタリア人など、ウエストリア伯が領地を得るための誇張でしかないに違いない。
せめて砂漠に残されている戦利品でも手に入れなくては、こんな所まで来た意味が無い。
その為にも王都の平民達は役に立つ。
騎士達に比べれば少ないと言っても、使い方を学ぶ必要があるくらい魔力を持っているなら問題ない。
おまけに彼らに何かあっても、自分は責任を取る必要もないのだから、こんなに有難い話は無い。
「明日、我々はアッタリア兵を討つために砂漠に行く、お前達にも同行して貰うからそのつもりでいるように」
平民達の元に行き、自分に従うように命令すると、
「あの、我々はエリス様に従うよう命じられていますので、他の方のご命令には従えません」
彼らの中でも、比較的年長の少年が答える。
「エリス? ウエストリア伯の手の者か、お前たちは王都の民だろう。ウエストリア伯に何を言われたのか知らないが、彼に従う方が間違っているのだ」
マクシミリアン子爵が声を荒げていると、若造が偉そうに部下を従えてやって来る。
「どうかしましたか?」
「ウエストリア伯か、君には関係ない。王都の民と話していただけだ」
子爵があっちに行けと手を振りながら答える。
「私の民ですよ」
「なに?」
「彼らは、ウエストリアの領民です」
「何を言っている?」
「彼らはこの戦が始まる前に、ウエストリア領に移籍して貰っています。ですからウエストリアの領民です、つまり私の。勝手な事をして貰っては困りますね」
「まさか、これだけの人間の移籍費を支払ったと言うのか」
「おかげで領内に被害が出ませんでした」
そう言うと、子爵から視線を外し、ウエストリア伯が彼らに話している。
「念のため周りの警戒は続けるように。食事も向こうに用意してあるから、そちらも順に済ますように」
彼らを利用するつもりだった子爵が歯ぎしりする。
約定を持たない王都の民であれば、自由に使う事が出来るのに、彼らが使えないのであれば、自分の兵を使うしかなくなる。
貴族が自分に仕える騎士や領民を戦に連れ出すには、必ず約定とそれに伴う報酬が必要になる。
本来なら自分の領地を守るための騎士や、畑を耕す仕事をしている領民を、他の領地まで連れて行き、命をかけろと言うのだから、約束された報酬が無ければ人々は従う義務を持たない。
こうして連れて来られた人達は集団になると、思いもかけない行動に出る。
特に危険な戦に連れ出され、自暴自棄になっている者や、逆に気分が高揚し乱暴になる者などは、集団になるととても厄介になった。
ウエストリア領の小さな町や村は、ヘイズがウエストリアに来た時には無人になっていたし、大きな街の住民は、街の外に出てくる事は無かった。
訓練を受けていない領民の中には、無人となった家を荒らし、農地を踏み荒らす者が現れる。
子爵が連れて来た者達にも家を荒らす者は現れ、最初は咎めていた騎士達もしばらくすると面倒になり、何も言わなくなっていた。
マクシミリアンが、ウエストリアの国境付近まで兵を動かしただけで、敵と戦わずに帰る事は出来ないと考えるのは当たり前だ。
少しでも敵と戦ったという名目が無ければ、彼らはウエストリア領内をただ荒らしただけになり、このままではあの若造に咎められる事になりかねない。
ヘイズにはその様な事を受け入れるなど、絶対に出来ない。




