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休日 × 出勤依頼 = トラブル

結局、家具屋には行く事になった。


彼女は「もういい」と言っていたが、頑として僕が行くと主張した。


何度も怒っているのか?と確認されたが、そうではない。


ただ、ここで帰る選択をする気になれなかった。


本当に久しぶりの休日。しかも2連休だ。


こんな滅多にない機会を彼女の為に使いたかった。


自分の低級な欲求のために合わせて欲しくなかった。


そのことを彼女に丁寧に説明すると『半分不服・半分諦め』で了承した。


しかし、家具屋に着くと彼女の目は輝き出し、

単独行動しては僕の所へ戻ってくるという「子にエサを配給する親鳥」のような動きを何度もした。



今から2カ月前程前に、僕は今の部屋に引っ越した。


部屋の家具も全て彼女がセレクトしている。


引越しの理由は僕が所属していた支社が本社と近く、


「この近さでこの支社は必要か?」


という設立当初になぜその部分の議論が欠如していたのか理解できない理由で、支社と本社が統合された。


新事務所も十分通える距離ではあったが、


深夜まで働くことを前提とした僕の生活サイクルでは最低でも自転車で移動できる距離ではいけない。


支社の移転と、大きなプロジェクトの納品が重なり、引越しの準備はまるでできなかった。


その様子を見ていた彼女が部屋選びから全て、引越しの準備を進めてくれた。


この機会に彼女と同棲する話しも出たが、僕が忙しく十分な議論もできず明確な答えもないままに話は流れた。


ただ今の部屋は一人では広すぎる。


彼女の中で同棲も想定した部屋選びをしていたに違いない。


どこかのタイミングで再度提案する必要があるだろう。



1時間ほど経過したところで、親鳥がまた帰ってきた。


「満足した」


「何か買うの?」


「かわいい椅子があったよ」


「君の家にはいくつ椅子があるんですか?」


「家にいるのは新人君だけで、他は売ったり実家に送ってるよ」


「そう言えば長らく行ってないね」


「うん。最後は半年くらい前かな」



家具屋を出ると二人は自然と駅に向かった。


その時、僕の携帯が震える。


最初はメールだろうと放っておいたが、中々鳴りやまないので、電話だと思い直し、彼女の左手とサヨナラし、携帯をポケットから取り出す。


画面には後藤幸治の表示。


僕の部下だ。


おそらく今日も出社してプログラムとにらめっこしているだろう。


休日にかかってくる電話はロクなことがないが、出ないわけにもいかないので自分の中でアクセルを踏んでから電話に出る。


「もしもし」


「あ。神谷さんお休み中すいません」


「いや、問題ないよ。何かトラブル?」


「いえ、あのトラブルなんですけど、あの、ちょ、ちょっと待って下さいね」


後藤は統合前から本社配属だったため、僕の直属の部下になってからは2ヶ月程度、プログラマらしく几帳面で、帰る前にはどれだけ遅くなってもパソコンのキーボードやマウスを掃除している。


電話の向こうで「でましたー!神谷さん出ましたー!」と後藤が誰かに向けて叫んでいる。


少し不審に思うが、大きなトラブルがあったに違いない。


僕の休日はここまでか。


彼女を見ると察してか不安そうな顔をしている。



「すいません。あの落ち着いて聞いて頂きたいんですけど」


「うん。どうした?」


「あのですね。警察から連絡があって葛西さんが病院に運ばれたそうです」


「は!?」


警察から?本人や病院からならわかるが警察から?


「大丈夫なのか?警察ってどういうことだ?」


「いや、僕もまだよくわからないんですけど」


「連絡を受けたのは誰?」


「僕です」


「葛西の身体のことは聞いたか?」


「すいません。聞いてません」


向こうから言ってこないということは、生死には関わらないのだろうか?


「今の状況を把握してる奴は他にはいない?」


「はい。僕以上はいないです」


「今日は誰が出社してる?」


「実は今日は少なくて、うちのチームは僕だけなんですよ」


「他の部署のマネージャクラスは?」


「見てはいないです」


「さっき誰に向かって叫んでた?」


「相沢さんです。あの、相沢さんが最初に連絡受けて僕に電話振ったので」


「じゃあ相沢さんもこの状況を知ってるんだな?」


「はい。あの、簡単には」


相沢とは若い経理の女性で総務の人間が休日出勤は珍しいのだが、相沢がいてくれて助かった。


「相沢さんは上の連中の連絡先知ってるだろ?俺以上の人間全員に連絡してもらって」


「あの、はい。わかりました」


「相沢さんが連絡する前に状況を把握したい。病院ってどこの病院?あと警察はどこの警察で担当は誰?」


「えーっと、病院は市立総合です。あと、警察はH県警で、岡崎って人です」


市立総合病院は僕の家から徒歩15分ほどの大きな総合病院で会社からも近いと言える。


もちろん葛西も夜遅くなるので、家は会社徒歩圏内。


家から病院に運び込まれたとすれば、ここになるだろう。


「連絡先わかる?土曜にかかってくる電話の数なんて知れてるやろ?着歴から絞り込めない?」


「あの、はい。やってみます」


「携帯だとありがたいんだけどな。何課とか聞いてないんやね?」


「うーん。いや、あの、はい。」


「OK。了解。あと、市立総合の電話番号もくれ。これから後藤がやることは?」


「警察と病院の電話番号調べてメールします」


「うん」


「・・・」


「あと、相沢さんに状況を報告して、上の連中に連絡を依頼」


「あ、はい」


「仕事中に悪いな。状況把握できれば問題ないかもだけど」


「あ、大丈夫です」


「OK頼む」


「はい」


「じゃあお疲れ様」


「お疲れ様です」


電話を切ると大きく息を吐いて自分をリセットした。



「ごめん。ちょっと異質なトラブル」


「大丈夫?警察とか病院とか」


「たぶん。ちょっとごめん」


僕は上司に連絡するため携帯メモリを探す。


何度かコールすると留守番電話に切り替わる。


留守番電話に端的に報告し、折り返しを依頼する。


その後、同期の横田に連絡する。


コール。社内に後藤だけは不安がある。


一旦僕は病院に行く必要があるだろう。


社内に信用できる人間が一人欲しい。


今日の天気だとカメラ片手に出掛けてるかもしれないなと思った瞬間コール止まった。


「おはようございます」


「珍しいな。この時間に起床ですか」


「昨日飲み過ぎたんよ」


「そうか。寝起きに悪いねんけど、ヘビーな話してもいいやろか?」


「俺は神谷マネージャほど朝弱くないからな。トラブルか?」


「うん。正直状況は把握できてないけど、葛西が市立総合病院に運ばれたらしい」


「おー確かにヘビーやなぁ。今、お前、外だよな?」


「うん。久しぶりの休日。っで、社内には後藤一人。しかも葛西が運び込まれた連絡はH県警から連絡があった。上には相沢さんがいるらしいから連絡してもらってる。今は連絡あったH県警の担当の連絡先を後藤に調べさせてる」


「ん?警察?事件なの?」


「わからん。でも問題が大きいようなら社内に一人はまずいかなって」


「なるほどね。初の神谷マネージャからの休日出勤要請かぁ。確かに案件がどうのこうのレベルではないなぁ」


「うん。悪い。もしできればの話。もちろん強要はしないけど、俺は病院に行く方がいいかなって」


「うーん。まぁそうかな。行くよ。今から準備してだから45分ほどで」


「ほんと悪い。あと、中に連絡してやって。後藤も安心するだろうし」


「OK。じゃあまた」


「うん。また」


電話を切って彼女を見る。


「大体わかった?」


「うん。なんか大変そう」


「状況がわかれば大したことないかもやけどね」


「どうする?」


「とりあえず病院に向かうよ」


「そだね。じゃあ切符」


「おー。ありがとう。あと、ごめん」


切符売り場の前で話していたのだが、彼女がすでに切符を買ってくれていた。


「大したことなければいいね」



電車の中の僕らは無口だった。

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