01 アッタリア
アッタリアは、国土の七割を砂漠に覆われた国だった。
国を治める王などは存在せず、国の西を流れるデルタ河の流域と、点在するいくつかの水場に部族が集まり暮らしている。
水場を巡って部族同士が争い、部族の優劣を武力で決めるため、アッタリア人は交戦的な民族だと言われていた。
だが国は豊かだった。
デルタ河の周辺は肥沃な大地で、作物はよく実り、砂漠と呼ばれる土地では鉄や色々な宝石を取る事が出来た。
それ故、エルメニアの商人達は、鉄や宝石類を手に入れるため、アトラリアの海を渡って商売を盛んに行っていた。
アッタリアの人々も、日々の生活で使う日用品や武具程度の物は作ったが、手の込んだ宝飾品や細工物を作る技術を持たず、それらをエルメニアから手に入れる事を望んでいた。
ウエストリアとは砂漠を挟んで国境を接していたが、デルタ河流域とウエストリアの間には、砂漠が広がっていた為、アッタリアの中心に住む人々がエルメニアに攻めて来る事は無かった。
エルメニアと国境から近い水場にすむ"ドハ"、"クズリ"、"サウロ"と呼ばれた部族だけが、何度も水を求めてウエストリア領にやって来る。
これらの部族はお互いを牽制しているため、ウエストリアに攻めて来るのは、部族の中から数百人程度の戦士が選ばれて来ていた。
だが数で多少の優位がアッタリアにあっても、それは魔力を持つエルメニア人を脅かす物では無かった。
「数が多いね」
「部族の戦士をほとんど連れて来るつもりなのか?」
「お互いに牽制する必要が無いなら、そうなるだろうね」
「どうして急に?」
「父上が亡くなった事が関係しているのかな?」
「だからと言って、、、」
「ウエストリアの領主が若造だと言う事も、誰かが知らせたのだろうね」
「ダメルの奴か!?」
「そんなに嫌われる覚えは無いのだけどね」
ダメルは、数年前ウエストリア家から約定を破棄されたゼネルト家の息子で、異母妹がカストリア家に嫁いだのを利用し、ウエストリア領に戻ろうとした。
「お前も程々にしておけば良いものを、、、」
「オルグ、自業自得と言う言葉を知らないのかい?」
「その言葉を知っているような男では無いだろ」
「なるほど、、、その事を忘れていたよ」
だがカストリア家の援助を受けられないと知ると、今度は王都の評議院に申し立てた。
異母妹の二重籍の問題や、その婚姻による権利などを、王都の評議院に訴えたダメルは、結局、ウルフレッドとの争いに負け、貴族社会で受け入れて貰えなくなっていた。
「領主が代わればとでも思っているのか?」
「さぁね、人の思惑と言うのは一つでは無いものだよ」
「ん?」
「まぁ、前回"サウロ族 "が攻めて来た時から十四年だ。どちらにしても、そろそろ動き出す頃だったさ」
「それで影をアッタリアに送っていたのか?」
「どうせなら一度に終わらせた方がいいからね」
「お前、何をしたんだ」
「特別な事は何もしていないよ? ウエストリアの新しい領主は、まだ二十歳を過ぎたばかりの子どもだとか、戦の経験が無い若造だとか、本当の事を教えてあげただけさ」
「それで若造相手なら勝てると、部族同士が手を結んだからこんな事になっているんだろう!」
「何度も来られるより、効率がいいだろう?」
「お前なぁ、このままだと千を超える戦士が来る事になるぞ」
「そうだね」
「こっちは、せいぜい二百人だ。王都から兵を送って貰うつもりなのか?」
「そんな必要は無いよ、兵がいなくても僕には時間があるからね」
「ウル」
「大丈夫だよ、僕は戦上手なんだ」
「戦なんてした事無いだろ?」
「頭の中では何度もしているさ、それに僕は悪巧みが得意いだからね、知っているだろう?」
「その点は、心配していないよ」
「ありがとう。只、残念ながら僕は砂漠に入った事が無いからね、、、これからオルグはちょっと忙しくなるよ?」
「なんだ、砂漠の地図でも作るのか?」
「話が早くて助かるよ、今ある地図では心もとないね」
「そんなに詳細な砂漠の地図を使うのか?」
「情報は多い方がいいからね」
「分かった。雨期の今ならアッタリア人は水場を離れない、今の間に調べておくよ」
「ありがとう、ついでにちょっとした魔道具を仕掛けて来て欲しいね」
「まさか砂漠で戦うつもりなのか?」
「敵の陣地にわざわざ出かけて行くつもりは無いよ」
「どうするつもりなんだ」
「ただ、せっかく遠い所まで来てくれるんだからね、その間に何もしないでいるつもりが無いだけさ」
ウエストリアはアッタリアと、国境にある"ヘステリアの荒野"や"ミスリルの渓谷"と呼ばれる場所で戦っていた。
決して砂漠に入ること無く、敵が攻めて来るので、それを排除するためだけに戦う。
何百もの兵が砂漠を越える為には、食糧や何より水が必要だった。
兵糧が無くなればアッタリア兵は引いて行く、戰慣れした彼らは引き際を間違える事も無かった。




