09 国外へ
「それで、どこに行くって?」
「ちょっと帝国の方に行って来る」
「帝国? ミリオネアではなく?」
サウストリアに着いた時、エルメニアの外を見に行くつもりなのは聞いていた。
だが僅かではあっても交易のあるミリオネアではなく、大海と呼ばれる海の向こうにあるトラストニア大陸まで行くとは思っていなかった。
「ティジィスと話は出来ている」
「オルグと二人で行くつもりなの?」
「あぁ」
「“風使い”もいないのにどうするつもりさ」
トラストニア大陸にある“帝国”と呼ばれる国と国交は無い。
大陸の近くまでは船で行く事が出来ても、その後は人目に付かないように陸地に着かなければならない。
「行きはティジィスの者に運んで貰うさ、タガーは優秀な“波使い”だと聞いているからな」
「ティジィス家の嫡男だよね」
「あぁ」
「帰りはどうするつもりさ、波に乗るように押し出すのは出来ても引き寄せるのは難しいだろ?」
ウルフレッドが保管箱の中から小さな袋を取り出すと、その中から見慣れない魔具を取り出す。
「これをゼムに作って貰った」
「なにそれ」
「“風使い”の魔具だな」
「魔具? 変わった形をしてるけど、、、」
「ライの為に作って貰ったものだが、これなら俺にも何とか使えるし、魔具にも見えない」
「それなら僕も」
「お前はダメだ」
「どうして」
「お前がいると目立つ」
「そんなのウルフだって同じだろ?」
「俺はこの目さえ隠してしまえば知られる事は無い」
「そうかも知れないけど、、、」
「それに剣を持ち歩く訳にもいかないからな」
「セリス様も承知している事なんだよね?」
「当たり前だ、最近、王都に妙な奴らがウロウロしているみたいだからな、それについても調べて来たい」
今は帝国とサルストールの争いも落ち着いていると聞いているが、帝国には魔力を使えるエルメニア人を捕らえようと考える人は多い。
帝国の人間が大海を渡ってこちらに来ないのは、魔力を持たないため海の魔物を狩る事が出来ないからで、こちらから出かけて行く事は危険だった。
「どのくらい?」
「まぁ、半年だな、妙な事になりそうなら帰ってくるさ」
「分かったよ、バードとここに居ればいいんだね?」
「サウストリアは花が咲くと魔物が来なくなる。バードには色々見て欲しいからな、この時期は穏やかだし、街を色々回って来いよ」
「バードが、半年も我慢できるかな」
「船に乗せてみればいい、暫くは夢中になるだろ?」
「暫くはね」
「まぁ、何カ月も連れ出せるとは思っていないさ」
「連れ出すだけなら、こんな所まで来なくても良かったのに、、、」
「ウエストリアにいるより、この辺りの方が魔物も少ないからな」
ウルフレッドは、魔物が狩られる所を見るのさえ嫌いなバーナードの事を良く分かっている。
「外にいる間に、もう少し現実を見るように話をしてくれると助かる」
「バードに?」
「あゝ」
「魔具を作らせたい訳では無いんだよね?」
「そんな事は得意な奴がすればいい」
「現実的な魔道具ってことかぁ」
「外にいればお前と話す事も多くなるだろう? 俺は苦手だからな、上手く話してくれ」
「何を話せばいいかも分からないのに、、、」
ファーレンは魔道具や魔力の話は苦手なのに、バーナードに何を話せばいいのか見当もつかない。
「ライには話をしてあるから、戻るならドロテアからタルパスまで転移門で戻ればいい」
「分かったよ」
「ついでにお前は、あの子猿以外の相手を見つけておけよ」
「そんなに嫌いなの?」
「面倒事から逃げる為に、あの子猿と約束なんてしたら困るからな」
「あぁ」
10歳の少女と婚約の約束をしていれば、後六年は婚約だ、結婚だと言われないで済むので気が楽だと考えている事を読まれているらしい。
「別に面倒だと思っている訳ではないんだ、只、女の人って何を考えているか良く分からないんだよ」
「あの子猿もか?」
「あの子はまだ子どもだからね、表情も豊かで面白いと思うよ」
「嫌な予感がするなぁ」
「何の話だよ」
「お前、弟にしっかり剣を教えておけよ」
「教えているよ?」
「でもなぁ、ダリは考えている事が顔に出るからなぁ」
「だから何の話をしているのさ」
「お前がいなくなると、俺が面白く無いって話だ」
「勝手に追い出さないでよ」
「やっぱり嫌な予感がするなぁ」
ぶつぶつと言っているウルフレッド言葉の意味はよく分からないが、昔からどんな場所にいても不思議では無いような男なので、帝国に行っても紛れてしまうのだろう。
そう言った事の苦手な自分が、同行出来ないと言うのなら理解できる。
「気を付けてよ」
「俺の心配か?」
「少しはね」
「オルがいれば、誰も俺には近づけないぞ」
ウルフレッドの横にいるオルグが、そうだと言うように頷いているのが見える。
「それでもだよ、僕だって剣の相手がいなくなるのは嫌だからね」
「分かってる。ウルがいないと僕はこの国に帰れないからね、ちゃんと連れて帰るさ」
オルグが自分を安心させるように答える。
確かにオルグを国に帰すためになら、ウルフレッドは決して無茶な事はしないだろう。
彼のリグは本当に彼の事を良く分かっている。




