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琥珀  作者: 優希
第一章
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2/13

共に暮らすようになり、僕の知識が偏っていることに気付きました。

日常会話に支障はありませんが、人が生活を通して普通に知っていることを知らないのです。

自分が機械だ、と思い知るのはそんな時です。


「そうそう。大分、上手くなったわね」


少し意識が逸れていましたが、今は夕飯を作っている最中でした。

料理を作る、という作業も、僕は知りませんでした。


「上達しましたか?」


「うん。そろそろ君一人で台所に立てるね」


「それは、琥珀さんが楽をしたいだけでは?」


「あ、分かっちゃった?」


彼女は、悪戯の見つかった子供のように笑います。


「あ、蛙だ」


不意に彼女が、台所にある小窓を見て呟きました。


「かえる、ですか?」


僕は、”かえる”を知りません。


「ほら、そこに緑色の小さな生き物がいるでしょう?」


彼女と同じように小窓から外をのぞいてみます。

そこには、ピョンピョンと身軽に跳ね回る小さな生物がいました。


「あれが、蛙と言うのですか?」


「そう。雨が好きなのよ。蛙にはたくさんの種類があってね、あの小さな蛙は雨蛙って言うの」


あまがえる。

僕は、”蛙”を知りました。

彼女の知っていることは、とても興味深いです。

僕の知らないことを彼女から教わるたび、彼女に近づけているような気がします。

僕は、この不思議な感覚が不快ではありません。


「他にはどんな名前があるんですか?全部、教えてください」


つい、勢い込んでしまったようです。

彼女は目を丸くしたあと、クスクスと笑いました。


「貪欲ねぇ。また見かけたときに教えてあげるから」


「……貪欲、ですか…」


それは、僕らを造った人間に当てはめられた言葉です。

少し落ち込んでいると、彼女は朗らかに笑いました。


「私だって、全ては知らないの」


「琥珀さんは、蛙が嫌いなのですか?」


「うーん、嫌いではないけれど…好き、というわけでもないかな」


それは、どういう感情でしょう。

感情を持っていない機械の僕には、理解できないのでしょうか。


「それさえあれば何も要らない、くらいに、それのことを好きな人が知っていればいいの」


「そうなんですか」


それは、どんな人なのでしょう。

僕には想像がつきませんでした。

少し会ってみたい気もします。

でもすぐに、彼女以外の人間には会いたくない、と思い直しました。

彼女以外の人間は、正直まだ苦手です。


「そういえば、君に好きなものはないの?」


僕は少し考えて答えました。


「ありますよ」


「へぇ。何が好きなの?」


「琥珀さんです」


彼女は、きょとん、とした顔をしました。


「……私?」


「はい。琥珀さんさえいれば、他には何も要りません」


「……えっと、うん。と、とりあえず、ありがとうって言っておくね」


「何故ですか?」


僕が聞くと、はにかんだような笑顔を浮かべた彼女は言いました。


「私も、君が好きだよ」


その言葉は、僕の問いかけの答えではありません。

しかし、僕は頷きました。


「…はい」


何となく、彼女の答えが分かったような満足感があります。

彼女は照れたように口を尖らせました。


「そこは、ありがとう、でしょう?」


彼女は、何処か温かいような感情を教えてくれます。

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