話 × 噛み合わせ = 鹿
八話目です。
勝手気ままに書いておりますが、少しずつ見てくれている方も増えているようで嬉しく思ってます。
最後までおそらくこのペースで書きますので、よろしくお願いします。
帰り道に携帯電話で宅配ピザを注文した。
彼女とは普段通りの口調で会話をし、普段通り彼女の歩くスピードに合わせていた。
彼女は付き合いだして初めて手を繋ごうとはしなかった。
ピザとコーラで夕食を済ませて、彼女はパソコンでネットをし、僕はベットに座って本を読んでいた。
「今夜の話の件」を忘れているわけではなく、彼女のタイミングで話してくれればいいと思っていたし、あわよくば彼女が忘れていればいいのにとも思っていた。
しかし、それらは自分への言い訳で、その話題に触れなかった最も大きい理由は切りだすタイミングを見失っただけかもしれない。
小説なんて全く頭に入ってこない。
22時を回った頃に彼女はパソコンデスクから立ち上がり、僕の隣に座った。
僕は本にしおり代わりを挟み、彼女とは反対側に置いて、覚悟を充電してから彼女を見る。
「相沢さんって君のことが好きだよ」
「え?」
思ってもみない方向性からの切り出しに面食らう。
一応いくつかの対応策は考えてはいたが、相沢の件についてはノーガードだった。
「気付いてないんでしょ?」
「気付いていないというか、それは考えにくいと思う」
「どうして?」
「今日初めてまともに話したしね。それは無いんじゃないかな」
「今日の別れ際、私に目で攻撃したよ」
「え?目で攻撃?睨まれたの?」
「睨まれるとは違うけど、目で攻撃」
「うーん。そうであるなら確かに気付いてない」
正直、相沢が自分に好意を持っているとは思わないが、彼女の口からそういう嫉妬のような発言が出たことの方が意外だった。
「まぁいいけど。あんなにストレートに感情表現できるのは若いよね」
確かに短大か専門卒の相沢は20代前半だったはずだ。
でもきっとそういう意味ではない。
「俺にはあまりストレートではなかったけどね」
「君はストレートに言葉にしないと理解してくれないもんね」
「そんなことないと思うけど」
「そんなことあると思うけど」
「じゃあ、ごめん」
「じゃあ、許す」
「じゃあ、話を聞きましょうか?」
「え?あ。うん」
表情から温度が消える。
少しうつむいた彼女の顔に髪がかかり、手のひらで顔を覆うように髪を耳にかけた。
「えーっと、俺は君が好きです」
「私も好きだよ」
「そういう話だよね?」
「少し違う。私はまだ君に話していない秘密があって、それを今から話そうと思ってる。それを聞いても君が私と一緒にいてくれるなら、」
「一緒にいるよ」
僕は彼女の話を遮るようにノータイムで返答したが、モコモコと雨雲が成長するように不安が大きく僕の中で生成されていた。
もし受け入れがたい事実を突きつけられたらどうしたらいいのだろう。
「私は現役風俗嬢です」とか「実はバツイチです」とか。
それならまだ受け入れられるかもしれない。
「実は男です」だったらさすがに受け入れられるか不安になる。
僕はライトフライ級のボクサーがスーパーヘビー級に挑むようにガードを固めて、次の彼女の話し出しを待った。
「私ね、、」
隣に座る彼女は正面を向いて話していたが、僕に身体の向きを変えた。
僕もその彼女の動きに合わせるように身体を彼女に向けた。
「私ね、変わった力があるの」
「変わった力?」
僕は固めたガードの隙間から少し顔を出してみた。
「少し周りの人と違うの。最初は偶然かと思ったんだけど、そうではなくて。初めて気付いたのは小学生ぐらいだったと思うんだけど、受け入れられない部分も」
「ちょっと待って」
僕は手のひらを向け、早口にヒートアップする彼女を制止した。
最初は全て聞いた上で、意見しようと思っていたが、肝心の変わった力の正体が中々出てこないことに我慢できなくなってしまった。
「まず、変わった力って何?」
できる限り優しい笑顔を作って、普段よりゆっくりと問いかけた。
「えーっと、引くと思うけど、、引く?」
彼女は今にも崩壊しそうな表情を必死で抑え込んでいる。
大きな瞳に涙がかろうじて引っかかっていた。
「とりあえず言ってみ。受け止めるから。必ず」
今日、2度目の涙。
僕の前で泣いたことがなかった彼女が1日に2度も泣いている。
さっぱりわからない状態でも、彼女にとっては非常に重大な事態なのだということは理解できる。
「私、今日絶対について行くって言ったでしょ?」
「昼間の話し?」
「うん」
言葉を発する節々に呼吸を整える時間を要する。
「珍しい君が見れたね」
「うん」
「それがどうかした?あれに関して怒ってないよ?」
「うん。でもどうして?って思ったでしょ?」
「そりゃまぁ思った」
「『この子はこんな子じゃないのに』って?」
「うん」
「今は私が中々切り出さないから少しイライラしてきてるよね」
「いや、、、うん」
「『今それを言う必要があるのか?』って思って、、、それを聞いてまたイライラしてる」
言うとおりである。
だんだん腹が立ってきた。
こういう言い回しが嫌いだということがわからない女ではない。
「怒らないで。ごめんなさい」
「わかった」
僕は自分の感情をコントロールすることにメモリの大半を傾けた。
今、怒ってはいけない。
「今、君に言ったことで間違いあった?」
「いや、無かったよ」
もう正直に答えることにした。
「私には君の考えがわかる」
「そうやね。色々、先回りしてくれてるのは理解してるつもり」
「うん。知ってる。本当に私には君の心が見えるの」
「うん。そうやね」
「きっと伝わり方が違うと思うけど、本当に見えるの」
「ん?俺の考えはお見通しってことやろ?」
少し会話の歯車が上手く噛み合わないような感覚を受ける。
「うん。えーっと、わかった。今から何でもいいから動物を思い浮かべて」
「え?なに?それを当てるの?」
「いいから思い浮かべて」
「うーん」
いきなり動物と言われても中々思いつかない。
動物クイズ番組のアフリカの映像が思いついた。
鹿のような動物を猛追するチータ。
どんな内容だっただろうか。
「それはずるい」
「え?」
「2つでも一緒だけどね。チータはわかるけど、インパラだっけ?その逃げてる鹿」
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
また、寄って頂けましたら幸いです。




