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能力 - ルール = 妥協点

動物を思い浮かべろと指示され、適当に思いついたテレビの映像をさらりと言い当てられた僕の取り乱し方は酷かった。


今までもよくそこまで気が効くものだと、自分は思っていることを口に出してしまっているのでは?などと思うことは何度もあったが、そういう次元の話ではない。


隣り合わせに彼女を向いて座っていた僕は「えぇ!!」と大きな声を上げながら彼女から離れるような角度で立ちあがり、勢いで踵をベットの足に擦りつけ、驚きと痛みを混ぜ合わせた慌ただしい状況を一人で作り上げた。



「えぇ!?いってぇ!!えぇ!?なんで!?」



しゃがみ込み踵を抑えながら叫ぶように問いかけた。


見上げる格好で彼女を確認すると目と鼻を真っ赤にしながら驚いた顔で僕を見下ろしていた。


痛みで顔をゆがめる僕と驚きで目を見開く彼女はほんの数秒見つめ合った。


すると説明のつかない「間」がお互いのツボに入り、声を上げて笑い始めた。


「なに!?お前すげぇな!今までそれで全部わかってたん!?えー!それはずるいわ!」


「もっと、もっと深刻に受け止めてよ!」


「無理やって!エスパーやん!伊藤やん!」


「マミにして!私は本物なんだから!」


途中から「伊藤」「マミ」の言い合いで子供のように笑い転げた。


お互いにお腹が痛いと声を上げた。


僕が片手でお腹を押さえながら、手のひらを彼女に向けてストップのサインをし、彼女の隣りに座ると、笑っていた彼女は僕に抱きつき今度は声を上げて子供のように泣き出した。


彼女の激しい感情の起伏に少し驚いたが、それほど彼女にとっては重要なことだったのだろう。


もしかすると過去にこの事を打ち明けて、傷ついたことがあるのかもしれない。


僕は彼女の肩に手を回し、そっと抱きしめた。


そっと抱きしめたのは僕の優しさからではない。


彼女が物理的に壊れてしまいそうな脆く危ういものに見えたからだ。


普段のクールな彼女も魅力的だが、今の彼女も魅力的な彼女の一面としてメモリに記憶しておくことにした。



どのくらい時間が経ったかはわからない。


彼女が顎を引いて、僕の肩におでこを当てて深呼吸をした。


「少し目を閉じて」


「ん?」


次はどんな手品を披露されるのかと不安になったが、今は彼女への優しさとして何も言わずにおとなしく従った。


すると彼女は立ち上がり、歩きながら「もういいよ」と言い残して洗面所へと向かった。


「俺は行かない方がいい!?行った方がいい!?」


「大丈夫!」


大丈夫?回答にはふさわしくないが、おそらく「来なくてもいい」と受け取って問題なさそうだ。


僕は煙草に手を伸ばし火を点けた。


ゆらゆらと昇る煙にぼんやりと息を吹きかける。


「ひどい顔だね」


彼女はハンドタオルで目元を抑えながら帰ってきた。


目を閉じさせたのはこのせいか。


「誰が不細工やねん!」


『ひどい顔』とは彼女自身のことを指していることはわかっていたが、あえて自分に言われたこととして処理した。


「私のこと。わかってるくせに。驚いた?」


「意外だったかな。君はクールだから」


「そっちじゃないけど、まぁいいか。基本、事前にわかっちゃうから、心の準備完璧なの」


「そっか」


「うん。あとね。たまにその人の未来も見えるの」


「未来?」


僕はまだ長い煙草を灰皿に押しつけた。


「うん。私、駄々こねたでしょ?」


どの駄々なのかリンク先を検索。昼間の「会社に行く駄々」がヒット。


「うん。珍しかったね」


「君が一人で血を流して道路に倒れてる映像が見えたの」


「え?」


「人の未来に関しては、第三者目線っていうかカメラで客観的に見えることが多いんだけど、そこに私の姿がなかったの。だから私が行けば変わるんだと思って」


「未来は変わるんだ?」


「うん。簡単に変わるよ?赤信号を無視しただけで弟ができたりする」


「弟?」


「私は一人っ子になる運命だったんだと思うの。両親の未来には常に私しかいなかったから。私は妹が欲しくて、その未来を変えるために赤信号を走って渡ったの」


「そしたら弟ができた?」


「うん。車がびゅんびゅん走ってた中を信号無視だからすごい怒られたけど、その後から両親の未来に私と弟がいた」


「信号一つで生命の有無まで左右されるんや」


「うん。信じてない?」


「いや、もう信じるほかない」


「そう。引いた?」


「うーん。驚きはした。さっきの俺はレアやったやろ?でもその君の能力のおかげで俺は死なずに済んだわけやんな?」


「うん。たぶんね」


「なら、感謝するしかないね。正直、別れ話じゃなくてほっとしてる部分もあるし、『私は現役風俗嬢です』とか『実は私は男です』とかを想像してたから、余裕で許容範囲」


「別れ話と勘違いしてるのはわかってたけど、それ以上は想像してなかった」


「あれ?俺の考えがわかってたんじゃないの?」


「ずーっと、垂れ流しでわかるわけじゃなくて、こうやって右手の親指を中に入れてグーにして、その人の目を見て、目が合う必要があるの」


「あーそういう発動条件があるんや。じゃあもう俺の前で使うのは禁止な」


「え?」


「君はきっと俺の前でそれを使うと全て俺の思いのままに動くやろ?そんで今後、俺は『俺の心読めるくせに何でやねん』って苛立つと思う。今までも俺の意図とは違うことをあえてしたりしたことはあったと思うしね。そうやろ?」


「うん」


「俺が君に伝える行為をサボると思う。コミュニケーションをサボるのは良くないやろ?だからもう俺の前では禁止」


「でも、それだとあまり気が効かない彼女になるよ?」


「うーん。でも仕方ないやん。確かに君のその能力込みで香織は形成されてるんやけど、俺がダメ人間になるやろうから禁止」


「・・・わかった」


本当は心を覗かれることに恐怖心があったのかもしれない。


今後も彼女は頻度が減ったとしても僕の心を覗き見るだろう。


無意味だとしても言葉にしてルール化することで一定の安心を手に入れることができる。


正直、今後付き合ってみないと、その後の不具合はわからない。


不確定な要素が多い中で悩んでも仕方ない。



僕は伸びをして首をコキッと鳴らした。


それからやけに明るい声で


「ではエスパーさん。色々とございましたが、今からゲーム大会開始で異論はない?」


彼女は不意をつかれた表情の後で、僕の空気を変えようとする雰囲気を察して


「エスパーはやめて。あとゴルフも挟む」


「伊藤の方がいい?」


「マミの方だから」



きっと彼女の能力がなくても僕らはこんな関係を作れていたはずだ。

最後までお読みいただきましてありがとうございます。

また寄っていただけましたら幸いです。

あと、調子にのってBLOGを始めました。

http://ameblo.jp/yoshimasa-tanaka/

もしよろしければこちらもどうぞ。

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