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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
最終章:勇者一行と大陸の夜明け

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第十九話:神魔大戦(Lv.1)




「……ぬ、ぅ―――明けた……か」



 長く苦しい戦いだった。


 自室での目覚めの、どれ程有り難い事か。

 余程疲れていたのか、窓の外の陽も既に高い所にのぼっている事が分かり。


 ………。

 まさに、完全に真っ白に燃え尽きた―――その一言に尽きるだろう。

 今だからこそ改めて思う……嫁が50人以上いるサーガってマジで化け物だったんだな。

 どうなってんだアイツの体構造。


 そのレベルになると羨ましくもなんともないどころか恐怖の対象。 

 地獄の鬼の意味が変わってくるわ。

 本当に死ぬかと思ったし……健全に生きてるってホント素晴らしいよな。

 五体満足の健康体に乾杯。



「……………」



 が……、そろそろ現実を直視しなければならないだろう。

 燃え尽きた筈の俺より余程真っ白なお肌……ひんやりとした体温。

 果たして、今朝は一体だれが死に体の俺の寝床になど潜り込んできたのかと、疲弊した頭で―――。



「シレモノ」



 あ、やっぱ死んだかも。



「お……おはよう、シオ―――いえ、陛下。本日もお美しくご機嫌麗し……」

「……………」

「くはないですね、申し訳ございません」



 どうやら初手ミスったっぽい。

 気安く読んだら○すぞってオーラが来たので急いで臣下モード―――でもダメらしい。

 女心は読めないというが、それが最強魔王となれば猶更だ。



「オオバカモノ」

「あ、もしかしてキョクトウミニマオウ―――」

「……………」

「じゃないですねすみません」



 小粋なジョーク、通用せず。

 けど実際小動物なんだよ。

 今まさにコアラの子供のように俺の腹の上にしがみつきこちらを睨みつけているミニマム魔王。

 そのお腹はポッコリと。

 思わず撫でようとして―――払いのけられ、シャーと威嚇。

 そのまま小動物は何やら鼻をひくつかせて俺の匂いを……匂い?



「女の……、雌の匂いがするの」

「……………」



 殺される……俺、殺される……!



「ここ数日は随分と楽しんでおったようじゃの。流石は英雄、女は孕ませればそれで用済みか? 一山いくらで測れるものか……、フン」

「ぐ……、ぬ……ぐくッ」



 気のきいたセリフの一つも言えればよかったが、マジでなーーんも言い返せねぇ。

 俺が自分の意思で遊び歩いてたのは事実な上に、しっかりやる事やり尽くして連日真夜中に帰宅してきたのも事実。

 嫉妬の炎などと言うが、魔王が本気を出せば七日と掛からず世界は火の海に包まれ大多数の生命は絶滅するだろう。

 滅びるかどうかはまさに今この俺に掛かっている。



「常日頃から騎士だの余の為であればなぞほざいているのはやはり出まかせか。白の暴君の所為で自室からも出られなくなった妻を置いて一人酒池肉林食べ放題。柔肌の温かさに微睡んでいたそなたは余がどれ程孤独を感じていたかも想像しなかったであろうな、痴れ者めが」

「……………」

「何とか言ってみい。男としての価値を永遠に喪失させてやる」



 やっべぇアホほど怒ってる―――おぉ神よ。

 神さま仏様……この状況から助け出してくださるのなら信仰でも何でもしますのでどうかどうか―――。



「眷属」

「―――帰れ!」

「呼んだのラグナ」



 救いの神は呼んだが、俺の財布を芥子屑にする事が生き甲斐の邪神は呼んでねぇ。

 勝手に入ってくんな。 



「助けてあげる。死んだら眷属になって」



 死んだらってか殺されそうなんだけど。

 見て分かんない?



「これは主従の問題じゃ。腹ペコ娘は適当に石でも齧っておれ。それとも余に喧嘩を売っておるのか? 神の分霊如きが」

「言葉が強い、魔王。たった数千年生きた程度の娘が生意気」

「ふん、それ以外を誇れぬものが年月などに頼る。そして言うまでもない事じゃがこれは余の所有物じゃ。髪一本、血液一滴くれてやるものかよ」

「ふこーへーー」

「道理も道理。叡智の神がそんな当然の事実も分からぬか」



 なんだこの状況。

 なんだって俺の根城でミニミニ神魔大戦なんか起きてる。



「大地に生きる定命なら神を崇めるべき」

「思ってもおらん虚言を吐くな。単なる信仰心でそなたの腹が膨れるものかよ」

「魔王だって食いしん坊」

「そなたには負けるわ」

「―――ふふん」

「やはり負けておらん」

「むむっ」



 ………。



「「ラグナ」」

「?」

「教えてやれ、そなたが誰のものか」

「天罰怖くない? わたしかみさま。すごくえらいね」



 二度寝してー……はぁ。



「ミル。すまないが、私の全ては主のモノだ。それはこの生とて、死したのちとて変わらない。私という個がある限り、魔王エリュシオンがある限り、私は彼女の所有物だ」

「むーー」

「膨れてもだめだ。はい、のびーる」

「むぃ~~」



 けど可愛いからほっぺモチモチしちゃう、悔しい。

 怒れる神とは逆に、魔王さまは「むふぅーー」と上機嫌。

 神に勝った事実が嬉しいらしい、流石魔王―――ご機嫌に切り替わったところでこちらもほっぺたモチモチ。


 二人共、本当によく伸びる事。

 だが結果的に魔王が上機嫌になってくれたな。

 ある意味では助かったか―――にしても伸びる伸びる。



「……こ奴、伸びるの」

「えぇ、溶けたチーズより余程」

「ふぁい、ふぁふぁ……。振られた神で遊ぶダメ」

「悔しかったら本体(おや)の一つでも連れてくると良い、駄神が」

「親機? ―――ラグナ」

「ダメだ」

「お焼き。チーズ入ったの。それで手を打つ」



 無視だ無視。

 今は色々と入用かつ金欠でな。



「むーー……! 勇者生まれさせて討伐させに来る?」

「たち悪!?」



 んな理由で加護与えられる勇者の身になってみろ駄女神。


 成程、この端末であるミルの存在は特例中の特例であり、六大神は既にこの世界に干渉する事を自らに禁じている。

 彼等が唯一干渉できる手段と言えば、自らが寵愛した存在に加護を与える、ただそれだけ。

 それすら各々一世代に一人。

 同じ神の加護を授かった勇者は同時に二人は決して現れない。

 そんな貴重な干渉要素をお焼き一つの……数十個の為に消費するなんぞ叡智を司る大神のやる事じゃねえだろ。



「勇者はもう沢山じゃ。折角あの子らのお陰で見方が変化してきたところに再び禄でもないものがやって来られても困る」



 勇者キル数トップが言うと重みがあるな。

 だが実際、現状大陸にいる六大神の勇者はシンクだけの筈……余剰の力はあるか。



「やるのは勝手じゃが、おかしな考えに囚われて攻撃を仕掛けてくれば余は躊躇いなく騎士へ始末を命ずるからの。後悔せぬように考えて与える事じゃ」

「陛下」


 

 何でそんなに煽るん?

 魔王は魔王でも仏罰恐れない方? 第六天ミニマオウなの?



「やめておけ。確か、自粛しているのだろう? 前回の結果が禄でもなかったゆえに」

「ん……マキナのあとは誰にもあげてなかった」



 ……しょぼんと俯くミニ神。

 やはり、少し言葉を選ばな過ぎたか。

 大体の心ない言葉は魔王だが。



「ん? ……おーー?」

「ほら、悪かった。少し不躾だった―――」

「こういうの待ってた」

「……事もないか」

「くっきー、くっきーー」



 棚の奥に隠したクッキーの缶を渡してやった途端けろりと。


 六大神の性質に依るだろうが、加護を頻繁に与える神がいれば殆ど与えない神もいる。 

 天星神アヴァロン……勇者ソロモン。

 地母神フーカ……聖女フィーア。

 夫婦神である二柱が加護を授けたのは歴史上でたった一例のみ。


 逆に、これまで多くの加護を与えてきた神ってなると武戦神ペンドラゴンと海嵐神バアルキアスか。

 双方、この千年足らずの間に数十人も与えてやがる。



「うまーーー」

「ぬ? フィーアの作ったクッキーか……。余にも寄こせ」

「んーー、紅茶クッキー?」

「そこ、ジャムが付いてるのじゃ」

「チョコのもあげる。ご祝儀」

「なかなか気が利くではないか」



「「うまーー」」



 少なくはないが決して多いわけでもないのが淵冥神デストピアとそこの駄神。

 勇者とて、加護を与えたからと言って必ずしも有名になる訳でもなく、叡智神が最後に力を与えた「マキナ」と呼ばれた女性は俺でも知らなかったくらいに無名だ。


 確か、通商連邦の闇の中でひっそり消えたと。



「レクトのお母さん。けど、仕方なかった。……最後まで分かっててあげたから、加護」



 ……。

 そうだ。

 これこそ叡智神が邪神たる一つの要素。

 この血も涙もない神は、この世界の全てを知る故に……当然全ての結末を知っていて加護を与えるのだ。

 全て計算ずく、全てが後への布石なのだ。

 今ので言えば、最上位へ到るポテンシャルを持った少年を生まれ()とす、ただそれだけのために。



「定命が神に挑めるくらいに強くなる事、普通はない。だから可能性のある子は助ける。リィナが死なないようにしるべをあげたり、リディアが狼に殺されそうになってた時に精霊通じてティアナに行かせたり―――」

「この邪神めが」



 やっぱバリバリ干渉しまくってんじゃねえか。

 確かに最上位冒険者たちの協力がなければあの勝利はなかったが……。

 異界の勇者が関わると未来が読めなくなると言ってたが、その勇者たちの助けになる要素をあらかじめ取捨選択しておくことはできる。 

 

 それをやってのけるのが叡智を司るこの神だ。



「私も頑張った。ご褒美」



 もう平らげてやがる。



「生憎だが部屋のはもうないぞ」

「眷属?」

「くどい。どうしても欲しいというのならば無理やり奪い取ってみるがいい。また騎士に斬り刻まれたいのであればな」

「むぅ……」



 陛下?

 俺の勝利を疑ってないのは結構ですけど俺死んだらあなた死にますが?

 確かに地上に降臨してきた分霊をしばいた結果戦闘能力を喪失したのが今のこれだが、仮に本体でも引っ張って来られた日には……そもそも世界が持たないかもだ。



「らぐなー?」

「……命令ならば拝するのみだ。君が真にソレを望んでいるのなら構わない。が、本当にやるのか?」

「……………」



 真紅の瞳が深緑へ変わり、叡智神を象徴する幾何学模様が浮かび上がる。

 やめてやめてやめて。

 やらないって言えやらないって言え。



「―――。いい。大好きな世界滅ぼしたくないから」 

「……そうか」



 ……。

 セーフ!!!

 度々「神が相手だろうと」なんてかっこつけてはいるが、本当に六神の本体が顔を出してこようものなら勝機は皆無に等しいだろう。

 良かった、世界は救われた―――。



「それに―――。今の加護はもうあげちゃってる。暫く権利ない」



 ………。



「………なに?」



 いまこの段階で叡智神の勇者が?

 そんな情報はまだ……。


 ならば、まだ覚醒前―――生まれたばかりか、ほんの子供か。

 だが流石の俺たちでも紋章が出現する前の勇者までは特定する事は不可能。


 俺の嫌いなもの……運命に任せるしかないな。



「そ、運命。まだまだ待ってる。それはあの二人を放さない。次の車輪はもう廻ってるから。既に私でも見えない……」



「―――新しい物語」




   ◇

 



 ……今日は風もやや強いな。

 魔王城の第九階層ともなると数百メートル級の高さ。

 昇降機から降りて風を感じながら歩いた先、六魔の茶会などでも利用される、空中とさえ錯覚する庭園には多くの人影があった。



「あ、せんせーー!! こっちこっち!」

「呼ばれなくても君たちしかいないんだ、分かるさ」



 場所取りどころか花の咲いた木の下で宴会って感じだな。

 リオンを貸してほしい―――その話でちょっと様子を見に来ただけの筈だったんだが、敷かれた広いシートと何段もある弁当が複数、辺りに散らばる酒瓶やら。


 ………。

 本当に何やってんだ?



「花見ーー」

「団子ーー」

「おさけ~~、ですぅ~~」


「これは、閣下」

「良い陽気ですね~」

「団長。僕たちもいただいてます」



 魔王城の最上階付近でやるかね。 

 参加者の個性も爆発、勇者達四人は当然として妖精女王やら黒鬼やら黒曜騎士の男三隊長たちと、統一性もない偶々出会った者たちが一緒に飲んでいるような感じだ。



「バルガス、そなたもどんどん飲め」

「えぇ、えぇ。頂いておりますよ」



 まさか爺に宰相までいるとは……。


 が、確かに花見というのはそう。

 あるのはロスライブズで育てられた花々をこちら側に植え替えたもので―――今が一番の時期か。

 散るのは氷憐華と呼ばれる樹木……桜のような木に咲く青の花々だが、花弁が散ると氷のように解け、地に落ちるより早く消えるという特徴がある。

 その儚さに美を感じるっていう感性らしい。

 ここには品種改良された紅や緑の花も咲いていて確かに見事だ。



「先生、こっち空いてますよ」

「リク? 君たちは……」

「良いじゃないですか。ほら、神様だってゆっくり楽しんでますし」

「うま、うま……」

「次は唐揚げですかね」

「だし巻き卵も美味しいよミルちゃん!」

「んむ、順次頂くのが礼儀」



 おい、ついさっき意味ありげな言葉残していなくなったと思ったら美緒の膝の上で飯食ってやがる。

 家族連れなのか?

 


「ズルルルッ」

「大師匠もプリンがお好きなんすね」

「うむ、ぷりんとはこののど越しこそが真価と儂は見つけたのよ」

「さっきの餅みたいにのどに詰まりませんしね」


 

 年齢層も様々な宴会。

 老体たちも添えてバランスも良い……、良いか?

 龍と鬼の容赦のない攻撃でデザートが蹂躙されまくってるが。



「おい、サーガ。お前―――」

「んめ、んめ……。おいミル。甘味勝負なら負けねえぞ。スプーン抜けや」

「受けて立つ」

「ふふ、沢山ありますゆえそう焦らずともよいですよ」

「……宰相殿?」

「気分転換ですよ、ラグナ殿」



 他の連中はともかく気分転換でまで人の世話焼いてたらいつ休む時間あるんだよ貴方。



「どうせこれも貴方が作ったんでしょう?」

「はははっ。身体が覚えているものですね、久々に腕を振るってしまいました」

「え? これ全部宰相さんが作ったんです?」

「料理上手すぎだろ。お重の弁当喰いたいって言っただけなのに」

「スゴイですねー、美味しいですねー」


「本当に語源通りなことあるんだ……」

「ってーと?」

「宰相の宰は料理人を指す言葉でもあるんです」

「「ほえーー」」



 ほえーー。

 マジか。

 


「―――陸君、ターゲットの様子はどうです?」

「ん、良い感じに機嫌よくなってきてるかも。もう少し……」

「鎮まり給え静まり給え……」



 ………?



「グルルルルッッ」



 あぁそういう事か、だからこんな拓けた庭園で。

 リオンもメシ食ってる間だけは大人しいからな、邪魔されない限りは。

 この宴会自体竜を手懐ける為の作戦みたいな感じらしい。

 

 八岐大蛇のようには行かんだろうが、うまく行くか……さて。



「良いな。なら、私も少し腰を落ち着けて楽しませてもらうとしようか。身体が干からびていたところだ」

「ちと華がすくねぇな。―――宰相閣下、もっと料理ぃ!」

「えぇ、えぇ。もう暫しで届きますよ」

「華って料理かよ」

「閣下。華と言えば―――」

「座ってろ。折角こんなに綺麗に咲き誇ってるんだ。花見のメインって知ってるか? 諸君」


「だって先生とサーガさんは見たりして楽しむんじゃなく折って楽しむ方が好きじゃないんです?」

「……はい?」

「春香ちゃん?」

「ふふふッ、クロード君も散らされる側ですね」

「ちょ、ちょっとヴァイスさん? 確かに女性が怖くなってはきましたけど……」

「花を手折る、か―――はっはっはっはッッ!! そらちげぇねぇし大好きだ! なぁ? ラグナ!」



 一緒にすんな。

 誰がお前みたいな―――。



「………」

「メッチャ目逸らすじゃん」

「最低です先生」



 ちくしょーー。

 なんも否定できなくなっちまった。

 なにが悪いって、昨日一昨日までは確かに違ったんだよって弁明しようとすると余計に面倒な話になりそうなところ。

 いっそ開き直れればどれだけいいか。


 くそッ、やけ酒―――。



「……?」

「はいポテチ!」

「チョコレート!」

「リンゴジュース微発砲、です。お酒とおつまみは身体に悪いので没収です」



 酒と肴一瞬で取り上げられた上で男子高校生並みの自堕落パーリナイメニューに変えられた。

 だが言う程健康か? これ。

 


「へいボーイ、コーラはないのか?」

「あったらあたしら飲んでます」

「女と煙草やってるんですからお酒とクスリくらい我慢してください、オンナタラシ先生。アポリオン借りても良いんですよね?」

「……乗れればな。あとコーラを麻薬みたいに言うのは辞めたまえ」



 お酒禁止令続行らしい。

 可愛い弟子たちの御茶目だ、ノンアルで我慢だな。 



「クルルル……?」

「あ、うん。乗せて……くれる?」

「クルルッ―――はぐッ」


「ぎゃぁ!? りくぅぅぅぅぅ!!」

「陸の頭が食われた!!」

「康太君右足掴んでください、引っ張り出します!」



 ………。

 続く攻防と試行錯誤、それを見て楽しむ参加者たち。

 どうしても竜を手名付けたいらしい勇者たちは料理を餌に少しずつ距離を縮めている。

 だが装備の猫じゃらしときび団子は舐めてるとしか思えん。



「顔拭きますね」

「ん……。ありがと」

「―――おい、どうだって?」

「乗っても良いって。あ、四人なんだけど」

「……。クルル」

「あ、我慢するってさ」

「我慢って何だよ」

「もはや普通に会話してますね陸君……。春香ちゃんも分かったりしますか?」

「感情でニュアンス読むとかなら? ちょっと不服だけどそこまで言うなら……みたいな」


「ルㇽッ」

「………器用に髪の毛モグモグするなぁ」



 余程好かれてるな。

 本来リオンは幾ら面がよかろうと男には靡かんものだが。



「ふーむ」



 ポテチを取り、食べる。

 ジュースで流し、一考。


 ………。

 男も女も常時選択できて先代勇者の息子で伝説の聖剣使いで動物に好かれる正義感溢れる青年……。



「勇者か?」

「ん、勇者」

「ミル、私のポテチだ。ガサゴソやるな」

「コンソメ味も捨てがたい」



 おまけに神さまにも愛されてる、と。

 本当に俺とは正反対の属性だな。

 今に竜と和解した勇者たちは慣れるようにゆっくりとその背に乗り込み、リクが免許取得以降一度も運転せず数年たったペーパードライバーのような緊張感で手綱を握る。



「じゃあ、中央へあいさつ回りに」

「ちょっと出てきまーース」

「長くても一、二週間くらいで……帰れればいいんですけど」

「あでゅーー」


 

 搭乗者が慣れていようがいまいが、車自体が自動操縦機能付きだ。 

 相手が何処へ行きたいのかを汲んだのか、やがて飛び立ち……そして小さくなっていく影。


 本当に頼もしくなったものだな。

 ……。 

 


「天才の発想が舞い降りた」

「後釜?」

「あぁ。あの子たちを私の騎士団に放りこんでのんびり隠居生活。どうだ?」

「碌な未来見えない」



 異界の勇者関わってるから見えてねぇ癖に。

 それに、彼等が残るか帰るかは……。

 


「ミル」

「んーー?」



 ……。 

 尋ねようとして口を開いたが、そのまま閉ざす。

 わざわざ居合わせたというイザベラからも聞くのを辞めたんだ。

 それは、あの子たちの口から直接聞かせてもらうとするか。

 


「いや……。―――どうやら道を決めたようだな、彼等は」

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