01 出会い
彼と初めて会ったのは、18歳になった頃だった。
セリス様に彼の所に行って欲しいと言われた時、ため息をついた事を覚えている。
『弟との所に行っては貰えないだろうか?』
『ウルフレッド様の所に、ですか?』
『そうだ、私が側に居られればいいが、王都をなかなか離れられなくてね、色々面倒を見てやって欲しい』
『私でお役に立てるでしょうか?』
『それは大丈夫だよ、少し手がかかるかも知れないが、、、よろしく頼むよ』
『かしこまりました』
領主の長子であるセリス様は、エルメニアで良く知られていた。
緋色の瞳を持たなくても、彼は強い魔力を持ち、次の領主に相応しいと認められてもいた。
その彼が弟の所に行けと言うなら、側近に選ばれたのだと分かったが、これで次の領主に仕える可能性も無くなったのだと残念にも思った。
既に王都で認められているセリス様と違い、この緋色の瞳を持つ弟の事は余り知られていない。
ほとんどウエストリアの屋敷を離れ無い彼について知っていると言えば、ウエストリア領主の証である緋色の瞳を持っている事と、“森の落し子”が一緒に育てられている事くらいだ。
「子どものお守りだな」
8歳にもならない子どもならそんなものだろうと甘く見て、ウエストリアの屋敷に着き、それが間違いであった事を彼に会って思い知らされた。
「はじめまして」
領主の前でにっこりと笑った少年は、いかにも育ちの良い子どもで、王都にいるセリス様が気にかけるのも理解出来た。
選ばれたならしっかり務めを果たそう、次男と言えウエストリア領は広く、今の様に長男であるセリス様が王都で政を、次男である彼が領地を管理する可能性もある。
それなら自分もしっかりしなくては、、、そう思っていると彼に話しかけられる。
「ライオネル殿は、なぜ此処に来られたのですか?」
「セリス様より、お側にいる様に申しつかりました。明日からよろしくお願いいたします」
既に父である領主は席を外していて、彼と側にいるリグらしき少年に頭を下げると、今度はえらく口調の違う話し声が聞こえてくる。
「側にか、、、オルどう思う?」
「無理」
「まぁ、そうだよな」
何の話だ? そう思い顔を上げると、先程とは全く様子の違う子どもが、ニッと笑いながら言い放った。
「側にいると言うなら、明日からしっかりついて来いよ」
自分が考えていたのは、剣の指導や学問の手助け、時には子どものいたずらを注意して、、、その程度の考えだったが、その日から毎日、彼らについて行くと言うより、引きずり回される日々が始まった。
翌日、食事場に行くと、赤茶と灰色に髪を染めた二人が待っていた。
「お前、遅いなぁ、今日は待っていたが、明日からは無いぞ」
早く飯を食えと言われ、訳も分からず食事を終えると待ちくたびれたと言う様に、二人が席を立ち外に出る。
そしてその時から、この二人はじっとしている事が片時も無かった。
屋敷の周囲から川の上流や森の中まで歩き回るので、結局、付いて行けず屋敷に戻ると、今度は何時まで経っても彼らが戻って来ない。
屋敷の騎士達は平気な顔をしているが、仮にも領主の息子なのに、日が暮れるまで外にいるのを許していいのか不安になった頃、顔を煤で汚した二人が戻って来た。
「この様な時間まで、どこに行っておられたのです」
「知りたければ付いて来い」
彼にそう言われ、腹が立つのでなるべく身軽にし、次の日から彼らに付いて歩くが、こちらとは体力が違っていて話にならない。
ひと月経つ頃、やっと数時間行動を共にする事が出来るようになったが、彼等が森に入って行くと、そこで森に入れない自分の追随は終了となる。
これではどうにもならないと、また森に入って行こうとするので声をかける。
「ここにいますので、必ずこの場所に戻って来てください」
「ん?」
「私は森の中に入ることを許されていないので、付いて来いと言うなら、その程度譲歩して下さい」
「分かった、森から出る時はここに帰って来る」
「お願いします」
そのまま森の中に消えて行く二人を見送り、近くに座り込んで待っていると、昼メシを食べ終わる頃に戻ってくる。
これでこの後も何をしているのか知る事が出来ると安心していると、指笛を吹いて野生馬を呼んだかと思えば、その裸馬に乗り、
「明日からは馬に乗って来いよ」
そう言い残して走り出す。
『やられた』
聞いた事には返事をするし、無視する様な事はしないが、聞かれない事を教えてくれる程優しくも無い。
8歳の子どもの側にいる事が、これほど大変だと想像する事が出来ただろうか?
この一か月、屋敷の主人も騎士達も放置しているのだから止めてしまおうか?
どこに行っているのか分からないが、夕方には必ず戻って来るので、屋敷の者達も全く気にしていないのに、付いて歩く事に何の意味があるのだろう?
何度も悩んだが、このまま十も年下の子どもに付いて来る事も出来ないのかと思われるのが悔しくて、翌日、今度は馬を用意して待っていると、彼が笑って川上に行くと走りだした。




