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派手 + ペンギン = 可愛い子

第七話です。

基本小出しにすることを考えていなかったので、区切る箇所がイマイチわかりません。。


皆様の暇つぶしになれば幸いです。

終わったら連絡すると言い、僕は会社の入ったビルの自動ドアを潜った。


身体が重い。鉛というより全身がドロになってボタボタと落ちていくような感覚。


今日はとても楽しい日になるはずだった。


彼女のために全てを費やす2日間だったはずだ。


朝の予定では今頃夕食の買い物を終え、帰る途中くらいだろうか。


僕はきっと鍋を提案しただろう。


豪勢な具材をショッピングカートに入れては彼女に却下されるという、いつものやり取りもあっただろう。


彼女はきっとこの前ネットで購入したチーズフォンデュセットを使いたがったに違いない。


僕はその提案を嫌がって、適当な言い訳をしただろう。


結局彼女が折れて鍋になっただろうか。


それとも今日は彼女のためにと僕が折れただろうか。



頭の中では素敵なはずだった今日映像が映し出されている。


きっと夜には別れ話を切り出される。


そう考えるだけで、少し吐き気を催した。


女性に対して僕はあまり執着しない。


しかし、それは今までのことであって、今の彼女に強く執着していると実感した。


一度落ち着くためにトイレに入る。


目元が多少赤い。


しかし毎日寝不足なので、全体的には見慣れた顔面だった。



トイレを出て会社の受付を抜けてセキュリティカードを機械にあてる。


ピピッ、ガチャという音を確認し、フロアのドアを開けた。


フロアは普段のざわつきはなく閑散としている。


いつもの土曜日の風景である。


右前方に横田、後藤、立花常務の姿がある。


自席に向かい歩き出すと、最初に相沢に声を掛けられた。


「お疲れ様です」


派手な私服だな。という印象を持ったが、普段の制服が地味すぎるのかもしれないとすぐに思い直した。


でも髪の色や爪を見ると元々派手な格好が好きかもしれない。


「おーお疲れ様。悪かったね。休日に色々面倒お掛けしました」


「いえいえ!」


片手を目の前に出し、顔と手を左右に忙しく振った。


その仕草は何故かペンギンを連想させる。


「横田さんから伺いました」


「そっか。立花さんがいるってことは、全て報告済みやね?」


「はい」


「ごめんね。いつ帰っていいかもわからないよね。今から立花さんに報告するし、一緒に行こうか」


「あ、はい」



自席の近くまで来ると後藤が僕に気付いて手を挙げる。


それに気付き横田は椅子から立ち上がり、立花常務は「おー!」と声を上げ、僕に近づいてきた。


「神谷、大丈夫か?」


「休日に申し訳ございません。私は大丈夫です」


「そんなことはいい。っで、どうだった?」


「はい。おそらく相沢や後藤、横田からお話しはさせて頂いているかと思いますが、最初からご説明します。あ、あと相沢はもう帰っていいかと思うのですが」


「相沢もここまで来たらちゃんと聞きたいよな?」


相沢は困ったような顔で「あーそうですね・・」と答えた。


立花常務の無用なお節介のおかげで相沢も近くの席に座るハメになった。



僕は後藤から電話を受けてからの話を時系列に沿って説明した。


裸で胸にナイフが刺さっていたと説明した時の皆のリアクションは大きく、各々が私見を展開したが、それ以外は脱線することなく淡々と時が過ぎた。


説明が完了すると、立花常務は腕組みした自分の腕を見つめながら考えこんでいる。


後藤はキーボードを叩き、ニュースサイトを見ている。


横田はすでに暗くなった外を眺めていた。


相沢は周りに目をキョロキョロさせている。


おそらく帰りたいのだろう。



「立花常務。私たちレベルでこれ以上この件に関わるのは会社として適切でないかと思います」


「確かにそうだな」


「一応、この件については誰にも話さないように」


僕は横田と後藤、相沢に視線を送った。


相沢と後藤は「はい」と答え、横田は首を縦に振った。



その後も数分、帰ると言いだせないだけの意味のない時間が流れたが、横田の「さて、」という一言で、全員が動き出した。


立花常務は相沢に社長に報告するのが面倒だとか、私服姿の感想を述べていたが、相沢の愛想笑いにかわされていた。



後藤はまだ作業が残っていると会社に残ったが、僕、横田、相沢の3人は同時に会社を出た。


入口で別れの挨拶をし、その場を離れた。



携帯電話のディスプレイを見ると18時を回っている。


結局1時間半ほどかかったか。


着信履歴から彼女を探し当てる。


ディスプレイには「皆川香織」の表示。


そう言えば付き合い始めた頃、彼女っぽい登録名に変えてくれというリクエストがあったことを思い出す。


「そういうことが溜まり溜まって今日に至るんやんなぁ」


ディスプレイの皆川香織に呟いてから、通話ボタンを押した。


2コールほどで、繋がる。


「もしもし」


「終わったよ。ごめん。長引いて」


「うん。じゃあ15分くらいで行くね」


「了解。入口から家側に曲がった駐車場の前にいるよ」


「わかった」


「うん。じゃあ」


通話終了ボタンを押してから、煙草に火を点ける。


駐車場に停まっている車の台数を数えだした所で後ろから声を掛けられた。


「神谷さん」


自動販売機のライトに照らされて、より派手に見える相沢が立っていた。


「おう。どうした?」


「神谷さんこそ」


「俺は待ち合わせ。早く帰りたかったんじゃないの?」


相沢は驚いたような顔をした後に苦笑いを浮かべた。


「立花さんのあの言い方は断れないですよ」


「そうやね。俺の言うタイミングも微妙やったかもね」


「いえいえ!」


また、カラフルなペンギンは片手と顔を忙しなく左右に振る。


そんなに慌てて否定しなくても伝わるのに。


「今日はありがとう。君がいてくれて本当に助かったよ」


「いえ、とんでもないです」


またいえいえ!とペンギンを見れるかと思ったが、今回は落ち着いていた。


「待ち合わせってことは忙しいですよね」


「忙しくはないよ?」


「いや、今から予定があるんですよね?」


「あぁ。そやね。何か用事?重要度によっては優先順位を変更するよ?」


「いや、重要度はそんな・・」


話の途中で相沢が軽く笑い出す。


「神谷さんって、普段からそういう話し方なんですか?重要度とか優先順位とか普通言わないですよ。それともまだ仕事モードですか?」


「あぁ。そうなの?普段から・・こうやね。おかしいかな?」


作り笑いを生成しながら返答する。


「おかしくはないです。大丈夫です」


笑った後で言われても説得力は皆無ではあるが、その場を流すために納得した表情を作った。


「今からデートですか?」


「デートというわけではないけど、待ち合わせは彼女」


「あ。本当にそうなんですね」


「え?うん」


「神谷さん彼女いたんですね。あんな忙しいのにすごいですね」


「あーうん。きっと俺じゃなく彼女さんがすごいね」


「へぇ」


会話が途切れる。


「あれ?何か用じゃなかったの?」


「いえ、姿が見えたので声を掛けただけです」


「そっか。こんなに話すのは初めてやね」


普段は部署が違うため、業務以外で話すことはほとんどない。


お互いのキャラクターや趣味や踏み込んでいい距離感を理解していないため、会話はぎこちない。


相沢の肩越しに彼女が見える。


彼女は相沢の後から指差し、行っていいのかというジェッシャーをする。


僕が煙草を持つ手を挙げ、彼女に送ると相沢も彼女の存在に気付いた。


「こんばんはぁ。わぁ!綺麗!綺麗ですね!」


「え?あぁ・・こんばんは」


彼女は笑顔のまま、僕を見る。


「あぁ。彼女は会社の総務の相沢さん。今日は連絡とか色々迷惑かけた」


「あぁ。会社の・・いつも神谷がお世話になっております」


これ以上はないほど上品に彼女は相沢に挨拶した。


こういう時の彼女は気品と迫力がある。


横田に初めて紹介した時も、マイペースな横田が慌てる姿を初めて見ることができた。


「いえいえ!私がお世話になってます!」


相沢は慌てて彼女以上に深くお辞儀をした。


大体こういうリアクションになる。


できればペンギンを見せて欲しかったのに。


「じゃあすいません!私はこれで・・」


「うん。今日はありがとう」


「はい。お疲れ様です」


「お疲れ様」


相沢を見送った後の彼女は困ったような顔で「可愛い子」と呟いた。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。

次回も明日か明後日更新予定ですので、よろしくお願いします。

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