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48:俺に勝ったら話してやるよ

「ほんとどういうことっすかこれ?」

「ん? あぁ」

「なんっすかその反応は……」


 あの事件から四日後。


 俺と堂上は病室にいた。


 ここは学校から程なくにある大きめの病院だ。

 俺と堂上はその中の病室で話をしている。


「むーさんも新聞読んで思うところがあったんすか?」

「あーいや。

 別に何も思わないんだけど、今回の事件の後処理だから一応覚えておかないと行けないからな」

「覚えておかないとってどういうことっすか?」

「今後マスコミとかにこの手の情報を聞かれた時に答えられるようにな。

 まぁ、宵と俺でしっかりやったから特に生徒に何か聞きに来るようなことはないと思うけど、一応覚えておいて損はないし」


 俺と堂上は病室にいるが、どちらかが怪我をしているわけではない。


「あんたたち、なんで人の病室に来てまで新聞読んでるのよ……」


 病室の主は被瀬だ。

 被瀬はあの戦いの後、極度の『心のチカラ』不足と体の限界以上を出してしまったため、安静にすることになった。

 要は極度にひどい筋肉痛みたいなものなのだが、流石に酷使しすぎたということで一週間入院することになっている。


「それで、どうなったのよ」

「それが聞いてくださいっすよー」


 堂上が新聞に乗っていた内容を噛み砕いて説明する。


 今回の事件に関しては、本当の内容に関しては公表していない。

 そもそも『ウィクトゥス』絡みの事件だ。

 おいそれと公表できるものでもないし、犯人が生徒と先生というのもまずい。


 そのため、今回の事件に関しては『新種のウイルス』事件として処理をした。


 『体育場』で合同練習を行っていた『生徒会』と『風紀委員』の中で突如新種のウイルスが発生、発症した。

 その内容な未だに不明だが、調査によると能力の暴走と錯乱の症状が現れるため、現場にいた発症者と未発症者は混戦を始める。


 幸いにも未発症者の集団が混戦の中残る。そこに居合わせた早乙女先生に関しても発症してしまい、錯乱するもその場の生徒たち複数人で鎮圧をした。


「『新種のウイルス』って……。

 小学生でも思いつくっすよこんなの……」

「確かにこんなの疑ってくださいって言ってるようなものじゃない……」


 ……俺が思いついた筋書きだとは言えない。


 そして、その『新種のウイルス』の対応として学校は能力者による滅菌と休校を決行。

 一週間の休校と滅菌のための能力者を用いて、もとの学校生活を提供するという。


 というのが俺と宵で作り出した今回の事件だ。


「ま、どうせあんたのことだからなんともないんでしょ?」

「……むーさんならなんとかしてくれそうっすね」

「お前ら俺をなんだと思っているんだ」


 二人からの視線に俺は返事をする。


「だってあんた私がこんなになってるのにピンピンしてるじゃない」

「そうっすよ!

 俺だってそこそこ怪我したのになんでそんなに無傷なんすか?!」

「俺は回復が早いんだよ」


 二人の言葉に俺はそっけなく返す。


「それに!

 なんであんなに早乙女先生を一発で倒せたっすか?!

 ボロボロだったじゃないっすか!」

「あれは能力を使っただけだよ」

「それで済むんすかね……?」

「それで済むからこいつはやばいのよ……」


 堂上と被瀬が顔を見合わせている。

 その様子に俺は苦笑いしていると、


「あっ。

 二人共来てたんだ」

「真冬!

 大丈夫っすか?!」

「大丈夫よ、近づかないで、何かが悪化する」

「その対応はなんとかならないっすかね……」


 柊が病室に入ってくる。


 ちなみにここは人利用の病室だ。

 VIPルームだかなんだかわからないが、一人用の部屋で病室をとるとは驚いた。


 確かに今回の事件の関係者に関してはなるべく外部と接触させないように口利きをしておいたが、被瀬一人だけ少し違う対応になっている。

 少し一人で使うには広すぎる病室を改めて見回していると、


「あ、今朝の新聞見たよ。

 あれ宵先生と覆瀬くんが後処理したんだよね?」

「ん?

 あぁ、確かに今回の事件の後処理は俺と宵がやったよ」


 正確に言えば、もう一人手伝ってもらった人がいる。

 膳材流。

 普段は手助けなんて絶対しないような人だが、流石に自身が校長をしている学校のこととなれば動くらしく、情報の操作をやってもらった。


「もしかして、あの嘘の記事の内容、覆瀬くんが考えたの……?」


 柊は持ってきた紙袋の中からフルーツを取り出す。

 堂上と被瀬の視線がこちらを向く。


「あー。

 それなら宵が考えたやつだぞ、うん」

「嘘っす」

「嘘ね」

「流石にごまかすの下手すぎないかなぁ?」


 堂上と被瀬に一蹴され、柊は苦笑いで自身の手に持っているフルーツを、被瀬のベッドの隣のテーブルに置いた。


「……はぁ。

 確かに俺の考えたやつだよ」

「あんた、なんでそんなしょうもない嘘ついたの?」

「俺だって考えに考えたよ!

 宵が何でもいいって言うから本当にしっかり考えたんだけどなぁ」

「あ、いや、そういうことじゃなく」


 被瀬は柊のおいたフルーツを見ながら、俺に質問してくる。

 俺はそういうことじゃない、という言葉に疑問を浮かべる。


「いや、なんでこのことを公表しないのか、って」

「そうっすね……。

 あんな危険な薬があるならそれをみんなで知っておいたほうがいいんじゃないっすかね?」


 被瀬と堂上の言葉にうなずきながらも、


「それは少し良くないんだ」

「良くない?」


 ようやく椅子に座った柊の言葉に、話を続ける。


「多分勘違いしていると思うけど、早乙女先生が使っていたのは正確には『ウィクトゥス』ではない。

 あれは効力を薄めた『ウィクトゥス』と、既存の薬物の混合薬だ」

「薄めた『ウィクトゥス』?」

「そう。

 本来なら『ウィクトゥス』は摂取した途端、ありえないほどの能力の暴走が見られる。

 それこそ前にも話した半径後キロを更地に変えるってやつだな。

 でも、今回はそれがなかった」


 いくら身体変化型でも、早乙女先生の変化は弱すぎる。


「それに、薄めたおかげか意識を保っていた。

 本来ならまずありえない。

 破壊の限りを尽くしていく」

「……っていうと、どんくらいっすか?」

「それぞれの能力に会った方法だよ。

 精神干渉計が面倒くさくて、街一つ分の人間の心を壊しにかかる」


 『ウィクトゥス』は、生半可に使わせていい薬ではない。

 前回は正直学校の全壊を予想していたが、蓋を開けてみれば、


「早乙女先生は常時意識を保っていたし、『硬質化』の能力で『ウィクトゥス』を使ってあの程度だとしたら、すぐに公表しているよ」

「……私がこんなにまでなったのにあの程度って……」

「むーさんだって死にかけだったじゃないっか」

「俺に関しては別にいいんだよ。

 死にかけでもなんとかなるし」


 確かに死にかけてはいたが、それは早乙女先生が強かったからではない。


「流石に新種の毒を喰らえばあそこまでなるよ」

「……そういえば毒はどうしたのよ、あんた」

「あれだったら戦闘中に『慣れた』おかげで回復できた」


 そういえば、と俺は堂上と柊の顔を見て、


「助かった」


 頭を下げた。


 最後の早乙女先生の一撃は、正直誰かに配慮する余裕がなかった。

 『心のチカラ』は最小限、手助けがなければ確実に死んでいた。

 その中で背後にいた被瀬を回収してくれたのは非常にありがたかった。


「なんで今そういう事言うっすか……」

「いきなり過ぎない……?」


 二人は俺が頭を下げたことに恥ずかしがって、俺と顔を合わせようとしない。

 ……まぁ、俺も気まずくなって顔を逸らしたんだけど。


「被瀬」


 その流れで俺は被瀬の方を見て、


「ありがとう。

 死なずに済んだ」

「……ふんっ。

 このお返しはいつかもらうからっ」


 被瀬は少しツンとした態度で返事をする。

 その様子に俺はくすっと笑う。


「それにしても、もう少しで夏休みっすか」


 そのタイミングで堂上がぼやく。


「7月に入ったし、後二週間くらいか」


 柊の言葉に、俺は少し感動している。


「あら? むーさんなんでそんなにしみじみした顔してるっすか?」

「あ? いや、『夏休み』何年ぶりだろうって感動してたところだよ」


 その言葉に、俺は一瞬で失言を悟る。


「えっ?」

「あんた、夏休みなかったって」


 女子組二人は純粋に驚いている。

 それでいい。

 そこで思考が止まっていてほしい。


「むーさん。

 やっぱり教えてほしいっすねぇ」


 だが、ここに頭の冴える人間がいた。

 その敬語だかなんだかわからない口調の話し方にため息をつく。


「むーさんの過去。

 『夏休み』がない人生。

 そんなに強い人生。

 四杯先生と知り合いな人生」


 堂上は俺のずいと寄ってくる。

 その圧を前にして俺は、


「俺に勝ったら話してやるよ」


 すごい大人げないことを言った。

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