03 船の上(1)
「いい気分だ」
日差しの強いミリオネアなら、フードを深く被っていても違和感が無いので、ウルフレッドは、船に乗ってから瞳を覆う布ではなく、フードを被るようになっていた。
それにエルメニアでは何処にいても目立つ緋色の瞳を持った彼がいても、船の上の人達は、余り気にしていない様に見える。
ミリオネアは精霊達に守られた平和な国で、エルメニアやアッタリアと細々と交易はしても、帝国とは違い他国の人間に干渉する様な国でも無かった。
「ミリオネアでも魔力は使えないの?」
帝国では、これが一番大変だった。
エルメニアでは、魔力を全く持たない人の方が珍しい。
魔力量の違いはあっても、平民でも普通に魔力を使っている。
だが帝国では魔力自体が無いので、今まで簡単に出来た事が出来なかったり間違えたりする。
また、そうした事で、他国の人間だと知られる可能性もあるので、気を抜く事も出来なかった。
「兄上は大丈夫だと言っていたぞ、只、魔道具みたいなものは無いので、魔力を精霊に与えて力を借りるらしいな」
「へぇ、ウルが自分以外から力を借りるなんて面白そうだ」
「郷にいれば郷に従うさ」
仕方ないと言う様に、ウルフレッドが答える。
「ミリオネアにどのくらいいるつもりなの?」
「俺達が入れる島は、決まっているらしいからな」
「長く滞在は出来ないのかな」
「宿屋の様なものが無いらしいぞ」
「ミリオネアの人達は、どうしてるの?」
「知人の家に泊まるらしいな」
「じゃぁ、僕達も?」
「あゝ、船長の家に留まる事になる」
「確かにそれでは長い滞在は難しいね」
「そうだな、出来ればアッタリアの方にも行ってみたいが、、、、、、」
「アッタリアでは、ウルの事を知られる訳にはいかないよ」
ウエストリアは、アッタリアと砂漠を挟んで接していて、過去に何度も戦った事がある。
アッタリア人なら、緋色の瞳の事は当然知っているだろうし、見つかった場合、帝国とアッタリアでは危険度が違い過ぎる。
「分かっているさ、まずミリオネアに着いてから考える」
「分かった」
甲板に足を投げたし、ダラダラしているウルフレッドの横で一緒に寝転がる。
「不思議なものだな」
「この船の事?」
「あゝ、魔力とは違う別の力で動いている」
「それが精霊の力なんだよね?」
「精霊と言われても、見えないものだからな」
「信じられない?」
「そう言う訳では無いが、、、」
「目に見えるものが全てでは無い、、、よく自分が言っているじゃないか」
「そうだったな」
「それに前に乗った船より、ずっと乗り心地がいいよ」
「オルは船が苦手だな」
「こんな不安定な乗り物を、好きになる人の気持ちが分からないね」
「バードは気に入ったみたいだぞ」
「船を気に入るのは良いけど、造りたいって言い出さないで欲しいな」
サクストールから戻った時、バーナード達は既にウエストリアに帰っていて、ライオネルからその知らせが届いていた。
どうやらイルネラの街で、ゼムと"守りの魔道具"を作ろうとしているらしい。
「しばらくは頼んだ魔道具作りに専念するだろうが、終わったら色々言われそうだなぁ」
「ウルがバードを船に乗せるから」
ウエストリアでは、船を必要としていない。
バーナードが外の世界に興味を持ってくれたのは良かったが、どうやらその興味が船に向いているらしい。
船を作る費用や人手は、簡単に用意出来るものでは無いし、無駄になると分かっている造船を、領主が許す訳にもいかない。
「仕方ないだろ? アイツが強く惹かれそうな物が必要だったんだ」
「知らないよ、造船なんて話になったら、セリス様に絶対怒られるからね」
「分かってる、それまでに何か考えるさ」
半年前、帝国に行く船に乗った時とは違い、甲板で寛ぎながら話を続ける。
あの時とは、乗っている船も自分の気持ちも全く違うので、オルグは船酔いする事もなく落ち着いていた。
「気分も悪くないみたいだな」
帝国に行く時は酷い状態だったので、ウルフレッドが安心した顔をする。
「この船の"精霊使い"は、優秀な人みたいだからね」
「あのリュート弾きだろ?」
「そうらしいね」
「確かに演奏は見事だな」
この船を選んだのも、ミリオネアに一番早く着くと言われていたからでもあった。
つまり船に乗っている"精霊使い"が、優秀だと言う事になる。
「不思議な感じだよね」
「不思議?」
「うん、ちょっと他の人と違う感じがするんだけど、、、海の上だからかな良く分からないや」
オルグは、地の魔力に秀でているので、地上にある物は何でも感じ事が出来るし、魔力を持っているものなら、それがどんな物なのかはっきり見分ける事も可能だった。
「オルが分からないと言うのは珍しいな」
「波で揺れてるからだよ」
「俺にはよく分からないが、確かに気になる事はあるんだよな」
「船の上で、面倒事はダメだよ」
「面倒を起こすとは言ってない、気になっている事を確かめるだけだ」
ウルの瞳が楽しそうに輝き出す。
こんな顔をした彼を止める事は、絶対に出来ない。




