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暗黒卿の魔国譚  作者: ブロンズ
最終章:勇者一行と大陸の夜明け

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第十五話:裏ボスのち裏ボス




「おかしいよね。呪われてるんじゃないかってくらい被害受けてんのに、主催のリザさんが一番うれしそうだったの」

「あれから全く執務室から出られなくなってたのに、むしろ若々しく見えましたよね」

「ゲッソリしてる俺らとは反対だな。体重五キロ減ったぞ」

「ほーんと。ここ数か月で10歳くらい年取った気分」



 やめとけって言われたのに自分たちの意思で矢面に立っちゃったんだから文句言えないけどね。

 やれあっち行こう、やれこっち行こう……そうやっている間に幾つも国を回って。

 ……。

 けど、やっぱりあれでよかったと思うよ。



「互いに本音を出し合えたからこそあそこまで簡単に話がまとまったように感じる反面、問題をややこしくした箇所もありますね。勇者はどちらにも転びうる劇薬みたいです、やっぱり。先生はどう思いますか?」

「ノーコメントだ。付き合って引っ張りまわされる身にもなってくれ。我老体ぞ? こっちも十年くらい年取った気分……」

「はいはい、誤差誤差」



 都合のいい時だけ老人面するなこの人。

 300が310になったところで大した違いはないと思う。

 


「先生だって表稼業する時に冒険者の肩書あったままの方が良いでしょう?」

「勇者の導き手って特大ネームバリュー付けますよ?」

「転売してーな」

「俺らだって売れるならもう売りたいっすよーだ」

「んねー。結局それが面倒になって魔皇国まで戻ってきちゃったわけだしさー」



 大陸議会は波乱のままに幕を閉じた。

 最早数か月前の話だ。


 いま思い返せば、前回が黒曜騎士団の襲撃で中止、今回が魔王の参加を受けて混乱……。

 二回の大混乱を経ても、思いのほか身の周りの変化は少なくて……、変わった事と言えば、僕たちが追いかけまわされる頻度が増えた事くらいか。


 大陸の極東に戻ってきたのは、そういった人間国家のしがらみから逃げようとしたっていうのも多分にある。

 けど、それだけじゃないのも確かで。



「なー、リーダー。ミニ神さまと話したい事って、結局何なん?」


「んー? あ、うん。聞いてみてから判断しようって思ってるんだけどね。ちょっと、欲張ろうかと思ってるんだ」

「―――んぁ? 欲張る?」

「そう。欲張る。ある人に気付かせてもらったんだ。僕たちは―――もっと欲張っても良いって」

「……? どゆこと?」

「インテリが遂におかしくなっちゃった」



 最弱から何度も死にかけたし、何度も裏切られ、折れかけて……けど、全員でここまで来た。

 神を墜とした、世界も救った。

 正直、自分でもかなり頑張った方だと思ってる。

 交渉―――、ではないけど、まだ妥協できる範囲内だと感じている。



「美緒ちゃんは先に聞いてるって言ってたよね? ズルくなーい?」

「恋人ですから良いんです。それに、私は陸君と一緒なら何処だろうと後悔なんてしませんよ?」

「それは僕もだけどさ? そういうのってあればあるだけいいじゃん」

「ピピー! ピピピー! ライン越えライン越え!」

「魔王城でいちゃつかないでくださーい」

「アオハルだねぇ……」



 広すぎて声が響くんだよね、城内の回廊。

 昇降機使えばいいのに、ミルさんが何処にいるのか分からないからって一通り周りそうになってるし。

 

 今は―――六階層?

 当然の権利みたく歩いてるけど、先生が先導してくれなかったら普通に迷子になりそうでもあり……。



「何処にいても賑やかじゃな、そなたらは」

「「!」」



 魔王城だから当然いるだろう。

 不意に空間を裂き目の前に降り立ったのは、引き込まれる程に神秘的な姿。

 風に解けて消えてしまいそうなほどに薄いレースのような、しかし透けのない布素材で出来た黒衣を纏い、あり得ざるほどに長い銀髪をなびかせる女性。

 立ち姿はまるで夜の化身のようで……。

 


「シオンさんだ! わはーーい!」



 魔王とエンカウントした途端、駆けて行った勇者が飛び込む。



「うへへぇ……」

「甘え上手で仕方がない子じゃの……ふふっ」


 

 ハグからの撫でられコンボ。

 この状態だとシオンさんの方が20センチは背が高いから、春香が見上げるような形。

 けど、目線もちゃんと合ってて……変な感じだ。


 本当なら逆側に20センチ差なんだし。

 そうなると40センチも差がある事になる。



「幻惑の効果としても、おかしくないですか?」

「陛下のソレは最早事象の歪曲に踏み込んでる。実体のある幻術……本人ですらそれが真実と疑わない程の力なんだよ」

「……ヤベェっすね」

「あの状態は本当に見たままの姿という事なんですか……」

「……………」

「陸君?」



 ズルくない? それ。

 僕も出来ないかな。



「シオンさんはどっちの姿でもサイコー!!」

「くくッ。ふふふっ、そうかそうか……」



 けど、アレだね……。

 魔王も勇者も関係ない平和な世界になったものだ。



「って、こんな所でそんな極秘の話してていいんすか? 国内でも秘密なんでしょ?」

「大丈夫だろう。五階層から上には基本的に六魔クラスしか入ってこれないからな。時に陛下。私共に何か? ミルを探している所なのですが」

「うむ。勇者らに要件があっての」



 シオンさんがこちらへと向く。



「勇者らよ。そなた等……一つ、余と手合わせをしてみぬか?」

「「……!」」

「へ、陛下……? 何を……」

「口を開くな、騎士よ。余はこ奴らと話をしておる」



 ………。

 思っても見ない提案だった。

 彼女の言葉にはどういう意図があるの?

 確かに、僕たちは先生と―――そして、魔皇龍の復活に際しては訓練の過程で六魔や人界最強の戦力たちとも刃を交えてきた。

 ハッキリ、今の僕たちは強い。

 装備的な面もあるけど、人間種の中なら指折りで数えられるくらいの順位には入るだろうという自負はある。


 けど―――。



「えっと……死にません? 俺ら」

「安心せい、その心配はいらぬ」

「あ! もしかして! 空間魔法を使って死んでも死なない仮想空間みたいなサムシングを作ってくれたり―――」

「たわけめ。そんな魔法のようなもの作れるわけがなかろう」

「まほうですけど?」


 

 魔法使いが何を。



「もっと良い方法がある。そこに丁度良い調停役がおるじゃろ? 余のいう事を何でも聞いてくれる騎士がの」

「……………」


「あ、嫌そう」

「凄く嫌そう」

「大陸議会に参加したいって言った時より嫌そうです」



 お願いだからやめてって顔してる。

 つまりはやったほうがいいって事だ。

 僕たちは先生の嫌がる事をするのが大好きな不良生徒たちだ。

 


「まぁ、そういう事でもある。ゆえ、死ぬことは―――――ないじゃろ」

「間開き過ぎでは?」



 ……うーん。


 

「いや、どうするよ」

「そらぁ……まぁ。やりたいが?」

「ラスボス倒した後の裏ボス……、まあ基本だね」

「そういう認識で良いんですか?」



 彼女は魔王だ。

 格で言うなら、どれだけ強く設定しても良いとされる。


 数百年、或いは千年以上も大陸における恐怖の象徴として君臨し続けた最強の存在。

 果たして、シオンさんを前にして今の僕たち四人だけで何処まで行けるのか……、興味はあった。


 ゲオルグさんやソニアさんじゃないけど、僕たちにも少なからず戦うことに対しての高揚があるのだ。

 恐怖と同じく、確かにあるものなんだ。



「「やります!!」」



 ………。

 ……………。



 ………。

 ……………。




「秘剣・炎聖刃―――!! おわッ!?」

「ほほっ、遅い遅い。どれ、まずはコウタから……」


「させませんよぉ!!」

「ほほっ」



 もう一人の前衛を庇い前へ出る。

 交じり合う剣と拳―――帰ってくる衝撃は金属そのものだ。


 戦いの場として選ばれたのは魔王城地下ではなく、遮蔽物の一切が存在しない広大な大地―――ロスライブズ領の何処か。

 康太と並び斬りこむけど、シオンさんはまさに魔王―――ゲームの大ボスが使うような空間移動を当たり前に多用して距離を詰め、躱し、攻撃してくる。


 武器の一つ持たず、徒手空拳で空間を薙ぐ。 



「炎誓刃・蒼焔!」

「焔の旋律!!」

「ぬ、蒼の炎か。じゃが、それが魔術であるのならば、余にも操れぬ道理はない―――、む?」



 康太が放つ超高密度の蒼焔を春香が自在に操る。

 或いは、シオンさんもまたイザベラさんのように魔術の主導権を奪取する術を知っているのかもしれない。

 けど、今回は彼女が指を振ってもその炎は変わらず燃え盛り、襲い続け。



「ほう―――余に術式の簒奪を許さぬか。面白いではないか……んむ。身体が重い……」

「……ッ」

「ミオ、そなたか。まるで重力操作じゃの」



 荒野には既に剣晶が咲き乱れ、黒鉄が侵食している。

 有利な戦場の中でなら、彼女が空間を跳躍しようとすぐに対応する事が出来るだろう―――今ッ!



「おおぉ、断空―――、ッ!?」

「良い連携じゃが……っふふ、そう簡単に余の玉体に触れさせてはやれんな、リク」



 また無手で剣を止められた!?



「否、触れてはおらぬよ」

「……!」

「気を付けろ、主様はエスパーだぞ。あと、よくよく剣と拳の間を―――」

「アルモス、黙っておれ」



 ……。成程、見えた。

 剣と彼女の手の間にはごくごく僅かに隙間がある。

 あくまで素手そのものではなく、空間で止められてるのか。


 なら―――。




「美緒、交代!」

「―――風切・真断ッ!!」

「ほう?」



 入れ替わり立ち替わりに剣舞を放つ中、美緒が渾身の銀閃を走らせると、シオンさんが眉根を僅かに動かす。



「概念たる空間そのものを断つか―――良いぞ……! 興が乗ってきた!」



 ……妖艶に笑む彼女の纏う服……風圧に靡くその一部が僅かに斬れている。

 今の美緒ならその領域にも入れるだろう。

 一撃の鋭さなら僕より美緒……、使用武器の性質も合っている。



「炎誓嵐舞・迦楼羅炎(かるらえん)!!」

「“四幻龍変”―――おりゃぁぁぁ!!」



「ほほっ……! 最上位魔術! そなた等全員踏み込んでおるか……!」




 不意に発生する、巨大な鳳凰と幻想の龍。

 大都市一つ軽く吹き飛ばす威力を持ったそれらは、たった170センチ程の身長しか持たない女性へと猛然と突き進み……。



「惜しいの。余でなければ有効打足り得る」 

「「!」」



 そのまま、開かれた「何処か」へと消え失せる。

 勿論そういう事も出来るだろうという考えはあったけど、これなら彼女の前ではほぼすべての攻撃魔術は何の意味も無くなる。


 空間魔法……ここまで出鱈目なのか。

 ……。



「さて、であれば―――……」

「「……!?」」



 攻撃が出来るなら、当然対象を生物にする事も出来るだろう、と。

 背筋が凍るような直感に従い、揺らぐ空間から急ぎ横に飛び退る。

 事実、大厄災との決戦において彼女は百を超える龍種を纏めて空間魔法で……。


 ………。

 何も起こらない?



「あー……、やっぱいまのなしじゃ。流石の魔王も考慮したぞ」

「「……………」」

「しなくて良かったかの?」

「「のーー!」」

「のーー!」



 四人同時、更に先生まで両手をバツ。

 いや、当然だけどね?

 魔王対勇者って言っても、あくまで手合わせでしかない……そこに即死技なんて出して良い筈もなく。

 

 魔王に良識があって良かった。 



「ふふふっ、すまぬすまぬ……。―――。まぁ、何じゃ。そなた達四人は、我が国にとっても余にとっても恩人であるからな?」



 楽しそうに笑っているシオンさん……、攻撃をやめてくれたはずなのに何でか嫌な予感がする。

 

 そう思った瞬間、地表に居た彼女の姿が消失。 

 存在しなかったように消えた次の瞬間、皆が弾かれたように同時に空を見上げ。



「ゆえ、相応に加減はするつもりであるが……、こちらも誰かと戦うなど久々じゃ」

「「―――――」」

「アルモス……、諸共死ぬでないぞ? 一度に三人は国が終わる」

「ちょ―――」

「待って! タンマ!」


「陛下ぁぁぁあ!! たーーいむ!! 私も死にまーーす!! ひいては貴女様しにまーす! あと―――」




『虚鏡』





『空裂』



 ………。



 今迄の異空ともまた異なる虚空……そう表現する他ない、ここではない「向こう側」が開いた。

 向こう側に見えるのは―――太陽?


 いや違う。

 だって……だって、虚空の向こうには……遍く星々のように、無数の太陽が輝いていたんだ。




「この程度生き残ってみい。空間魔法―――虚空鏡裂・焔」




 やがて、「向こう側」に存在する数百数千の太陽が、こちらへと降りてくる。

 当然に境界を跨ぎ、こちらの世界へと……。

 ―――。

 


「これ……、これェ!?」

「嘘だろ!? 一つ一つが()()じゃねえかッッ!?」



 そうだ。

 無数にこちら側へ放たれたソレは、一つ一つが先生の上位魔術“紅焔”……しかも、あの時のものとは比にならない巨大さ。

 あの大規模魔術が、数千と同時に放たれたんだ。


 ……本気?



「「春香(ちゃん)!!」」

「いけっ、ハルカ! 消火活動だ!」

「無茶いうなばかぁーー!!」



 いや……、だって。

 消えない焔が……一つですら数十メートルはあるだろう紅蓮の槍が、流星雨の如く飛来してくる。

 攻撃ってよりもはや大厄災―――天変地異だ。



「康太! ロイドールの防御でどうにかならないの!?」

「全部受けたら剣の前に俺がちぬ!」


「晶界生成―――」

「「!」」



 周辺一帯に咲き乱れていた剣晶が解けて収束。

 今に、現象としてあり得ない程に空間の気圧が低下していく。

 



「―――境界斬ッ!!」




 大業物の硬度を持つ幻想の鋼が一瞬で砕け散る程の斬風。

 薙ぎ払われた空間が歪み、第一射目の太陽を斬り祓う。



「春香ちゃん! 膨張圧力作戦で対抗します! ―――陸君と康太君は取り漏らしの迎撃をお願いします!!」

「「おーー!!」」

「成程ね! 了解!」



「んじゃ……“大海嘯壁”―――全力全快!!」



 膨張圧力作戦……名前こそ簡素だけど、理論上で発生するエネルギーは途轍もない。

 春香が大規模魔術で生み出した、カラの湖を丸ごと埋められるんじゃないかとさえ思える大質量。

 或いは、数億リットルもの水……当然、それですらあの天変地異を止めることはできないだろうけど、真の狙いはそこではない。

 生み出され大海に、太陽がぶつかり―――世界を覆い尽くすんじゃないかとさえ思える蒸気に変わる。

 


「―――くッ……、ぅ!! このまま……圧縮ッ!!」



 水が急激に蒸気へと変化した場合、膨張する体積の変化は約1700倍。

 もしも密閉された空間内ならば、諸共吹き飛ばす程の威力となる。

 元の水が10億リットルだと仮定すれば。



「風切―――“天蒸叢雲の太刀”!!」



 ―――発生する蒸気は一兆リットル以上。

 その威力全てを圧縮し、次々に襲い来る太陽へと迎撃させていくのはシュトゥルムの権能である圧力操作……。

 天、或いは星を貫く爆風が襲い来る太陽を蹴散らしていく。

 

 

「太陽と北風レベル100かな。……あー、康太? 僕らいる?」

「いらねーかも」

「もうあの二人だけで良いんじゃないか? 魔王討伐」


 

 無限に堕ちてくる裁きの雨を順々に留める圧力の力。

 あまりに暴力的な戦いはしかし、何処までもどこまでも続き……幾らシオンさんとはいえ、無限に魔力を持っている訳じゃない筈―――なのに止まないんだけど。


 やっぱり魔王は魔王だ。

 どうやって勝つのこれ。

 パラメーターとか存在するなら多分全部カンストとかでしょコレ。

 裏ボスじゃん。



「ほほっ。よもやこれすら止めるとは……。やるのぉ、勇者……。ならばそうさな。暫し止めてみるか」


「! やった!」

「止めるって言った! いま確かに止めてくれるって―――」




「回転を、の?」




「ぐ、がぁぁ!?」

「わぁぁぁぁ―――ッ!?」



 ………。

 嘘でしょ?

 世界がひっくり返るような感覚―――急激に身体が「横」へと墜ちていく、あり得ざる感覚。

 重力魔術……?

 或いは、引力の向きを捻じ曲げた?



「いや……まさか! 確かに空間を固定できるのなら……、けど―――まさかそんな……」

「考えてる場合かあぁぁぁ!!」

「なーーにこれぇぇぇ!! あたし降りる! こうふーく! 白旗ァ!」



 いや。

 「回転を止める」という言葉をそのまま受け取るのなら、さ。



「みお……? これって……」

「信じたくはありませんけど……」



「陸ぅ! 美緒ちゃーん! 何なのこれ!? なんであたしら横に落ちて―――手つないでイチャイチャすんなーー!!」

「ってかこれってあれか!? もしかして重力の方向性変えてたりするんか!?」

「いえ、恐らくは……」


「シオンさん―――多分、この惑星の自転自体を止めてる」

「「は?」」

「はーい、正解。だれかーー!!」



 僕たちや先生だけじゃなく、あの場にあった全ての物質全てが同一方向へと物凄い速度で吹き飛んでいく。

 慣性の法則だ。

 急激に動き続けている車がいきなり止まった時、搭乗者が投げ出されるのと同じ。

 

 星の自転速度によってその速さは当然に変わるけど――――地球でいえば、その速度は時速1000キロメートル以上。

 新幹線以上の速度で全ての物体が一定の方向へ吹き飛んでいく。

 台風の中に裸で立つ事なんて問題にもならない。

 仮にこのアウァロンのソレが地球と同じくらいだとすれば、納得だ。



「って事ね?」

「「……ジーザス」」



 面白半分で受けない方がよかったな。

 っていうか何でシオンさん急に手合わせしたいなんて……。


 暇なの?

 それとも運動したかったの? 何で?


 ……。

 ともかく、木っ端のように横へ横へと吹き飛ばされていく中で、ハッキリ思い知らされた。

 やっぱり魔王ってヤバい……と。




   ◇




「うえぇぇ……」

「やっばすぎ……」

「興味半分で挑むべきではありませんでしたね……」



 何はともあれ手合わせは終わった。

 後半は戦いっていうより、何が起こるか本当に分からない即死トラップ遊園地に迷い込んだ気分だったけど。

 っていうか、僕たちが普通の人間だったらあの後死んでたよね?

 最後に着地した瞬間デスポーンだよね?

 戻ってきた魔王城―――広い一室の床にへたり込む僕たちを満足そうに見回しつつ、シオンさんが頷く。



「うむ、うむ……。悪くなかったぞ。軽い手合わせであれじゃ。確かに、幾つもの不確定が重なる殺し合いの中ならば、余を殺し得る可能性も充分にある。そ奴が不覚を取ったのも止む無しよな……。許さぬが」

「あ、陛下? 許したわけじゃなかったんです?」



「それに……リクよ。そなた、何故光の聖剣を使わぬ?」

「……まぁ。一応、手合わせの体ですし……。身体に障るかな、と」

「む? 知っておったのか?」

「え?」

「ん?」


 

 ……噛み合ってるよね?


 浄化、その上位互換と言える聖化の光は神器オラシオンの権能。

 恐らくシオンさんにも通用する力だろうけど。


 そこまで使い始めたら本当に殺しあいだ。

 それより何より、全てが終わった今となっては普通の剣で十分だし……別にオラシオンを使うような敵もいないだろうしって、腰に下げてないんだよね。



「―――まぁ良い。労わってくれた事、嬉しく思うぞ。ほほほっ。いかに身重(みおも)とはいえ、適度には身体を動かさんとな」

「身体動かすってレベルじゃねっすよ」

「絶対に適度じゃなかったような気がするけど?」

「いや、本当に……ん? あれ?」

「シオンさん? 今なんと……」



 ……。


 ……。


 美緒も?

 いや、身重? 

 それって確か―――。



 今に、魔力の収束を解いたのか、第一形態から本来の姿へと変化するシオンさん。

 背は縮み、起伏は無くなり……なく、な……。



「「……………?」」



 あれ?

 なんか―――シオンさん……。



「あ、あの……」

「お昼食べ過ぎたりしました?」

「む?」



 気付かないわけがなかった。

 あまりに長く、あまりに綺麗な銀髪……、儚げな線の細さ。

 そして、お腹ポッコリ……。

 明らかに違和感を覚えるただ一つの要素―――幼児体型特有のイカ腹って言っても限度あるような。



「見ての通りよ。そもそも吸血種というのは他の魔族に比べても妊娠の確立が低くての。種族的性質なのか、他種族との間には一切の子孫を残す事が出来ぬのじゃが―――」

 


 ………。



「そ奴のような特例中の特例……。眷属にするとは、そういう役割もある。同種が周囲に居なくなった場合、子孫を遺すための最後の手段というわけじゃ。特に、余が純血種最後の一個体となった現在では、な」

「「……………」」



 気配を消して逃亡を図ろうとしていた犯罪者へ一斉に四人で飛び掛かる。

 第二ラウンド開始だ。

 シオンさんと手合わせする前より本気でヤル気になってるかもしれない。


 勇者パーティー合体奥義、海老反り十字固めチョークスクリュースペシャルの使い時が来た。 



「ちょ、痛……!! え、な、なにこれ―――痛い痛い痛い痛い!? 本編終了後にそんな奥義出したって使いどころが―――いたたたた!!」

「今があるじゃないですか!」

「この鬼畜!!」

「ロリコン!」

「ペドフィリアです、最低です。本当に最低です、先生。心底軽蔑します」



「まって! ホント待って!? こう見えて主様は二千年以上―――あんぎゃぁぁぁ!?」



 特殊性癖を咎められた結果ボコボコにされる最強の騎士が居るらしい。

 こっちがヒィコラやってる間にセイコラやる事やっててさ。

 なんてうらやま―――なんて酷い大人だ。



「くくッ。その辺にしてやってくれぬか? 皆」

「でも……」

「幸せなものじゃぞ? 愛する者の子を宿すというのは」

「「……………」」



 確かに、今の彼女は本当に幸せそうに見える。

 でも、どう見ても妊娠してから結構経ってるよね。



「気付いたのはそなたらが西側へ戻っていく直前じゃ。触ってみるか?」

「良いんです!?」

「で、では、少しだけ……あの、耳とか……」

「うむ、うむ。当ててみるがいい。興味深いものよ」



 喜んでお腹に耳を当てに行く春香と、同じく興奮のままに続く美緒。

 流石に僕たちは遠慮する事にしたけど。



「……。魔王と暗黒卿の子供て……」

「ヤバいね。人間視点だと悪夢だよ」



 魔と剣の頂点に座す存在同士のハイブリット……どうなるかまるで見当もつかないけど、ポテンシャルは確実に勇者以上だろう。

 空間魔法出鱈目に撃ちながら武器で大陸両断したりしない? 大丈夫?



「いてて……全く。私は止めたぞ?」

「あ、だから嫌そうな顔……。って」

「俺らの心配してくれてたわけじゃねーんすか!?」



 道理で本当に嫌そうだったわけだね。


 

「本当に危ない事をしようとしたら流石に止めるつもりだったが……」

「不良教師!」



 本当に危ない事のラインどうなってんの?

 太陽流星群とか、惑星固定とかは危ないのラインに入ってないの?



「―――ってかシオンさんがせんせに止められたくらいでやめる気がしないんですけど?」

「ですよね?」

「当然じゃ、余を何者と心得る」



 偉そうにえへんと胸を張る魔王は実際にとても偉い。

 ちんまりしてるのに威厳がある。



「そも、余に指図できる者など、この世界には―――」

「へいか?」



 ………。 



「……ぴぃ?」

「へ い か? これは一体どういう事なのですか?」



 部屋の中、誰もが錆付いたようにぎこちなく振り返った先には、ドアの前に立つフィーアさんが居た。

 優し気な微笑みを浮かべた、いつもの彼女だ。

 なのに……その意識が向いている筈でない僕ですら冷汗が噴き出た。


 比喩じゃなく、本当に底冷えするようなオーラが渦巻いている。 

 これが、先生たちが言ってた死の瘴気……?



「お部屋で安静に……、と。確かにお伝えしていた筈なのですけれど。身重の状態で、一体何をされていたのか……お聞かせくださいな?」

「……………の、のう? わが友よ? 余だってずっと部屋の中は退屈……」

「おへやで……お聞かせください。さ、こちらへ」

「てててててわらかに頼む、の? おおおなかの赤子(ややこ)に障るでの? の?」

「もちろんですよ?」

「顔が勿論しておらぬのじゃが?」



 まるで母親に叱られた娘のように手を取られる魔王。

 ……。

 なんか、気配消してソロソロと離脱しようとしてる人いるけど……。



「らぐなさま?」

「………フィ、フィーア? 私はちゃんと嫌そうな顔を……」

「一緒に来てくださいますよね?」



 手を引かれ、ダブルでお説教部屋に引き摺られていく魔王と暗黒卿がいるらしい。

 助けを求めるような視線が痛々しいし悲しいけど、自業自得なんだよねこれ。


 最強の騎士でも伝説の魔王でもなく、真の裏ボスは他に居たらしい。

 っていうか「嫌な顔してたし」が言い訳になると思ってるの?



『ゆーしゃー? 魔族の王へ大きな貸しを作るつもりはないかのーー?』

『勇者なんだから助けてくれるよね? ね? 師匠困ってま―――』



 最近耳鳴りがするなぁ。

 あとで美緒に掃除してもらって……。



「陸君。そろそろ」

「あ、うん。そういえばそうだったね。さ、僕たちもミルさんに会いに行かないと。いこ?」

「「おー」」



「「はくじょうものーーー!!」」

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ちゃんとストーリークリア後の激ムズイベント戦まであるとは… そしてちゃんとデキとる!おめでたい!
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