02 外民
エリスは王都の籍を持つが、王都の中に住む事の出来ない外民と呼ばれる者の一人だった。
二十年以上前に即位したイズル王は、増え過ぎた王都の民に住む所を与える為、王都に二つ目の城壁を作った。
この外壁と呼ばれる壁を作る仕事に従事した者は、その仕事の報酬と共に王都の永続的な籍を得る事ができ、エリスの父は、壁を作っていた人々を守る剣士の仕事をしてその籍を得た。
エルメニアの貴族達は、王室に納税の義務を持たない。
但し、王都に住む者は貴族も平民も税を支払う必要があり、貴族達は国の政治に関わる為に、王都に住む必要がある。
とは言え政で役職を得れば報酬が支払われるし、高い地位に就けば、王都に住むだけの意味もあり、何より貴族社会で認められる為には、王都で生活する必要があった。
その為、貴族は一年の約半分を王都で過ごし、残りの半分を領地で過ごすのが平均的な生活になっていて、その貴族達の為に多くの人々が王都に住む事になり、そこから得る税が王室の収入になる。
イズル王の時代、困窮した王室の財政を救うためにも、手狭になりつつあった王都を広げ、住民を増やす事は理にかなっていた。
そして十年以上の年月をかけて城壁は作られた。
イズル王とその側近達によって始められたこの事業は、目的通り多くの人を王都に呼び寄せる結果になった。
多くの費用と人手を使ってそれらは成されたが、この城壁を作る費用は貴族達の負担となった。
それは永続的な納税の義務を負うより、一時的な費用を負担する方が、貴族達にも都合が良いように思えた。
貴族達に義務として課されたものは、始まりは僅かだったが、事業が進むにつれ負担は大きくなり、中には税の代わりに人手を王都に送る様になり、領民を養えなくなった領主の元を離れ、自分から王都にやって来る者達も増えて行った。
壁を作っている間は良かった。
人々が集まり、外壁の周りにはいくつもの集落ができ、それに伴って色々な商売が生まれ、エリスの父も壁が無い間は、魔物から人々を守る剣士の仕事にも恵まれた。
だが壁が出来上がった時、状況は全く変わってしまった。
城壁の守りは王都の騎士達が行うようになり、外壁の周辺にあった集落は排除されるようになった。
王都の籍を与えられていても、それは王都に住むための税を免除されるようなものでは無かった。
それ故、多少の報酬を貰っていても、そこに集まっていた人々の多くは貯えなどを持たず、王都の中で暮らすための税を払える様な者は少なかった。
結局、王都の籍を持ちながら、王都で暮らす事が出来ない者達は、外民と呼ばれていた。
外民は王都の周辺に現れる魔物を狩ったり、王都を訪れる貴族や商人達の護衛を引き受けたりしながら生活する。
エリスも父と共に王都の外で暮らし、父が亡くなった後は、篝火小屋の手伝いなどをしながら生きていた。
幸いエリスには魔力があったし、父が残した物もあったので飢える事は無かった。
だが大きくなるにつれ外壁の外にいる人々は減り、集落は段々と消えて行った。
生きていく為には、どこかの商隊にでも雇って貰うか、野党にでもなるしかないと思っていた時、師匠に会った。
出会った頃を思い出す。
下働きと言ってもその家には人も少なく、それ程やる事もないので何か仕事がしたいと師匠に話した事がある。
「まずお前は食べる事が仕事だな」
「でも、、、」
「マルタの飯は美味いだろう?」
「うん!」
「あれはここを作った時に屋敷から来て貰ったんだ、やっと人が増えて喜んでいるからなしっかり食べろよ」
「分かった」
「僕の弟子がこんなに細くては話にならん」
「僕は元々あまり大きく無いんだ、、、だから魔力も上手く使えない」
「そう言えば、魔具では無く魔鉱石を使っていたな」
魔力を使う場合、武具の形をした魔具を使用する場合が多い。
魔具を使った方が、どういった形で魔力を使うか明確にする事ができるからで、魔具を使わないと魔力をコントロールするのが難しい。
「親父が剣士だったからさ、剣があったんだけど、、、僕は上手く使えなかったんだ。だから魔鉱石だけ剣から取って使ってる」
「面白いな、実を落としていたのは“風切り”だろう? 他に何が出来る」
「火炎が少し、、、後は使った事が無いから分からない」
そう言って持っていた魔鉱石を師匠に預かって欲しいと渡す。
「お前の親父は、炎刃を使っていただろう?」
「うん、でもどうして分かるの?」
「この魔鉱石は、炎刃を使うのに向いている物だからな」
「そうなんだ」
「お前が使うには向いていないな、私がエリスにあった魔具を作ってやろう。それまでしっかり飯を食って大きくなれよ」
「僕にあった?」
「しばらく時間がかかるだろうが、、、まぁ急ぐ必要はない、ゆっくり待っていろ」
「分かった」
どうせ暫く魔力を使うなと言われているので魔具などは必要ない。
うっかり魔力を使って、師匠との約束を守れない方がエリスにとっては問題なのだから、魔具など欲しいとは全く思わない。




