02 アッタリア戦
エルメニアは、アッタリア人との戦いを苦手としていた。
暑い砂漠で暮らすアッタリア人は、暗くなってから活動するため夜目がきく。
その為日中と同じようにとはいかないが、月明かりがあれば、知らない土地を進む事にも躊躇はない。
だがエルメニア人は、これと反対に夜に動く事を苦手にしている。
日の当たらない時間は、魔物が現れる時間で、危険なものと言う意識が擦り込まれていた。
だがアッタリアの兵士もエルメニアの国境に来る為には、広大な砂漠を進む必要があり危険もある。
多くの兵士が動けば水や食糧が必要で、水が少ない砂漠を馬で進むことも出来ないので、それを運ぶためにはまた人手がかかる。
ウルフレッドは、彼らの進む砂漠の中に魔力と振動で動く魔道具をいくつも置いておいた。
このバーナードが設計し、ウエストリアの魔工師達が作った魔道具は、振動が加わると“キーン”という頭が割れる様な音を出す。
アッタリアの兵が暗い砂漠を進むと、砂の上に落としていた魔道具にふれ、その度に音がでるので彼らはその魔道具を見つけて壊そうとする。
丸く小さな魔道具は、音を出しながら人々の間を転がり、アッタリアの兵をイライラさせ行軍を遅らせた。
またその魔道具は、砂漠にある岩山の上にも置いてあり、太陽が上がりアッタリア兵達が休んでいると、風に押されて岩山の上から転がりながら音を出し、やっと眠りについたアッタリア兵を叩き起こす。
小さな魔道具を壊してしまえばキーンという音も止まるが、やっと静かになると今度はブーンと虫の羽音によく似た音が聞こえて来る。
どうせ壊される魔道具を、バーナード達は廃材を使って作っていて、転がる間に壊れてしまい、本来の音を出さない物があったが、魔力が込められている為に道具が空回りして音を出した。
いつも魔道具を使っているエルメニア人なら気にもならない音だったが、この音にアッタリア人は悩まされた。
ブーンと言う小さな音は、砂漠にいる猛毒を持つ虫が出す音に似ている為、彼らはゆっくり眠っていられなくなる。
だが音が小さいので起きて探そうとすると、どこから聞こえて来るのか分からなくなった。
音を気にしながらも疲れて眠りに落ちそうになると、またどこかから頭が割れる様な音が聞こえてくる。
こうして妙な音に悩まされ、アッタリア兵は、ゆっくり休む事も出来ず国境近くまで進む事になった。
次にウルフレッドは、小さな水袋をヘステリアの荒野に沢山落としておいた。
砂漠に住むアッタリア人は、見つけたその小さな水袋に夢中になった。
薄い袋に入った水は、持ち歩く事が出来なかったが、踏むと冷たく良い香りがするので、兵士達は我先にと進み、水袋を見つけて踏み潰す。
千人の兵士が、行軍を守らず自由に動けば、足並みが乱れなかなか先に進めなくなる。
おまけに踏まれて弾けた水は、霧となってアッタリア兵の周りに広がっていく。
セルトは水を操るのを得意としていたので、小さな霧になった水を思うように動かして、進もうとするアッタリア人の道を閉ざした。
いくらアッタリア兵の夜目がきくとしても、獣のように真っ暗な中を自由に動ける訳ではない。
この人為的に作られた霧は、月明かりを遮った。
おまけにその霧の中に、エリスが作った雷電を起こす黄色の球体を紛れ込ませていた。
小さな球体がおこす雷電は、触れると人を不快にさせた。
アッタリア兵は、先に進もうとすれば霧で道を見失い、動かずにじっとしていても小さな球体に悩まされた。
おまけに少しでも孤立するとウエストリアの兵に攻撃される。
既に砂漠で行軍が遅れ、ゆっくり眠る事が出来なかったアッタリア兵は、渓谷の手前でウルフレッドを見つけると、何も考えずに真っ直ぐに進んできた。
彼の後ろには数人の騎士しかおらず、彼らを倒し渓谷を抜ける事が出来れば、豊かな土地を手に入れる事が出来る。
アッタリア兵が勝利を確信し雄叫びをあげた時、自分達を真っ赤な炎が襲って来た。
明るい陽の光の下、金色に輝く髪と赤く澄んだ瞳を持った男が笑いながら、いくつもの炎を自分達に向けて放つ。
彼の放つ炎は、まるで生き物のように、アッタリアの兵士を襲ってきた。
またその炎は、何故かアッタリア兵の武器や鉄で出来た武具がよく燃えた。
木で作られた弓や矢は鏃を残して灰になり、槍は、穂先だけを残して消えてしまう。
鉄で出来た兜や鎧は、熱せられた様に熱くなり、武具を繋ぐ皮や紐まで焼け、身に付ける事され難しくなった。
そうして多くのアッタリア兵は、真っ赤になった武具を捨て、来た道を戻り始めた。
目の前の見た事もない赤い瞳は気味が悪く、彼の放つ炎は、どこまでも追いかけてくるので恐ろしかった。
おまけに剣を持ち、何とか彼に近づこうとすると、今まで散々嫌な思いをした金色の球体が襲って来る。
今までとは違い何倍もの威力になった金色の球体に襲われると、痺れて剣さえも握れなくなった。
結局、多くの武器を失い、熱せられた武具を捨てたアッタリア兵は砂漠に帰って行く事になった。
アッタリア人は交戦的な民族だったが、勝てないと思った戦を続けるほど愚かでは無かった。




