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07 ファーレン

 ミュールのイスレイン家に滞在して知った事は、ファーレンがとにかく女性に人気があると言う事だった。


 彼の名前は既にエルメニア一の剣の使い手だと知られていたし、その人がこの容姿で現れ、おまけにとても優しいとなると女性達が夢中になる気持ちも分かる。


「冗談じゃない、お前みたいな子猿をファーの相手に出来る訳が無いだろう」

「子猿って誰の事よ、私の名前はラミーネよ!」


「名前を呼んで欲しければ、せめてレディと呼ばれるくらい大きくなってから来い」

「何ですってぇ、私がレディでは無いと言いたいの?」

「こんな子猿をレディとは言わん」


 ウルフレッドとイスレイン家の令嬢であるラミーネ嬢の声が聞こえてくる。


「まぁぁ、何ですってぇぇ」

「それにレディは、こんな大声で騒いだりしない」


 イスレイン家に到着した日にラミーネ嬢からファーレンに婚約の申し込みがあり、その時からウルフレッドと彼女の言い争いは続いていた。


「ウルフ、大人気ないよ。まだ子どもじゃないか」

「だから子猿だと言っている」


「消えて頂戴! 私はファーレン様とお話をしているのよ、貴方には関係ない事だわ」

「残念だったな、ファーは俺の部下なんだから、サウストリアにやるつもりは無い!」


 あっちに行けと手を振るウルフレッドを制して、ファーレンがラミーネ嬢に話しかける。


「ラミーネ様、私はウエストリアに約束した相手がいます。残念ながらラミーネ様はイスレイン家を継がれる方と伺っておりますので、私との婚約は難しいと思われます」


「ファーレン様、ではその方とのお話が上手く行かなかったら、私と婚約して下さいますか?」

「絶対、ダメだ!」


「貴方となんか話をしていません!」

「ファーは昔から女難の気があるんだ。こんな所で、妙な子猿に捕まってたまるか」


 相変わらず横から声を出すウルフレッドを、またファーレンが制して答える。


「ではラミーネ様が10歳になってもまだ同じお気持ちなら、その時に考えましょう」

「まぁ、ありがとうございます。決して変わる事などありませんわ」


 ラミーネ嬢がファーレンの前で優雅に礼をして見せたかと思うと、ウルフレッドに向かっては思いっきり舌を出して去って行く。


「全く、お前は、、、」

「まだ、8歳の女の子だよ。気持ちなんて、これからいくらでも変わるよ」


「あの子猿が変わるもんか、後二年したら本当に婚約する羽目になるぞ」

「リリアナと正式に婚約しなければ、だろ?」


 ファーレンには、婚約の約束をした一つ年上の女性がいる。


「婚約する予定なんか無いだろ?」

「知ってるんだ」


「リーナが商人の息子と恋仲な事か? それとも、そろそろ家を出ようとしている事か?」

「家を出るつもりなのは知らなかったけど、、、ウルフは反対なの?」


「別に、、、大丈夫じゃないか? 元々リーナのダルト家は商売を主にしている家だし、あれはしっかりしているからな家を出ても問題無いだろ」

「良かったよ、ウルフが反対だと色々面倒だからね」


 貴族は、領主と約定を結んでいる。

 その家の子どもは、基本的にその約定を引き継ぐが、家から縁を切られた場合、直接領主と約定を結ぶ必要がある。


「俺に確約の力は無いぞ」

「セリス様に話してくれるだけでいいよ」


「リーナの結婚をお前が心配してどうする、仮にもお前の婚約者候補だろう?」

「だからだよ、幸せになって欲しいだろ?」

「全く、、、お前は」


「どう言う意味なの?」

「ん?」


「リリアナ・ダルトはファーと婚約の約束をしているのに、恋人を作って家出しようとしているって事なの?」

「違うな、元々リーナには商人の恋人がいたが、親の許しを貰えないからファーと婚約の約束をしたんだ」

「なぜ?」


「リーナは17歳になる。ファーとの約束があるから誰とも婚約の話が出ていないが、そうで無ければ他の誰かと婚約させられていたさ」


 男性は18歳くらいから、女性は16歳くらいから婚約する。


 単純に16歳では男性が騎士見習いをしている者もいるので相手を望む事が難しく、女性の年齢が早いのは、遅くなると売れ残っている様な印象になるからで、最初は婚約の約束だけして、双方がそれなりの年齢になってから正式に婚約する。


「歳下の相手が必要だったって事?」

「時間を稼ぐ為にな」

「でもファーと婚約出来るのに、他の男性を選ぶとは思えないなぁ」


「ファーに本気になる女性はいないぞ」

「失礼だなぁ」

「嘘では無いだろう? リーナとだって一緒にいたのに、結局、ふられた」


「ふられて無い。彼女には最初から別の相手が居たんだから、、、」

「こいつは誰にでも優しいからな」


「あぁ、確かに」

「自分だけを見て欲しい相手からは選ばれないさ」


 ファーレンは優しい、いつでも誰に対しても。


「そんな事無いと思うけど、、、」

「ファーにはちょっと強引なくらいの相手で無いと無理だろうな」


「なら、あの子は丁度良さそうだよね」

「あの子猿はダメだ」


「どうしてさ」

「ファーがサウストリアに来る事になったら、俺の剣の相手がいなくなる」


 ウルフレッドが勝手な事を言っている。

 だが確かにローエングルグ家の長子であるファーレンが、ウエストリアを離れるとは考えにくい。


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