告白
黙って聞いていたゴウは、ハッと顔を上げた。
「琥珀。辛いなら無理して話すことないぞ」
やっぱり、ゴウは優しい。
咄嗟に私を庇ってくれた、あの子のように。
でも、私は首を横に振った。
「本当に話したいことは、そのあとの話なの。どうしても、ゴウに聞いてほしい」
私は深く息を吐くと、言葉を続けた。
「琥珀さんがいなくなったあと、私は寂しくて堪らなくなって、彼女の遺したノートを頼りに…造ってしまったの」
「造ったって…」
「君を、君たちを造ったのは、私だよ」
言葉を失ったゴウを見ていられなくなり、私は顔を伏せる。
「俺たちを…琥珀が…?」
「…ごめん…」
絞り出した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
「私には、機械に感情をつけることが出来なかったの。そして、頭の悪い私は、心を持たない機械たちを貪欲な人間に渡してしまった…」
天才だった彼女は、自分の造ったものを人間に渡したら、どんな風に使われるかを予想していたんだろう。
だから、私を渡さなかった。
私はそんなことを何も考えずに、人間に言われるまま渡してしまった。
拳を、強く握り締める。
「ごめん…。ゴウが辛い思いをさせられたのは、私のせいだった」
私がずっと告白したかったのはこれだ。
彼も、ゴウも、他の機械たちも、兵器として戦地に送られた。
心がない、ということを逆手に取られ、残虐なことをさせられただろう。
そんなことをさせたのは、人間に渡してしまった愚かな私だ。
「でも…」
沈黙を破ったのはゴウの声だった。
「でも、俺を救ってくれたのも琥珀だ」
ゴウは私の手を優しく握った。
「琥珀が悪いなんて、そんなの俺が認めねえよ」
「ゴウ…」
顔を上げると、ゴウは笑っていた。
ゴウは、とてもよく笑う。
不器用なあの子と違って、ゴウは器用だから。
「一人、いたの。私の造り出したものでも、心を持ってくれた子が」
優しい彼を思い出す。
私を”琥珀さん”と呼び、ぎこちない笑顔を浮かべていた彼のことを。
「私は、彼を弟のように思ってた」
「もしかして、いつも琥珀が差してた水色の傘は、その彼のものか?」
「…すごい、どうして分かったの?」
「琥珀のものにしては大きいからな」
「確かにね。…でも、彼の使っていたものが埃を被っていくのが耐えられなくて」
私を庇ったせいで、彼は死んでしまったから。
そう呟くと、ゴウは私をジッと見ていた。
「彼、最期に微笑んだのよ。笑顔なんか、作れないはずなのに」
雪の中で微笑んだ彼の顔は、笑えるくらいぎこちなかった。
でも、最期の彼は…とても、美しい笑顔を浮かべていた。
「何でだろうね。あんな理不尽な死に方をしたのに…」
「不満がなかったからだろ」
ゴウは当たり前のことを言うように、さらりと言った。
「そいつのことは知らねえけど、琥珀を庇って死ねて満足だったんじゃねえの」
私は窓の外を見た。
そうだったの?君は、満足だったの?
青い空から答えは返って来ない。
私は息を吐いた。
永かった人生を振り返る。
穏やかな日々も、静かすぎて寂しい日々も、優しい日々も、楽しい日々も、たくさんあった。
向かいに座るゴウに向き直った。
「ごめんね、たくさん隠し事をしていて。でも、この感情は隠したくない…」
「何だよ、この感情って?」
「聞いてくれる?」
「…あぁ。聞くよ」
その返事を受けて、私は安心した。
「ありがとう」
体の中から、私の寿命を刻む音がする。
それは、もうすぐ途切れるものだ。
「ゴウ」
「何だ?」
驚かせてごめん。今まですごく楽しかったよ。
悲しませてごめん。君と過ごした日々はとても愛しいよ。
寂しくさせてごめん。君を泣かせたくないよ。
きっと、この言葉を言ったらゴウは傷つくことになる。
でも、最期にどうしても言いたかったの。
だから…伝えさせて。
「愛してる」
私は、ゆっくりと目を閉じた。
静かに、私の十二万四千六百二十七年は終わった。




