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琥珀  作者: 優希
第三章
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12/13

告白

黙って聞いていたゴウは、ハッと顔を上げた。


「琥珀。辛いなら無理して話すことないぞ」


やっぱり、ゴウは優しい。

咄嗟に私を庇ってくれた、あの子のように。

でも、私は首を横に振った。


「本当に話したいことは、そのあとの話なの。どうしても、ゴウに聞いてほしい」


私は深く息を吐くと、言葉を続けた。


「琥珀さんがいなくなったあと、私は寂しくて堪らなくなって、彼女の遺したノートを頼りに…造ってしまったの」


「造ったって…」


「君を、君たちを造ったのは、私だよ」


言葉を失ったゴウを見ていられなくなり、私は顔を伏せる。


「俺たちを…琥珀が…?」


「…ごめん…」


絞り出した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。


「私には、機械に感情をつけることが出来なかったの。そして、頭の悪い私は、心を持たない機械たちを貪欲な人間に渡してしまった…」


天才だった彼女は、自分の造ったものを人間に渡したら、どんな風に使われるかを予想していたんだろう。

だから、私を渡さなかった。

私はそんなことを何も考えずに、人間に言われるまま渡してしまった。

拳を、強く握り締める。


「ごめん…。ゴウが辛い思いをさせられたのは、私のせいだった」


私がずっと告白したかったのはこれだ。

彼も、ゴウも、他の機械たちも、兵器として戦地に送られた。

心がない、ということを逆手に取られ、残虐なことをさせられただろう。

そんなことをさせたのは、人間に渡してしまった愚かな私だ。


「でも…」


沈黙を破ったのはゴウの声だった。


「でも、俺を救ってくれたのも琥珀だ」


ゴウは私の手を優しく握った。


「琥珀が悪いなんて、そんなの俺が認めねえよ」


「ゴウ…」


顔を上げると、ゴウは笑っていた。

ゴウは、とてもよく笑う。

不器用なあの子と違って、ゴウは器用だから。


「一人、いたの。私の造り出したものでも、心を持ってくれた子が」


優しい彼を思い出す。

私を”琥珀さん”と呼び、ぎこちない笑顔を浮かべていた彼のことを。


「私は、彼を弟のように思ってた」


「もしかして、いつも琥珀が差してた水色の傘は、その彼のものか?」


「…すごい、どうして分かったの?」


「琥珀のものにしては大きいからな」


「確かにね。…でも、彼の使っていたものが埃を被っていくのが耐えられなくて」


私を庇ったせいで、彼は死んでしまったから。

そう呟くと、ゴウは私をジッと見ていた。


「彼、最期に微笑んだのよ。笑顔なんか、作れないはずなのに」


雪の中で微笑んだ彼の顔は、笑えるくらいぎこちなかった。

でも、最期の彼は…とても、美しい笑顔を浮かべていた。


「何でだろうね。あんな理不尽な死に方をしたのに…」


「不満がなかったからだろ」


ゴウは当たり前のことを言うように、さらりと言った。


「そいつのことは知らねえけど、琥珀を庇って死ねて満足だったんじゃねえの」


私は窓の外を見た。

そうだったの?君は、満足だったの?

青い空から答えは返って来ない。

私は息を吐いた。

永かった人生を振り返る。

穏やかな日々も、静かすぎて寂しい日々も、優しい日々も、楽しい日々も、たくさんあった。

向かいに座るゴウに向き直った。


「ごめんね、たくさん隠し事をしていて。でも、この感情は隠したくない…」


「何だよ、この感情って?」


「聞いてくれる?」


「…あぁ。聞くよ」


その返事を受けて、私は安心した。


「ありがとう」


体の中から、私の寿命を刻む音がする。

それは、もうすぐ途切れるものだ。


「ゴウ」


「何だ?」


驚かせてごめん。今まですごく楽しかったよ。

悲しませてごめん。君と過ごした日々はとても愛しいよ。

寂しくさせてごめん。君を泣かせたくないよ。

きっと、この言葉を言ったらゴウは傷つくことになる。

でも、最期にどうしても言いたかったの。

だから…伝えさせて。


「愛してる」


私は、ゆっくりと目を閉じた。

静かに、私の十二万四千六百二十七年は終わった。

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