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01 出会い

 初めて会ったのは、“ヘルテ”の木の下だった。


「それは止めておけ」


 いきなり後ろから声をかけられ、びっくりして振返ると、いたずらっぽい緋色の瞳が、笑いながら顔を近づけて話しかける。


「ほら、もっと上にある、あの紫色になったのにしろ」

「あれはダメだよ、苦いんだ」

「大丈夫だ、薄紫の大きなやつだ。ほら、やってみろ」


 知らない人が五月蠅い。


 王都の近郊、見たこともない青年に話しかけられる。


 “ヘルテ”は王都の外壁の外にある実のなる木だが、緑色の実は渋く、紫色に熟れると苦くなる。

 おかげで誰にも食べられる事もなく、王都の城壁から少し離れるといくらでも取る事が出来た。


 熟れた実はさすがに食べる事が出来ないが、渋い実はなんとか食べる事が出来たので、エリスはお腹が空くと時々取りに来ていた。


『知らないぞ』


 そう思いながら左手の石を握り、魔力を使って実を落とす。


 声を掛けて来た青年は、落ちてきた実を受け止めると、半分に割って片方を自分に渡してくれる。


「ほら」


 実からは美味しそうな匂いがしているが、一度嫌な思いをしているので口に入れる気にならない。

 隣の青年は美味しそうに食べ終わると、新しい実を自分で落としてまた食べている。


「どうして?」


 覚悟して食べたヘルテの実は、サクサクとして甘かった。


「前に食べたときは、苦かったのに、、、」

「それは熟れすぎだ。実の堅い薄紫色になったばかりの実を狙え、美味いだろう? 忘れるなよ」


 二つ目の実を食べ終わると、そう言って頭を撫ぜ、くぎを刺す。


「だがこれでは腹はふくれんな。よし、飯を食べに行こう」


 その人がスタスタ王都の方に歩いて行くので、驚いてそのまま見ていると、早く来いと呼ばれるので、そのまま王都の中に入る。


 いつもは自分など城門を通さない衛兵も、彼が自分の通行料を支払ってくれたらしく何も言わない。


「王都の中に入るのは初めてか? ほら、遅れるなよ」


 城門の中に入るのは初めてで、キョロキョロしていると歩きながら話しかけられる。

 

 一緒に歩いている間に、エリスと言う名前や歳、親は既にいないことや、いつもは城壁外にある“篝火小屋”にいる事を話す。


 知らない人間を警戒するべきだと思っても、なぜかその人にそんな気持ちを持つ事ができないでいると、王都の第二層にある赤い屋根の家に連れて行かれた。


 そこで食べたスープとパンが生涯で一番美味しかった。


「お前、親が居ないのならここで下働きをする気は無いか?」

「え?」


 必死で食べていると話しかけられる。


「楽な仕事では無いが、寝る所と食べる事には困らない」

「ここで暮して良いって事?」


「守って貰う事はあるな、私とエリスの約束になる」

「何を守ればいいの?」


「そうだなあ、マルタの言う事を必ず守る事。

 それから、私が良いと言うまで決して魔力を使わない事。

 最後に、15歳になるまでは必ずこの家で暮らす事。どうだ、守れそうか?」


 こちらをまっすぐに見て話を続ける。


「エリスがこの約束を必ず守る事が出来るなら、私はお前のここでの生活を保証しよう」


 約束は約定の一つだ。

 双方の意思で結ばれた約定には意味が生まれる。


 自分がいくら子どもで、正式な約定を結ぶことが出来なくても、安易な約束は危険だと知っている。

 それでもこの人の側に居るのは居心地が良かった。


「分かった、約束する」

「よし、約束だ」


 右手を差し出されるので自分も右手を出して握手した後、その人が部屋に入って来た別の青年に声をかける。


「ライオネル、紹介するよ、僕の弟子だ」

「貴方のですか?」

「そう、僕の」


 ライオネルと呼ばれた人が、呆れた顔をする。


「エリス、僕の事は師匠と呼んでいいよ。君は弟子だからね」

「師匠?」

「そう、魔力の使い方を教える先生だね」


 彼が楽しそうに話す。


「でも魔力は使うなって」

「まあね、お前は、12歳にしては体が小さ過ぎる、まず体力を付けないとね」


 そう言った後、頭を乱暴に撫でる。


「しばらくはしっかり食べて良く寝る事だ、私がいない間も忘れるなよ」


 そうしてそこでの生活が始まる事になった。


 食事のマナーから、文字の読み書きまで、忙しいその人は、時々やって来ては色んな事を教えてくれた。

 父のように、兄のように、陽気で厳しく、そしてとても優しいその人に弟子と呼ばれるのは嬉しかった。


 三年近くそこで暮して15歳になった時、王都からウエストリア領に来ないかと言われ、自分の師であったその人が、西方辺境伯その人だと気が付いた。


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