05 アッタリア戦(2)
ウルフレッドは、平民たちの“学び舎“が領内にあったので、同じ物を王都の第二層に作り、そこに魔力を持った平民を集めその力の使い方を教えていた。
魔力持ちを集める事に懸念を持つ貴族もいたが、所詮平民の魔力量は多くない。
結局、勝手にすれば良いとそのまま放置された。
その王都の学び舎が出来て五年経った頃、アッタリアが攻め込んで来た。
砂漠の国に住む好戦的なアッタリアとウエストリアは、過去に何度か戦っていた。
今回は千を超える兵士が攻めてくると言われ、エルメニア国内は騒然となった。
ヘステリアと呼ばれる国境付近の荒野を抜け、ミスリル渓谷を過ぎればウエストリア領に入る。
エルメニア公国は、公国内が敵から身を守るような造りにはなっていない。
敵兵が領内に入ると、国が亡ぶ可能性があるため、防御の要である辺境伯の力が強かった。
しかし例え辺境伯に力があっても、一領主がそれ程の軍勢に対抗できる訳もなく。
貴族たちは自分の領地を守る者、兵を連れてウエストリアに向かう者など公国内が混乱する中、僅か数日でウエストリア伯がアッタリア軍に壊滅的な打撃を与えた。
「このまま彼らを砂漠に返していいの?」
ファーレンが心配そうに聞いてくる。
「兵の数を減らしておかなくて、大丈夫なのかな?」
「かまわないよ、このまま帰ってくれるならその方がいい、嫌な記憶をちゃんと持って帰ってくれるならね」
「また、攻めて来る事にならない?」
「来るだろうね、だが追い打ちをかければ相手も必死になる」
「確かに」
「そんな敵を相手にする必要はないよ」
ウルフレッドが困ったように続ける。
「それに、これで終わった訳ではないからね」
「そうなのですか?」
「王都の貴族たちが、何人かこちらに向かっているようですね」
ウルフレッドの隣にいるライオネルが、クラウスの問いにうんざりした様に答える。
「援軍ですか? 今ごろ?」
「そう言うな、彼らが知ったのは数日前の事なのだからね」
「全く面倒な事をしてくれます」
「マティスの当主は期を見るのが上手いね、本当にいいタイミングだ」
「どういう意味です?」
「王都の貴族達が来るのがもう少し遅ければ、こちらも色々準備が出来たのだけどね」
兵を連れてウエストリアの領地に入ってきた貴族がいる事は聞いている。
もう少し時間があれば、こちらにも休む時間があったし、アッタリア兵が完全に引いてしまえば、砂漠に入った時に危険も少なかったと言うのに、本当に嫌な時を狙ってくるものだ。
「僕は行きませんよ」
ウルフレッドが王都から来た貴族たちに答える。
『砂漠に引いたアッタリア兵を何故追わない!?』
王都から来た貴族達はうるさいが、既にウエストリアからアッタリア兵は引いていて、国を脅かす敵を排除する事を目的とした、辺境伯としての義務は果たしている。
魔具を準備し、兵を集め、何日もかけて来た場所から、手ぶらで帰る訳にも行かない貴族の気持ちは、理解出来ても付き合う義務は無い。
アッタリアは交戦的な民族だが、負ける戦を続けるような人達でも無かった。
負けると思えば戦いを放棄してさっさと引いていく。
その際、重いオノや盾、兜や胸当てなども置いて逃げる事が多い。
アッタリアとの戦は、鉄を手に入れる機会であり、現にウエストリアは多くの武具を手に入れていた。
彼らにとって鉄はそれ程重要ではないからだが、それは鉄の無いエルメニアでは貴重な資産にもなる。
王都周辺の貴族がわざわざやって来たのは、それによる利益があると知っていたからだが、砂漠まで引いたアッタリア兵を追うのは危険を伴う。
ウルフレッドは、アッタリア兵が砂漠に残した物を放置したため、王都から来た貴族たちはそれらを手に入れ、利益を得たいと考える事も予想が出来た。
「あなた方が自分の兵を動かすのを止める事はできませんが、ウエストリアの力は当てにしないで頂きたい」
中には辺境伯の助力がないならと考える者もいたが、それを好都合だと考える貴族もいた。




