45:ワタクシの必殺技
ワタクシは、また失敗した。
そもそもとして学校の生徒がワタクシの『掌握』を前に抵抗することができないと決めつけていた。
ムスビと『生徒会室』で会ったときには、すでに『掌握』の能力によってあらかたの調査はしていた。
そのため、事件の内容や解決に協力をするなど言い出した。
それに『ウィクトゥス』のことに関しても油断していた。
『ウィクトゥス』はそもそも摂取しただけで理性を失うほどの劇薬。
それを希釈したということに気を取られ、『ウィクトゥス』=『神の涙』だと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば違った。
『ウィクトゥス』の他に、様々な薬物が体に害が出ない量混入していた。
だからこそこの学園の生徒でもワタクシの『掌握』に抵抗できた。
『縛り』を解除した『生徒会』と『風紀委員』が一斉に攻撃を始める。
ワタクシを避けるように飛ぶ遠距離攻撃に、ため息を付いていると、
「ふふふ。
解除してしまっていいのですか?
すでに僕の操作がみんなにかかっているのであなたの『掌握』とやらを上書きするのは骨が折れますよ」
「……はぁ。
ムスビが鈍っていたことなんて予想の範疇でしたけど、あちらが薬に精通していたとは」
「確かに僕もそれなりに知識はありますが、早乙女さんほどではないですよ」
虚勢を張る。
悪いのはワタクシだった。
もしもっと準備できていれば、そう考え、心のなかで悔しさに歯噛みする。
「すまんなー、宵」
「……あなたこそ死んだら承知しないですわ」
その言葉に、更に胸が締め付けられる。
本当はワタクシ一人で解決するつもりだったのに。
また、ムスビに頼った挙げ句、このざまだ。
これでは『無体』の連中に笑われてしまう。
「これ以上のお遊びは終わりです」
ワタクシは構える。
その姿に、あざ笑うかのように耳道君はこちらを見る。
「この状況で何か抗えるとでも?
すでに僕は自身に『操作』をかけている。
それに、これもある」
耳道君は懐から何かを取り出す。
それは、注射器。
中になにか液体が入っていることが視認できる。
……止めましょう。
手を前に出し、握りこぶしを作る。
首元にその注射器を刺そうとした耳道さんの手が、何かに掴まれたかのようにピタリと止まる。
「……なにかしているんですか?」
恨めしそうにこちらを見る耳道くん。
その様子に、ワタクシはニコリとほほえみながら、
「いえ。
そんないかにも怪しいものを使わせる、なんて流石にありえませんので」
「……これも『掌握』ですか?」
「ならあなたのご自慢の『操作』でなんとかしてみては?」
ワタクシの言葉に素直に従い、耳道君は自身に『操作』をかける。
当然、なんの介入もなくかかる『操作』
でも、彼の手は動かない。
そのことに耳道君は何をされているのか分かっていない。
「……何をしているんですかほんとに」
「ワタクシはただ『能力』を使っているだけですわ」
ワタクシの能力は『掌握』や『奪取』といった大層な能力ではない。
本当の能力は、ただの少しの、ちっぽけな『能力』。
私の思いがこもっている『能力』。
「さ、諦めて殺されてください」
「むざむざと殺されるわけないじゃないですか」
「いいえ。
むざむざと殺されるのですわ」
まずは薬をなんとかしましょう。
ワタクシは、前に突き出した手を、強く握る。
すると、耳道さんの腕にどんどん圧力がかかっていく。
「い、痛い」
「少し我慢していてくださいね」
「いだいいだいいだだだだだ」
耳道くんの声がだんだん悲痛なものに変わっていく。
それとともに、目に見えてわかるほどに腕が圧縮されていく。
それはまるで、何かに掴まれているかのように。
「あぁぁぁああぁぁぁ」
大声も出ないのか、ただひたすらに念仏のように痛みを訴える。
聞き慣れたその声を聞き流しながら、
ミシャ
耳道くんの腕は絞られた雑巾のように小さくなった。
「…………は?」
まるで自身のものではないかのように現状を見る耳道さん。
……あら、学生には現実的じゃないから痛覚がオーバーヒートしてしまったのかしら。
気絶を目的にもしていたため、予想とは違う反応にがっかりしながらも、
「それでは、強制執行でいいですわね」
「あぁ……」
彼の絞りカスのような右腕から落ちる注射器。
それを見つめる彼に、ワタクシは近寄っていき、手をのばす。
「教祖様の邪魔はさせない!」
そこで、邪魔が入った。
横から太った男の子の乱入。
頭の中の優先順位は、攻撃してくる太った男の子の方が優先される。
ワタクシの必殺技。
手を伸ばす。
触れる体。
掴む。
それは、『生命』
掴み、盗る。
「ぐぎっ」
汚い声を出して、太った男の子は力を失ったように倒れ込む。
その様子を確認せずに、すぐさま耳道くんの方にもう一度振り向くと、
「くひっ」
そこには座り込み、左手で地面の土を食う耳道くんの姿があった。
土?
その疑問はすぐさま解消される。
食ったその土には、
「ああああぁぁぁぁあぁぁぁ」
|さっき落ちた注射器の中身が染み込んでいた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
一瞬で膨れ上がる気配。
理解した。
『ウィクトゥス』
すでにこうなればもう人間への配慮など必要ない。
掴む。
それは、命の糸。
彼、耳道甲午の命の糸。
『掌握』『奪取』のその先。
引きちぎる。
だが、
「くっ」
体が言うことを効かない。
これは、『操作』されている。
自身を『掌握』する。
しかし、『操作』は解除されない。
ワタクシは、自身の首を、自身の手で締めることになる。
『操作』されているため自分でもありえないくらいの力を発揮している。
危ない。
「四杯先生!」
周りの人は散り散りに戦闘しているが、近くにいる秋元さんが声をかけてくれる。
流石にこれは『生徒会』のみんなじゃ対応できない。
幸いにも、まだワタクシを殺すほどの力は出せていない。
『掌握』による抵抗はずっと行っていた成果が出た。
「殺す」
そこで、耳道くんがこちらに向かって突進してくる。
片手の状態で何ができるのかはわからないが、これ以上傷ついてしまうと修復に時間がかかる。
『大気の掌握』
あまり大きな力は発揮できないが、止めるだけだったら十分。
『掌握』してしまっているため、すでに命の糸は手放してしまっている。
そして、目の前には攻撃性の高い耳道君。
自殺するようにかけられた『操作』は抵抗はできるものの、打開はできない。
……いつもなら『ウィクトゥス』を使った後はワタクシの出番ではないのに。
そう心の中で愚痴りながらも、打開策を探す。
「大丈夫ですか?!」
そこで、横から来た乱入者。
その乱入者……秋元さんは、耳道くんの腹に見事な回し蹴りを決め、ワタクシから距離を離す。
「ナイスですわ!」
「……『操作』されているのですか?」
「えぇ。
抵抗はしているのだけど、この状態で止めるので精一杯ですわ」
両手が自身の首にかかっているのを見せ、残念そうにする。
その姿に秋元さんは何かを決意したかのように耳道君の方を見る。
「私が耳道をやります」
「あなたでは無理よ」
「……そう、ですか。
なら、どうすればいいですか?」
即答してしまったことに、少し言い過ぎたかと感じながらも、
「なら、ワタクシの腕を炭化させてくださるかしら?」
「……は?」
現状、ワタクシの腕が一番の面倒な要素になっている。
なら、使えないほうがマシだ。
「大丈夫ですわ。
ワタクシには治療の術がありますから、安心して両腕を燃やしなさい」
ワタクシの言葉に秋元さんは口をパクパクと動かすが、
「わかりました。
後でなにか行ってきても知りませんよ」
「いいですわ」
まぁ、面倒ですが、ここで『ウィクトゥス』使用者を仕留められるなら、お釣りが来るくらい。
秋元さんはワタクシの両腕に触れる。
痛覚を完全になくすことがまだできないので、多少の傷みはする。
けど、その結果、両腕は見事に炭化し、首元から離れる。
「ありがとうございますわ」
「……なんでお礼を言われているのかわからないですけど……」
浮かない顔の秋元さんのことを一瞥して、耳道君の方を見ると、そこには立ち上がった耳道君の姿が。
「じゃあ、行きますわよ」
手がなくても、ワタクシは『掴める』
それは当然、命の糸も。
命の糸を再度掴むことなど簡単で、
「ワタクシの必殺技、裏」
それをそのまま引きちぎった。
耳道君は、
何も言わず、
何も反応を起こさず、
そこに立ち、
絶命した。




