02 ガリウス
「なぁ、昨日の銀貨は使えたか?」
「またお前か」
「まだあるんだ、使えたなら交換してくれよ」
「これはダメだ」
「ダメ?」
「これはガネイ銀貨と言って、エルメニアの銀貨では無いからな、いくら貴族でも使えば捕まる」
「知ってたのか?」
「調べれば分かる」
「ちぇ、使えないのかよ」
「だが、交換所に持っていけばエルメニア銀貨と変えて貰えるぞ」
「本当か?」
「銀には違いないからな。只、含まれている銀の量も少ないし、鋳造し直す必要があるからガネイ五枚でエルメニア銀貨一枚ってとこだろうな」
「五分の一かよ」
「どうせ海の中から拾ったものだろう」
「元手が無いからと言って、安く手放したら儲けが減るじゃないか」
「なるほどな」
「なぁ、いいのか?」
「何がだ」
「昨日交換して貰った銀貨だよ、使えないんだろ?」
「嫌だと言ったら買い戻してくれるのか?」
「あぁ、銀貨一枚の価値がないなら仕方がない」
少年がエルメニア銀貨をポケットの中から取り出して、ウルフレッドに差し出す。
「お前、面白いな」
「俺は全然面白くないよ、これで銀貨に交換出来れば、一儲け出来ると思ったのにさ」
「ふ~ん、では儲けてみろ」
「おれは商売人だぜ、偽物を本物だと言って売るつもりは無い」
「そうでは無い、俺はこの銀貨を気に入ってる」
「気に入ってる?」
「そうだ。ガネイ銀貨は古い物だし、細工も美しいからな、エルメニア銀貨と交換しても惜しくない」
「そうなのか?」
「あぁ」
「つまり銀貨としてでは無く、珍しいから欲しくなったという事か?」
「そうだ」
「エルメニア銀貨と交換するくらい、この銀貨って珍しいのか?」
「あぁ、それに古いものを身に付けていると良い事があると言うだろう?」
「分かった」
ウルフレッドと話していた少年が、納得したのかと思えば、今度はオルグの方を向いて話しかける。
「なぁ、あんたもこの銀貨を買わないか? 今ならエルメニア銀貨一枚にまけとくよ」
「最初から一銀貨だったと思うが、、、」
「これからは、“一銀貨と二十銅貨”にしようと思ってさ」
「ハハッ、負けたなオル」
「分かりました」
エルメニア銀貨を一枚渡して、ガネイ銀貨を一枚貰う。
確かにガネイ銀貨の細工は綺麗だが、オルグは物を集める趣味は無い。
どんな時でも自由に動けるように、なるべく身軽にしているため、保管箱さえ持ち歩かないのに財布に入れる事の出来ない銀貨など邪魔でしかない。
だが古いものを身に付けると、“良い事がある”以外にも“身を守る”とも言われているので、ウルフレッドが持っていろと言うなら仕方がない。
国を離れている間、オルグは食べ物が合わず体調を崩す事があって、それ以来、彼が気にしている事は知っている。
「銀貨に細工して、首から掛けられるようにすればいい」
こういう所は本当に細やかだと思うが、彼は『お前がいないと、俺が困るからだ』と言うに違いないので、好きに言わせていると、隣でまた少年に知恵を付けている。
「古い硬貨を磨くなよ」
「綺麗になった方がいいだろ?」
「古いものは、古く見えるからいいんだ」
「そんなものか?」
「あぁ」
「へぇ~、変わってんなぁ」
「それからガネイ金貨を持っているなら、人に知られるな」
「なぜ?」
「金貨の方は、銀貨よりずっと数が少ないし、エルメニア金貨以上の価値がある」
「そうなのか?」
「そう言った物を集めている者なら、高値で引き取るだろう」
「お前もか?」
「俺は興味が無いな。金貨になっても細工は変わらないと聞いているし、見てみたいとも欲しいとも思わん」
「金貨かぁ、俺が銀貨を見つけたのも偶然だったからなぁ」
「無理して海を探すなよ」
「分かってるよ、いくら金貨を見つけても、魔物に喰われてしまっては意味が無いからな」
そう言ったかと思うと、少年が礼を言って離れて行く。
「名前も聞かなかったね」
「あぁ」
「気に入っていたみたいなのに、、、」
「また会う事があるさ」
「まぁ、確かに、、、彼は商売の為なら、ウエストリアの屋敷にでも売り込みに来そうだ」
「次は何を持って来るか、楽しみになっただろう」
「僕に買わせようとしないなら、何を持って来てくれてもいいよ」
翌日、やっとミリオネア行きの船が決まって、ロートアの街を離れた。
オルグにガネイ銀貨を売りつけた少年は、後にガリウス商会の主となってウエストリアに来るようになった。
彼が来た時は、ウルフレッドと同席しないようになったので、あれ以来、彼に商品を売りつけられた事は無い。




