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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
最終章:勇者一行と大陸の夜明け

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第十六話:待っている人たちがいるなら




「ミル……? えぇ、あの子だったらこっちに来てるわよ?」



 ちょっとしたアクシデントこそあったものの、当初の目的通り魔王城を歩き回りミルさんの姿を探す事暫し。

 第三階層の魔導士団本部で目撃情報があったという事を聞いたんだけど、責任者である女性の第一声がこれだった。



「ふぃ……。やーっとこさ見つけたな」

「逃げまわてんじゃないかってレベルでいなかったよね」

「ようやくですね。ありがとうござます、イザベラさん」



 軍部の最高責任者たる六魔、その一角である女性。

 宮廷魔導士団を束ねる彼女は、朱と黒を基調とする軍服の上に白衣をふわりと着こんだとてもオトナで素敵な格好で出迎えてくれ、話が早いか先導するように案内してくれる。



「―――理系女子(リケジョ)って感じだな。良いと思う」

「いかにも科学者って感じだね。アリだと思う」

「おうこら男子」

「もう……、本当に男の子ですね。私たちが前を歩きましょう」



 案内されるままに幾つもの研究室前を通り過ぎ進んでいく。

 途中すれ違う魔族たち……肌は白く、耳は長くて角はない―――妖魔種っぽい彼等。



「……やっぱエルフだよな、どう見ても」

「魔族との違いがよく分からないです」

「本質的にはあまり変わらないかもね。黒き龍の血を引く私たちと、白き龍の生んだ半妖精たち……彼なんかは、私たちをダークエルフみたいなものって言ってたわ」



 ……成程。

 肌が黒いわけじゃないけど、確かに。

 にしても、すれ違う彼女等はおよそ魔導士団に属する研究員とかなんだろうけど、ちょっと視線がアレだ。



「春香ちゃん、あの人達はどのような感情なんですか?」

「そらもうあたしらを調べ尽くしたいって感じよ。ね、イザベラさん!」

「間違ってはいないわね」



「別世界より招かれた者たち―――異界の勇者。魔術、魔素、魔力……そういった力から隔絶された世界に生き、欠片も耐性のない生物が元のあなた達の筈なのに。気になるわ。えぇ、気になるのよ……!」

「「ッ!」」



 例にもれず彼女もそういう手合いらしく、饒舌に語り始め、ズズイと詰め寄ってくる。

 前に進んでるのにこっち向いたまま足も動かしてないの本当に怖い。

 ムーンウォークってレベルじゃない。

 直立不動で前に滑るのやめてもらっていいですか?

 


「あなた達、彼が人間だった頃の話を聞いたことがある? それとも、彼以外の転移者に逢ったことはあるかしら? 普通の転移者っていうのはね? 死ぬのよ。その多くが魔素という特異に適応できず、数か月と経たずして死ぬの。それ程までに、あなた達の素体は脆いの……。けれど、あなた達勇者は違う。最初は確かに弱いかもしれないけど、あなた達四人が誰一人の例外もなく私達の前に立てるほどの存在へと成長する。体組織、身体構造、組成。全てが、変化してるのよ。それってつまり、六大神……ひいては万象を司る神々が一から構築し直し、創り上げた至高の肉体。一片の例外なく、この世界に完全に最適化された、神が作りたもうた聖遺物って事なの。そうよ、そうなの。あなた達自身が、神器みたいなものなのよ!! 興味しかないわ!」

「そ、そうなんですね……?」

「……ひ、ぅ」



 美緒と春香は僕たちを彼女に近付けたくないらしく、イザベラさんとの間に立ってたけど。

 それが、(かえ)って彼女の興味を一手に引き受ける結果になり。

 相槌を打ちつつも仰け反る美緒、感情に何を見たか小さく悲鳴を漏らす春香……。



「ひぃ……ん。ぅ―――ん? あれ?」

「春香ちゃん?」



 不意に春香の注意が別の場所へ向いた。

 直前までイザベラさんの圧に怖がっていた筈の彼女は、勇者一行らしく四人縦一列で並び歩いていたところから外れ、横道へテクテク。

 向かう先は―――何だろ。

 様々な機器、機材が置かれた大部屋の一角。

 広い布で覆われた歪な形の台……丁度、人ひとりが横たわり上に布が被さっていればあんな感じなんだろうなと思えるオブジェへと近付き……断りもなく、春香の手で布がパサリと取り払われ―――。



「―――?」

「「うん?」」



 ………。



「やぁ皆さん。このような場所で奇遇ですねぇ、助けを求めても? はははっ」

「これはこれは。良い所に。お願いですからマジヘルプ、いやマジで。基本的オーク権の侵害ですよ、これは」

「「……………」」



 知ってる人たちだ。

 涼し気に微笑むキースさんは荒縄で椅子に縛られ、ヴァイスさんはぶっとい金属でベッドにぐるぐる巻きにされている。

 ……これは?



「―――イザベラさん?」

「んーー、実験体? それとも野生動物かしら。最新鋭の機器をテストするために、その辺で捕まえてきたのよ。三人くらい」



 その辺ってどの辺よ。

 まさか城内で拉致なんてしてないよね。……ないよね?

 法治国家だよ? 先生知ってるの? この件。

 それも、精鋭中の精鋭である彼等がこんなアッサリ―――三人って言った?

 ……クロードさん?

 それともミルさんも拉致してきたって事? 流石に天罰じゃない?



「って……まさか、ですけど」

「もしかしてですけど、その機器の為に……」

「あなた達にもちょっと協力してもらいたいの。心配はいらないわ。全然危ないものじゃないもの」


「フハハハッ、助けてくれませーん?」

「僕悪いオークじゃないよぉーー?」



 いや、逆にここまで来たらミルさんがいるって話すら罠に聞こえるけど。



「春香」

「その辺に嘘はなかったと思うんだけど……てかお二人なら簡単に抜け出せないんですか?」

「この荒縄、どうにも私の術を阻害しているようで。どうにも力が出ないのですよ。あと魔力分解薬を一服盛られまして。魔術がうまく使えないんですねぇ、これが」

「私も、三段腹が邪魔して。そも、この鎖鉄晶製なんですが。無駄遣いでは?」



 ……。

 助けてあげた。



「ふぃー、助かりました。いや、感謝感謝で」

「危うくローストポークでしたよ」

「あなた達が全力で逃げようとするからいけないんじゃない」

「騎士団憲章別項其の10。宮廷魔導士団から拉致同然(ひせいき)の依頼があった場合は何があっても全力逃亡すべし」

「大抵禄でもないのだから、と……。閣下の教えです」

「まぁ当然ね。この国で最も被検体としての経験があるの、彼だもの―――と、これよ」



 なんか先生の悲しき過去聞こえきたけど―――これが実験機材?

 外見は巨大なスーパーコンピューターで、確かに試作品なのか回路が結構な剥き出し具合。

 外装は最高位の金属である鉄晶で出来てるっぽい模様だけど、接続部からは幾つものパイプ、或いはチューブが伸び、接続されているのは見た目高級ソファー。

 

 ………。

 大きくはあるけど、思いのほかコンパクトにまとまっていると思う。

 もっと巨大だと思ってたな。



「ところでイザベラ殿。姿が見えませんが、一緒に捕まったクロード君は?」

「確か、別の実験に協力してもらうって、団の子たちが……。全面ガラス張り、回転ベッドとミラーボール……だったかしら?」

「……OH」

「流石にモテますね、彼は」



 何の実験なの? 生命の創造?



「実験っていう建前で変なことしようとしてない?」

「確かにクロードさんイケメンだし高給取りだろうけど……」

 

「―――さ、誰から?」



 いや、キラキラした目で聞かれても……。



「その前に説明が欲しいんですけど」

「そもそも何の機械なんですか? これは」

「本当に危なくないっすか?」

「既に私達も冒険者複数でも実験済みよ。それに、あなた達にも有用だと思うけれど? 魔力の性質と、量。純度を科学的に割り出して定量的な数値として、かなり正確に見られるの。勿論属性への適正なんかも」

「「おぉぉ!!」」



 普通に大革命じゃないのこれ。

 聞く限りだと本当に危ないものではなさそうだし、キースさん達が捕まったのも聞く限りでは内容自体に拒否反応を起こしたわけじゃないって事だし。



「それに、結果もすぐに分かるわ。それぞれ、魔力の性質を色で、純度を透過具合で、保有量を単純な魔素変換した際の必要量からなる数値で判断できるの」

「純度って言うと……どれだけ効率よく運用できるかって話だよね」

「えぇ。現在は正確な指標としてみるのは難しい筈です」



 元より魔力の性質は千差万別。

 適正や、質などは特に生まれつきの要素が大きいのが魔術とされるけど……、何と、この装置はその殆どを容易く判定できると。



「「……………」」



 目配せを交わすと、皆不安より興味が勝ってしまったらしく。

 明らかに半歩下がっている騎士さんたちより前のめり。



「うふふ……。やる気十分みたいね。良いわよ? 誰からでも」

「んじゃ切り込み隊長たる吾輩が!」

「良いわ、コウタ。前にどうぞ」

「はィィ……」



 魔将に導かれるまま、骨抜き勇者は今に身体を椅子へ固定されて機械に接続。

 頭にもヘルメットなんか付けられて、さながら電気椅子。


 ……起動する機械。

 駆動するような大きな機械音と、内部から響いてくる断続的な音。



『ババババ―――、ババ―――』



 と……なんか異音しない?

 大丈夫かなこの機械。

 なんか赤色に光ったりし始めてるし。



「これ爆発しないです? 康太君ごと」

「康太君なら大丈夫だとは思いますけど……」

「信頼がこわぁい! 死にたくない!」


「仕様よ。気にしなくて良いわ……。と、取れた。凄いわね」

「お!?」

「端数切捨てで魔力量は54万マナ。訓練を積んだ妖魔種の平均値が30万……分かりやすいように調整したのだけれど……約二倍ね。魔術適正は火属性と地属性、それ等よりは低いけれど風も少々。で、純度はAランク……。文句なしにスカウト対象ね。国内でもそういるものじゃないわ」

「っしゃあ! 士官学校で無双してくる!!」

「あ、今年の願書受付しめ切ってます」



 あるんだ願書。

 キースさん達も通ってた口かな。



「イザベラさん。人界側ではそういった指標は浸透していないのですけど、純度のランク付けっていうのはどういうものになっているんですか?」

「あぁ、そうだったわね。実は私達も便宜的に設定したものだから呼び方にこだわってはないの。今回はあなた達にも分かりやすいように冒険者ギルドのソレを参考にしただけ。だから、それ準拠よ」



 って事は―――Aって途轍もなくすごいんじゃ。



「Aにもなると数十万人に一人くらいかしらね。量はともかく純度は基本生まれついての固定値……血筋とかが重要。やっぱりあなた達は特別みたい。……うふっ。じゃあ次、ハルカ―――」

「「は最後で」」

「あらそう?」



 絶対ヤバいから最後で良い。

 先に一位から発表すると後が盛りさがる系のやつだ。



『アババババ―――』



 で、話し合いの末二番目に美緒、三番目は僕になったけど。

 ……何なの? この音。



「ミオ、は……。あら凄い。適正は地属性、第二に水属性と風属性。容量も84万あって……。これで魔術戦主体じゃないの、あなた」

「物理で殴る方が合ってます」

「それに、純度もA……プラス? かしら」

「康太負け犬じゃん」

「プラスってなんぞ!!」

「おかしいですね。風属性の適正はそこまで高くなかった筈ですけど……」

「素養が全くないわけじゃないのなら、後天的に上がる事もあるわ。例えば武器の性質がゆっくりとなじんだ結果、例えば身近に強力な属性の使い手がいた場合……」


「どちらの可能性もありそうね、美緒ちゃんは」

「―――ふふっ……」



 こちらを見て微笑む美緒。

 何か嬉しいな。



「けどやっぱり元々召喚される予定だったって事も関係してるかもね。適正っていうかバランスの良さは」

「一人で何でも出来ちまうもんな、美緒ちゃん」

「じゃあ、リク」

「……。正直一番期待できないですよ、僕は」



 下馬評最下位だ。

 今までも僕の純度や量は度々言われてたけど―――果たして。



「……。あなた……!」

「え!?」

「確かに並みね」



 ………。



「魔力量は32万マナ。適正は風属性……、くらい? 強いて言うなら他の属性も並み程度にまんべんなく使えなくはないでしょうけど、大きく効率が良いって感じじゃないわね」

「ぐっふ」

「純度もAに微妙に届かないくらい……マイナス寄り……いえ、どちらかというとBプラス? くらいね」

「オーバーキルッ」

「いえ、高いわよ? 妖魔種基準でもそこそこ。量も並み程度にはあるし」



 いや、それでも……。

 おかしいな。

 本当に期待外れなことある?



「追放候補だな」

「勇者降りろってやつ?」

「本編終わった後じゃないんですか? 今って」



「―――うふふ。本当に不思議ね、リク。あなたと言い、彼といい……。じゃあ、最後。ハルカ」

「ふんっ!」



 くッ、調子乗ってるなアレ。


 けど、実際に彼女が座った途端、待ってましたと七色に輝く台座。

 明らかに今までのものとは反応自体が異なる。



「魔力量884万。適正、基本四属性全てが高水準。純度S……私の再来ね」

「「……………」」

「ふっはっはっはっは!」



 最近の異世界物だと後々没落するタイプの筈なんだけどな。

 純度自体おかしいから魔力消費自体も低いし、全属性の適正―――熟練の妖魔種術者数十人分の魔力量?

 で、これでまだ成長する予定なの?



「軽く二位の十倍以上あるし……、マジか……。驚異の格差社会だな」

「ん、脅威だね」

「……なにみとん?」


 

 いや、美緒とイザベラさんに挟まれると脅威だよ、本当に。



「純度Sともなると、この国にも数人いるかってくらい。世界でも両手で数えられるんじゃないかしら。そもそも、魔力量100万越えだって軍属だと数人だし」

「……。そういえばイザベラさんってどうなんす?」

「わたし? 通常時の魔力量は一千万ちょっとね」



 ちょっとっていうかちょっと何言ってるか分からない。

 通常時ってなに? 変身するの? 前聞いた話だとさらに上もいるらしいし。



「じゃあ、最後に魔素適合率の発表ね」

「「え?」」



 適合率?

 それってまさか。



「魔力関係って、結局のところ使えなければ宝の持ち腐れなの。で、その力をあなた達がどれだけモノにしたか。魔素を身体に取り込み、どれだけ自身の肉体に適合させてきたか。毒物、病気への耐性、或いは肉体強度……魔素への適合で肉体が強化されるっていうのはあなた達自身が一番よく知ってると思うわ。彼が言うには、レベル……って」



 魔素の適合には限度がある。

 大昔から言われてきたことで、これが最終的な冒険者のランクにも直結する……俗にいうレベルキャップ。

 個人によって成長限界は様々とされるけど……まさか、その度合いを?



「それすら数値に出来るってなったら……!」

「本当に世界の常識が変わりますね。仮にギルドに技術を提供してもらえれば、冒険者の死亡率を大幅に下げることもできるかも……!」

「その辺はギルド総長さんと応相談、ね。―――さっきの順番で、コウタが88%、ミオが87、リクが90、ハルカが84……これに関してはあなた達って結構一律ね」

「あれ? 思ったより高くない。っていうか最下位?」

「高くないですか? 陸君」



 身体能力なら康太の方が圧倒的な筈なんだけど。

 やっぱり、異能と魔素の強化は直接的な関係じゃないのか。



「後衛なら魔術行使、前衛なら身体強化でそれぞれ適合率を上げられる。一緒に旅してきたあなたたち全員が同程度なのは納得だけれど、リクの場合は体質的なモノも大きいわね。あなた純粋な人間種じゃないし」

「人外宣告!?」

「ちょっと神器と接続し過ぎよ。あと命捨てるような戦闘のし過ぎ? かしら」

「「……………」」



 凄く視線痛い。


 

「さっきも言った通り、あなた達より前に冒険者たちでも実験したの。最初に捕えてたソニア、他の子たちも折を見て頼んでみたのだけれど、殆ど80台半ば。あなた達と同じか、ちょっと低いくらいね、むしろ」

「レベル的にはあたし達もS級と同じくらい……って事!?」

「あとはやはり技術の差ですか」



 肉体的なレベルはほぼ同等。

 けど、まだ一歩劣るように思えるのはやっぱり戦いの年季が違うわけだ。

 


「彼等と、到達点であり神の創りし身体を有するあなた達を参考に。結論としては、殆どの種族の限界値(レベル)は90に届かない、って事になるわ。そこが私たちとの差ね」

「「!」」



「その口ぶり……当然六魔の皆さんもやったりしてますよね?」

「フフ……。はい、カルテ」



 ………ふ。

 渡された紙束に乗せられているのは……適合率。

 サーガさんが95%、シンシアさんが94%、イザベラさんが98%、フィーアさんが96%……。



「イザベラさんたっかぁ!?」

「全員化け物ぉ……」

「流石だなぁ……」

「えぇ、一応言っておきますが、六魔の方々もまた例外中の例外ですので」

「我々に言わせれば皆さんも大差ないのですよ。通常の魔族、一般兵なら精々適合率40あまり……精鋭たる騎士団内部でも70を超えるのはそういないでしょう。クロード君は90でしたが」

「私に至っては76です。オークの限界?」


 

 面白いな、魔素換算。

 本当にレベルみたいだ。



「あぁ、そうそう。お爺様と陛下の適合率は100よ。全身魔素」

「うっわ……」

「納得できる人選……」



 さっき戦った身としては納得しかないね。

 ……ん?

 そういえば―――。



「まぁ、結局は一つの指標。数字でしかない。あんまり踊らされないで良いわよ」

「あの、カルテないんすけど先生は?」

「良い? ハルカ。数字とかは、あくまで」

「先生の知りたいんです」

「データ取ってない筈はありませんよね?」


「……。見ない方が良いわよ?」

「って言うと?」



 嫌々……しょうがないというように渡されるソレは、敢えて隠してたってこと?

 何で?

 興味から一斉に覗き込み―――え?



「適合率……。13%―――」



 は?



「尺度で言えば、ちょっと心得がある一般人くらいかしら。人間の、ね。殆どただの人。瞬間的な身体強化で無理やり動かしているようなものなの、今は」

「「……………」」

「普通は上がっても下がるなんて殆どないのだけれど、例外は欠損からの修復、とか。彼の場合は年齢と共に、ね? ずっと昔に採取してた肉片の適合率だともっと高いから、全盛期なら或いはってところ。ともかく、こんなの見たらあんまり当てにならないでしょう?」



 ……先生。

 

 

「テセウスの船か?」

「あの人元からの肉体だった部分残ってるんですかね」

「ねぇ、やっぱりさぁ」



 ……うん。

 二度と戦えないようにしておいた方が良いのかも。

 子供だけ作っててもらおうかな。

 


「団長。一時間分をお持ちしました」

「えぇ、ありがとう」

「おぉ、よい香りで……」

「くくっ。タルトの次はドーナツですか。これはおいしそうで……」



 そうだね、ドーナツにも穴はある。

 やっぱり身体に穴空けてでも大人しくしてもらって。

 ………。

 ドーナツ?

 


「え―――何してるんです?」



 いきなりドーナツ。 

 何でドーナツ。

 キースさん達の言葉に振り向けば、本当に……台車に乗せられ運ばれてくるは、山のようなドーナツ。

 確かに良い香りだけど、精密機器あるような研究室に持ち込んで良いものなの? 動力源なの?

 


「動力源、燃費悪いのよ」

「「!?」」

「本当にドーナツ発電!?」



 嘘でしょ?

 いや、本当にドーナツ持って機械のボタン押して―――。



「―――ん、おやつー?」

「そのまま食べてていいから、もうちょっと頑張ってちょうだい。あと少しで終わるわ」

「んーー。あばばばばばばば……」

「あら? そういえばあなた達ってこの子に会いに来たんだったかしら」



 神さま……便利な電池にされてる!!

 機械の内部―――中型冷蔵庫くらいの大きさの円筒の中に押し込まれて、幾つものチューブが身体に接続されていた少女。

 ドーナツをぱくつきつつも痙攣している腕、逆立っている髪の毛……あの異音ってミルさんが痺れてる音だったんだ!!


 吸い上げられてるのは魔力……!?



「まだ実験段階。莫大な魔素が勿体ないから、ちょっと協力してもらってるの。あなた達ももうちょっと待ってて頂戴」



「神さま捕まえて動力源て……」

「やってる事ラスボス……」

「流石は六魔将です」




    ◇




「頑張った」

「報酬は弾むわ。何でも好きなもの食べて良いわよ」

「おーー!」

「「いただきまーす!」」



 あれから一、二時間ほど経ち。

 現在地は魔王城内から城下の商業区へと移動し、一つのお店へ。


 頑丈な金属の骨組みを混凝土で塗り固めた重厚な二階建ての外装。

 堅牢な印象に反して洒落っ気を感じさせる蔓や蔦のような装飾の交じり合った建築で、煙突から出る煙からは様々な食材の匂いも。

 店内では談笑しながら食事をする人達の姿が伺え、黒樹を削り出したような広いテーブルにはシミ一つないクロスが掛かり、中央には煌びやかな燭台が置かれている。


 イメージ的には魔法使いの住居、みたいな?

 各所に配置された蔓のリースは食用の乾燥薬草などが付いていて、同じものが店内の至る所からつり下がっていたり。

 このお店、イザベラさんがオーナをしているお店らしく。

 面白いのが、メニューは無くてお客さんの体調や気分に合わせた料理を創作で提供してくれるという事。


 肉も魚もあるけど、どちらかというと速く食べられて栄養も取れるって感じのファストフードが近いな、これ。

 サンドイッチみたく全ての食材が一つになってたり、シチューとしてまとめられてたり。

 全体的に香味が効いてて美味しい……。



「んまっ!」

「薬膳料理に近いんですかね」

「パワー出てくるな。これは―――香草焼き?」

「んままままままままっま」

「叡智の神なのに食いしん坊なんですね、ミルさん」

「何で出来てるか、どういうものかは分かる。けど、実際に味も見ておく。後学のため」

「それ以上学必要なんです?」



 ともかく、口いっぱいに頬張る神さまの姿は庇護欲を掻き立てるし、気持ちの良い食べっぷりは僕たちの食欲も刺激してくれる。

 けど、僕たちはその彼女に大切な話をしに来たんだ。



 ………。



「ミルさん。良いですか?」

「……………ん、許す」



 テーブルの上が取り敢えず一回綺麗になり、まだ食欲はあっても料理が追い付かないインターバル。

 そこを狙って話しかけた。

 

 彼女は一瞬で大切な話だと理解したらしい―――食べカス顔に付いてるけど。

 或いは、僕の考えている事すら既に知っているのかな―――パンくず付いてるけど。


 ………。



「あの話、決めました。僕……、元居た世界に帰ります」

「「!」」



 今に、彼女の瞳の色が魔族らしい朱から幾何学模様を描いた緑へと変わる。

 澄んだ緑の瞳、その奥に見える紋様は紛れもなく叡智神ミルドレッドを象徴するものだ。



「―――ん。よく決めた。偉い」



「けど、一つだけ」

「ん?」

「僕の父さん―――百識の勇者キサラギがそうだったみたいに。一つ、我が儘を聞いて欲しいんです」

「んーー。クウタわがままだった。決めてって言ってから二年掛かった」



 そんなに優柔不断だったの。



「行き来は、ダメ。どっちかの世界を選ぶ」

「それは聞きました」

「良かった」



 ……この感じ、多分父さんも最初はそれを願ったんだ。 

 なら、僕は。



「だから、一回だけです」

「お?」

「向こうの世界に帰った後―――僕がやるべき事をすべて終えて。全力で生きて、必死に生きて……思い残すことがなくなった時。その時に。僕……いえ。また四人で……皆で、この世界に来たいんです。帰った時と同じ姿で」

「……………。向こうで生きて、死ぬ?」

「そうです」



 彼女は考えている様子だった。

 けど、無理な話じゃないだろう。

 僕達や歴代の勇者たちは当然として、異種族……半妖精であった母さんですら、あっちの世界へと渡った時は何の力も持たない只の人間として再構成された。

 なら、僕達も。

 あちらで天寿を全う……老衰するまで生きたとして、この世界に戻ってくるときに今の肉体年齢に再構成してもらう事だって出来る筈。



「―――何で逆じゃダメ?」

「当然、そっちの方が神さまの負担も少ないっていうのは分かるんですけどね?」

「ん、リクは賢いから。疑問」



 ……少女に撫でられる。

 神様といい魔王さまといい、小さいのに包容力あるの何だろ。

 こういう話してるから、余計に涙腺が……、ッ。


 そうだ。

 このままこっちで勇者として生き、それからあっちでも良い筈なんだ。

 また行って戻ってくるより、二度手間にならず一度で済む方が良い、当然のことだ。

 実際勇者召喚が百年周期なのは膨大な魔力が必要だからという要素もあった。

 けど、ダメなんだ。



「確かに僕たちは何も出来ないような状態から始めました。弱くても足掻いて、足掻いて……」



 けど、それって普通の人生では断じてない。


 だから、最初は絶対にそうありたいと思ったんだ。

 この世界の人たち―――彼等の強い生き方を見て、そうありたいと思ったんだ。


 まずは僕自身が自分の力で、只の人間として生きる。

 この世界の人たちみたいに……、特別な誰かではなく、何の力も持たないただ一人の定命として必死に生きて、生きて……生きて、死ぬ。


 天寿を全うする。



「最後までただの人間として、精一杯に生きるんです。だって、そうじゃないと……。一回くらい人生やり遂げるくらいじゃないと、そうやって生きてる沢山の人たちなんて、とても救えませんから。胸を張って、人々を導く勇者だ……なんて言えませんから」

「……………」



 ジッと覗く瞳。

 無感情、無感動……なに一つの感情も見えてこない。

 春香ですら、その瞳の奥には感情が見えていないようで。



「再召喚、100年後のこの世界でも良い?」

「あ、せめて五年くらいがいいですね。大切な人たちとの約束も果たせないので。戻ってきて皆お亡くなりは困ります」

「ワガママ」

「です。だから勇者になれたんです、実は。師匠に……それと、この世界に生きる人に言われたんです、頑張ったんだから、もっと欲張っても良いって。どれだけわがままになっても良いって」



「……道みたいに行き来してる訳でもなく、片方の世界で生きるルールにも抵触してません。それじゃあだめですか?」

「―――ん、ん……」



「ん。だからこそ、選んだ。だから、私たちはリクたち四人が大好き」

「……! じゃあ!」

「良いよ。リクたち全員が本当に同じ気持ちなら。四人分のお願い―――ワガママとしてなら。世界を救ってくれた、お礼」



 ………。



「皆―――」

「今更過ぎるでしょ。オールオッケーだわい」

「強くてニューゲームできるってマ? ハーバーボッシュ法のやり方調べて戻って来るわ」

「陸君と一緒なら、どんな世界でも。ずっと、一緒です」



 ………。



「ところで、解体して魔皇龍を倒したって事は、西側の召喚器って機能停止してるのかしら。帰れるの?」

「「……………」」




「ミルさん?」

「どんとうぉーりー、なんとかする」

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― 新着の感想 ―
にしても13%か…全盛期ならもうちょい高いんだろうが、馬鹿みたいな身体強化してるとはいえ低すぎだろ。 お労しやラグナ殿……
ほぉ〜なるほど勇者は賢いなぁ〜 程よくわがままな選択だぁね
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