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46:無理、しないでね

 攻めあぐねる。


 そんな言葉があるが、それを人生で経験することになるとは思っていなかった。


 学園最強。

 私はいつの間にかそこで立ち止まってしまった。


 あの日。

 円城くんが暴れたあの日。

 誰も『体育場』の中に入れない中、私だけが入ったあの時、


 私は思った。

 敵わない。

 勝てない。


 今思えば、ムスビにまとわりついたのも、それが理由だったと思う。


 それから、話を持ちかけられた。

 被瀬という女の子だった。

 その子もあの場にいたが、強いとは思ったが、ムスビを見たときのような絶望感はなかった。


 被瀬結、堂上協、柊真冬。


 将来有望な者たちだ。

 恐らく三年になればランキング戦でもいいところに行くだろう。

 そんな彼女らが、気にする人物。

 覆瀬結。

 彼は本当に謎の多い人間だった。


 学校の外で力を試したときは、思わず死んだと思った。

 すべてを受け止めてなお、微動だにせず、それでいて返しの攻撃は死を錯覚させるものだった。

 死を錯覚する、なんて学生のうちに体験することがあるだろうか。


 俄然興味が出てきた。

 そこから能力を使わないで戦い、彼の異常さを見せつけられた。

 そこに追いつこうと、『訓練』を受けに行ったりした。


 三年になって、久しぶりに充実した生活をしていた。


 メルが乱入するあの時までは。



☆☆☆☆☆


 協は、昔から不思議なやつだ。


 誰にでも話しかけ、誰とでも仲良くする。


 だけど、それ以上は踏み込まない。

 私も似たようなものだが、協はその間隔のとり方がすごいうまい。

 近くにいるから分かる。


 協は誰にも興味があるし、興味がない。


 だから、なんで学校で『無能』なんて呼ばれている人にこんなに興味が出ているのか、知りたかった。


「お願いします!」


 頼まれたのは、予想外だったけど、そんなに協が興味が出る人なら、見てみたい。

 そんな好奇心だった。


 だけど蓋を開けてみれば、ヤバい人だった。

 こんな人が、こんなすごい人がいるんだ、そう思った。

 あ、後死ぬほど『訓練』をきつくする人。


 会長と戦ったときは、素直にすごいと思った。


 今思えば、あのときは『心のチカラ』不足で戦っていたのかと思うと、恐ろしいけど。


 正直、なんでこんなに大きい事件に関わっているのか知らないけど、心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分もいることに気づいた。



☆☆☆☆☆



「真冬!」


 声が聞こえる。

 私は、数人の相手をしている。

 それらの人は『強化』の能力者だったり、『作成』で武器を作る相手だったりする。


 それらを相手に私は、一人で盾を持ち応戦している。


「大丈夫っすか?!」

「大丈夫!」


 後ろから聞こえてくる声に、力強く答える。

 協は私の後ろでサポートに徹してくれている。


 現状三人と相対してもやられないのはそのせいだ。


「このままじゃジリ貧っすけど、こっからなにか良い手はあるっすか?!」

「ない!」

「清々しいっすね!」


 三人の攻撃を受けるとなると、それは激烈なのだが、協の能力のおかげで、『能力』を一瞬でも使えなくすることで相手の連携のバランスを崩している。

 今は近距離を一気にひきつけているけど、遠距離からの攻撃がこれに加わるとなったら厳しい。


 それに、相手の様子もおかしい。

 少し好戦的と言うか、前のめりに攻めてくるのだ。

 幸い、そのおかげでなんとかなっているというところもあるが、持っている『盾』が間に合わない。


「……イチかバチかにかけてみるっすか?」

「やって!」


 こっそりと聞いてくる協に、私は間髪入れずに返答する。

 そろそろ能力で作ってもらった盾が間に合わない。


 『強化』の能力者の渾身の一撃が来る。


「なんとかそれ、防ぎるっすよ」


 もし目の前にいたならば殴っていたであろうセリフを言われ、私は構える。


 四杯先生から教えてもらったのは、守り方。


『あなたの守り方は、固い守りをしていますわ。

 それはあくまで強者の守り方。

 絶対の砕けない力が必要なものですわ』


 真正面に来る拳に対して、角度をつけて盾を構える。


『あなたは誰か守るために戦うのでしょう?

 ならば、守り方は……』


 拳のインパクトに合わせ、逸らしたい方向に力を加える。

 地面に衝突する拳。

 地面がひび割れる。

 食らっていたら一発でアウトだったろう。


 そして同時に、盾も壊れる。


 もう守ることは……できない。


 目に映るのは、二人の攻撃に映る姿。


 ……まだまだだな。

 構えたせいで逃げるための切り返しが間に合わない。

 だけど、大丈夫。


 後ろの二人が、糸の切れた人形のように自身の持っている武器を落とす。

 そして、地面に膝を突き、頭を抱えた。


 目の前の『強化』の能力者も同様に頭を抱えている。


 これをしたのは、ただ一人。


「協」


 協は私の声には答えず、無言で頭を抱えている一人に近づき、頭を殴った。


 その一撃で脳震盪を起こし、倒れる。

 残った二人にも気絶させると、


「っと。

 真冬、大丈夫っすか?」

「大丈夫だよ」

「そうっすか。

 だけどこれ聞いてよかったすねぇ……」

「そうだね」


 協は、四杯先生の『訓練』で、成長した。

 一番先生の言葉をしっかり聞き、ノルマをこなしていった。

 その最中、比較的一緒に『訓練』していた私は、四杯先生が協に不思議な指導をしているのを聞いた。


「これって、何したの?」

「うーん。

 なんていうか、能力の応用で立っていられない・・・・・・・・ほどの絶望を共有しただけっすよ」

「そう」


 『心の中の一番醜い感情を共有して見ることこそがこの能力であり、あなたの一番の力じゃないの?』


 今、協は立っていられないほどの絶望を共有した、といった。

 それはつまり、自分も同じ感情を抱いているということ。

 私は思わず、


「協!」

「? なんすか?」

「無理、しないでね」


 昔なじみの協には、冷たく当たっていた。

 人に興味がある癖に、人一倍人と距離を取りたがる。

 そんなちぐはぐな様子が、嫌いだった。

 けど、ここまでのことをされれば流石に心配する。


「別に無理なんかしてないっすよ。

 さ、他の人も助けに行くっすよ」


 協は周りを見て、交戦している『生徒会』の人たちの中から、厳しい戦いをしている人を見つけ、参入していく。


 私は、その後ろを走る。


 協の背中は、大きかった。

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