第二十五話:来訪の理由
「――お戻りになりましたか、皆様」
何度目かで慣れてきた地理。
森に扮した結界を通り抜け。
水の都市へ視線をやりつつ王宮へ戻ると。
すぐに、戦士長であるリディアさんが出迎えてくれた。
「ただいまです、リディアさん」
「クッタクタですよ」
「本当に、お疲れ様でした」
「有り難うございます。」
「……いかがでしたか? 彼等は」
「はい。色々と危なかったところはありましたけど――」
彼女と並んでい歩きながら。
あった出来事を話していく。
淡々と、何も知らない風に。
勿論、こちらが知っていることは話さず、あくまで戦闘などをメインにだ。
「――で、康太君が吹き飛ばされて」
「春香ちゃん、その話いる?」
「いるよ。ね? リディアさん」
「はい。敵の意図を悟り、未然に防ぐ。とても興味深い戦法ですね」
そろそろ頃合い、かな。
没頭してるみたいだし。
出来る限りさりげなく。
思い出したという風に。
彼女に何の機微も気取らせないように、本当にさりげなく問いかける。
「――あぁ。そういえば、リディアさん。先日も付いて来てくれて、有り難うございました」
「いえ、皆様には不要なことを……ぁ」
「「……………」」
「リディアさん?」
「……いえ。これは、その――申し訳ありません」
彼女を疑いたくはなかった。
凄く良い人だし、優しいし。
でも、一人目発見。
やっぱり、素直な人で。
最上位の冒険者だけど。
案外、この手の腹芸は苦手なのかもしれない。
―――先日の偵察。
いくら僕らを試す為とはいえ。
保険なく送り出すわけはない。
もしも本当に殺傷が起きるようであれば、双方にとって大きな不利益だから。
だから、まさかと。
僕ら四人は考えた。
―――もしかして。
リディアさん、コッソリ偵察を付けてた?
……で、この通りだ。
「リディアさんも、そっち側なんだ」
「酷くないっすか? 幼気な少年少女をこんな風に騙して」
ここぞとばかりに畳みかける二人。
こういう時、生き生きするよね。
「誠に申し訳ありませんでした。罰は如何様にも」
「じゃあ! 俺もその耳――ぶへッ!?」
「セクハラはもっとダメだよ? 康太」
「「……最低 (です)」」
いきなりなんて事を。
最低過ぎるよ、康太。
そっちばかりおいしい思いはズル…もとい、いけないと思うな。
言うのは彼だけなのに、美緒と春香がリディアさんを庇いながら僕たちを睨む。
いつもこれだよね。
僕は無実なのにさ。
「――まぁ、あまり虐めないであげてくれ。彼女は、一応止めていた側なんだ」
「「あ、出た」」
諸悪の根源だ。
悪ーい大人だ。
間違いなく、計画犯の一人だ。
回廊の向こう側から悠々と歩いてきた彼は、僕たちの言葉を聞き、不服そうに眉を顰める。
「何だい? まるで黒幕みたいに。私は、あの性悪女王に脅されて仕方なく協力せざるを得なかったんだよ。被害者だよ」
「……とか言ってますけど」
「どうです? 春香ちゃん」
「うん、有罪。というか、被害者なわけないじゃん」
―――なるほど、嘘か。
やっぱり便利な異能だ。
春香のリークを考えるに。
先生は、嬉々として参加していたのだろう。
彼の役割は情報担当。
今回の前提となる条件を達成するためには、僕たちの細やかな情報を提供していた人物が必ずいるわけで。
思い当たる人物など。
一人しかいないよね。
……でも、余計に。
そうなってくると。
この国に来たこと自体が罠のように感じて。
「リザさんもグルとか言いませんよね?」
「言わない言わない。今回の件は、エルシードとトロルの間で計画されたものだ。で、そこのエルフさんは危ない橋だって最後まで止めてたんだが、押し切られてね」
「「押し切られて?」」
それって、つまり?
「危ない橋ってーと……あ」
「もしかして」
「ついて来てくれたのは、危ない時に助けるため……?」
そういう意図は…うん。
どんよりした雰囲気と。
ふにゃりと下がる長耳。
彼女の性格ならば、そんな役回りが多そうで。
この人S級なんだよね?
まるで狂人らしさがないし、これまでの事を顧みると、先生以上に常識人で苦労人な気がするんだけど。
「止められず、すみませんでした。重ねて、お詫びを」
「いえいえ! そんな!」
「俺達は信じてましたよ。エルフ騎士がそんな腹黒い事するわけ――」
……本当に酷いものを見た。
必死にフォローをして。
慰める元気っ子二人。
でも、追い込んだのも二人な訳で……僕と美緒は、微妙な顔をするしかなく。
目の前の大人もまた。
苦笑を隠していない。
「掌くるっくるだね、あの二人は」
「「……………」」
でも、やっぱり一番裁かれるべきは。
この人で間違いないんだよね。
彼が負う、勇者の導き手という重責。
それは確かに分かるけど、「試練が無いなら作ればいいじゃない」はないんじゃないかな。
結果的には、確かに。
上手く行ったけどさ。
「「やっぱ悪いのは先生なんだ!!」」
「……向こうも結論が出たみたいだね。私は納得いかないが」
「いや、多分」
「妥当ではないかと思います」
美緒とリディアさんも。
雰囲気とか似てるけど。
こちらは損な役だけで終わらないのが強みだろう。
でも……足りない。
受けた恩も、仇も。
倍で返すのが彼の流儀らしく。
その教えを受けている僕たち弟子も、師の教えを生かすべきだ。
「……あの、皆様。そろそろ」
「あぁ、済まない。思ったより盛り上がったね。――行こうか」
「あ、はい」
「案内ヨロです」
「僕達、色々話したいんで」
未だ覚えきれないような。
入り組んだ宮殿だからね。
先生とリディアさんが歩き出し。
先導するように前を行く。
それは、素晴らしく丁度良い位置取りだったので。
僕たちはゆっくりと。
彼の背後へと回って。
―――静かにカバンをまさぐり、荒縄を取り出した。
◇
通されたのは玉座の間。
人払いされた空間には。
僕たち四人と先生。
後はゲオルグさんやリディアさん、セレーネ様が居る。
一応、護衛の戦士さんもいるけど。
あくまで最低限の人数らしく、緊張しないようにと、やや気安い雰囲気を作ってくれたことが伺えて。
「皆様の働きは、真の勇者に相応しい。――ええ、想像の斜め上でしたとも。こうも彼の言った通りになると、いっそ謀と疑ってしまいますね」
「謀ったのはあんた等だけどなぁ」
「「……………」」
「ゲオルグ。言葉を慎んでください」
「俺ぁ遠慮は好きじゃねんだよ。お前等も、何か言ってやれ」
しかし、御前に違いはなく。
セレーネ様にああいう口が利けるゲオルグさんは凄いのか、馬鹿なのか。
リディアさんがたしなめるも。
まるで慎む様子は見れないし。
むしろ、その逆で。
僕ら四人をけしかけようとすらしているよね。
「勿論、謝罪致します」
しかし、セレーネ様も流石で。
彼の糾弾を正面から受け止め。
僕たちに向き直る。
「此度の件、我らエルシードが仕組んだこと。申し訳ありません、皆様」
……………。
……………。
「まあ、これで信用してくれたなら」
「保険は掛けていてくれたみたいですし?」
「気にはしてません」
「上手く行ったのなら、良かったという事で」
実は、怒りはほぼない。
本当に確認しただけだ。
そもそも僕達がこの国へ来た理由がソレという訳ではないし、タダ働きという訳でもなかったし。
大陸議会の件とかを。
了承して貰えるなら。
ある意味では、安い物だとも考えられる。
セレーネ様は僕たちに微笑みかけると、頷いて再び口を開く。
「その優しさ、感謝しますよ」
「蟠りが無くて良かった。――じゃあ、これ解いて? 我、被害者ぞ?」
「それで、その――」
「おーい、聞いてる?」
「質問なのですが――」
「ちょっと? ねぇ、先生の話も聞いて?」
美緒が何とか言葉を探しているのに。
ガヤが凄くうるさいな。
無視しようにも面倒で。
嫌でも目に入ってくるのが、また困る。
玉座の次は蓑虫で。
本当に忙しい人だ。
今回に限っては、やったのは僕たちだけどね。
前の時もそうだったけど。
コロコロ転がりながら言葉を紡ぐその姿は、誰がどう見ても煽っているように見えるだろう。
率直に言って蹴りたい。
全面に絨毯が引かれているからまだ良いけど。
埃塗れだろうし。
「……どのようなやり取りが有ったのかは問いませんが、神聖なこの場に似合わぬ姿、見るに堪えませんね。――リディア」
「はい、セレーネ様」
その言葉は最もで。
当然の反応だった。
自分の目の前を変態が転がっていることに不快感を覚えたのか。
セレーネ様が指令を出し、命を受けたリディアさんも、まるで躊躇わず実弾を放つ。
が……当たらない。
本当に当たらない。
右にコロコロ、左にコロコロ。
絨毯を綺麗にしながら、彼は汚れた大人に成長していく。
「リディアの魔弾が当たらぬとは」
「………何故でしょうね」
二発、三発。
一度に複数の矢が放たれるものの、それらは全て身体を掠め。
次第に無意味と悟ったか。
攻撃の雨が止んでしまう。
「……恐れながら、セレーネ様。折角の絨毯に穴が」
「そうですね。セフィーロから取り寄せた最高の品ですから…この請求はナクラさんの名義でギルドへ送らせることにしましょう」
「勇者名義にならんです?」
「「ならんですッ!!」」
「……はぁ。それで? 皆。言いたい事があったんだろう?」
話を遮ってた人が何を。
……でも、今はそうだ。
すべきは変態の相手じゃなく。
彼女たちに「何故」と問いかけ、本題を切り出す事。
「――今回の件、何の目的もないとは思えません」
ようやく来た機会に。
切り替える僕と美緒。
こういうの話は。
こっちの領分だ。
春香と康太がやりにくい部分を、二人で担当していく。
「あの試験には、どういう意図があったんですか?」
「差し支えなければ、私たちにも教えて欲しいです」
……………。
……………。
空間に広がる沈黙。
重苦しい空気の中。
応とばかりに、口を開く者がいた。
「――それこそが、本題よ」
「「え?」」
美緒の疑問へ答えたのは。
全くの埒外だった人物で。
……そうだった。
再会した時の衝撃で吹き飛んだけど。
何らかの任務であれ、私用であれ。
S級冒険者たる彼が何の理由もなくこの国に捕ま……じゃなかった。
やって来るはずがない。
そこには、必ず。
何らかの意図が存在している訳で……。
「――冒険者ゲオルグ」
「貴方は、少し――」
「いんや。勿体ぶっても、どうせ話すことになるだろうからな。それに、俺から伝えた方が分かりやすい……だろ?」
「……では、任せましょう」
セレーネ様の言葉、続くリディアさん。
両者の視線に怯まず。
そして、任せられる。
やはり、彼もグルだ。
――というより、事情を知っている側なのだろう。
「では、ゲオルグさんがこの国に来たのは」
「一体、どういう用事なんです?」
こちらへと向いた彼は。
僕たちの放った言葉に。
「おう」と返事をかえす。
本題、本来の目的は。
彼がやって来た理由。
その可能性までは。
あまりに意外なその言葉までは、予測できなかった。
「目的があったとはいえ、その前に面倒なことに巻き込まれはしちまったが、むしろ時期が合った。俺がエルシードまで来たのは……」
「―――竜を、喰らうためよ」




