08 討伐
「何だ、これ」
明らかに前日までと魔物の様子が違っている。
魔物が強くなっているのか、今までとは比べ物にならないくらいこちらの魔力も消費しなくてはならない。
彼は、多くの騎士や契約者達には街に入ろうとする魔物を狩るように命じ、数人の者を引き連れ森の奥の洞窟に来ていた。
「オル、どっちだ」
「左」
「次は真っ直ぐ」
彼は魔物がいる洞窟の中を黒髪のリグが指し示す方に、躊躇する事なく進んで行く。
「どこまで行くんだ」
「原因のいる所までに決まっているだろ」
「原因って何だよ」
「伝説の生き物」
「伝説って、ドラゴンとか言うなよな」
「へぇ、それは知っているのか?」
「ちょっと待て、説明しろ」
「戻ったら説明してやる」
くそ!
戻ったら絶対一発殴ってやる。
「ウル」
リグの声が聞こえた時、暗い洞窟が終わり、目の前に大きな空洞が広がるったかと思うと、その真ん中には、羽を広げ今にも上空に飛びあがろうとする伝説の生き物がいる。
「周囲の魔物だけでも手一杯なのに、ドラゴンなんてどうするつもりなんだ」
「お前、二人を守れよ。後は俺が何とかする」
そう言いながら目を覆っていた布を外すと美しい赤い瞳が現れる。
「お前、見えるのか?」
「ハハッ、やっぱりお前は面白いな。この目の色を見ても気になるのはそこなのか?」
そう言って左手の火炎から放たれた炎が複数に分かれ、その辺りにいた魔物を狩ってしまう。
「ライ、上に飛ばせないようにだけしてくれ」
「分かりました」
そこからは凄まじかった。
彼の剣や火炎の魔具から放たれる炎は、今までと違い透き通るような赤い色で、威力も格段に違う。
あっという間に数十、数百の魔物が狩られるのを見て、これが彼の本来の力なのだと知ると同時に彼の言葉を思いだす。
瞳の色。
鮮やかな緋色。
ウエストリアの緋色。
ウエストリアの領主には、相続の証である緋色の瞳を持った次男がいたはずだった。
歳の離れた優秀な兄とは違い、王都に来る事も出来ないくらいの弟。
出来損ない。
無能者。
見込みの無い者。
クリンのいた領地でも何度か耳にした事がある、それが彼の世間での評判だった。
だが、その評判さえも彼を本人で間違い無いだろうと思わせた。
彼は他人からの評価など気にも止めないだろう。
それどころか、それらの評価でさえ彼の意図したものでは無いだろうかと思えるくらいには、彼の事を知るようになっていた。
周囲の魔物を火炎で狩りながら、剣でドラゴンと戦い、その場を制してしまった彼に話しかける。
「終わったのか?」
「一応な」
「一応?」
「不死の者を狩る事は出来ない」
「どう言う事だよ」
「しばらく眠ったのさ、傷を癒す間は動く事が出来ないからな。また百年くらいは大人しくしているさ」
「その為にここにいたのか?」
「それが役目だ」
要するにこの男は、この時の為に此処に来ていて、俺はそれまでの時間の暇潰しになっていた訳だ。
確かに世話になったと思うし、おかげで王都に行く費用を得ることが出来たかもしれないが、、、
「なぁ」
「なんだ」
「一発殴ってもいいか?」
「止めておけ、ここに来ているのは、ウエストリアの騎士なんだ。あいつらの目の前で俺に手を出してみろ、無事では済まないぞ」
「それでもスッキリするかもしれないだろう」
「スッキリなら別の所でさせてやる。とりあえず戻るぞ、外を手伝ってやらねばならん」
「外?」
「オルのおかげで奴が外に出るまえに眠らせる事が出来たが、外は魔物で溢れているはずだ」
ここに来るまでに魔力のほとんどを使っているのに、ここから戻って魔物を相手に出来るとは思えない。
「俺はそろそろ限界だぞ」
「まだ大丈夫だ、限界まで魔力を使って枯渇するとスッキリするぞ、黒曜石や回復薬もあるから遠慮なく使え」
冗談じゃない、そんなスッキリが欲しかった訳ではない。
やっぱり一度こいつを殴った方がいい様な気がして来る。




