8.回っとるけど、噛み合っとらんのよ
その日の夕方。
問題は、表に出た。
「なんで、あいつの指示を優先するんじゃ!」
声がぶつかる。
さっきの武士じゃ。
相手は、百姓の責任者。
「決まっとるじゃろ、組の責任者じゃ!」
「身分が違うじゃろうが!」
空気が、一気に張り詰める。
(来たな)
山縣は、ゆっくりと近づいた。
周りも、動きを止めとる。
「どうしました」
静かに聞く。
「どうもこうもない!」
武士が怒鳴る。
「こんなやり方、通るか!」
百姓の男も、引かん。
「さっきの指示で、ちゃんと動いたじゃろ!」
「それでもじゃ!」
ぶつかる。
正面から。
(……面倒くさい)
(いや、でも避けれんやつ)
山縣は、少しだけ考える。
(どうする)
押さえつけるか。
説得するか。
(……どっちも中途半端だと終わる)
そのとき。
「ええのう」
あの声。
高杉じゃ。
――高杉晋作が、面白そうに見とる。
(いや、止めて)
(ここ見て楽しむとこじゃない)
「揉めとるのう!」
完全に他人事。
(この人ほんとブレないな)
山縣は、小さく息を吐いた。
(……やるしかないか)
一歩前に出る。
「結果で見ましょう」
静かに言う。
場が、止まる。
「どちらのやり方が、うまく回るか」
「それで決めませんか」
武士が、眉をひそめる。
「……どういう意味じゃ」
「簡単です」
短く言う。
「このまま、それぞれのやり方で動いてください」
「結果を見ます」
一拍。
「回った方を、採用します」
ざわ、と空気が動く。
(テスト)
(まあ、これが一番早い)
武士が、少し考える。
百姓の男も、黙る。
数秒。
そのあと。
「……ええじゃろ」
武士が言うた。
「それで決めようや」
百姓も、頷く。
「受ける」
(よし)
山縣は、内心で小さく息を吐いた。
感情では決まらん。
でも、結果なら動く。
そのとき。
「おもしろいのう!」
高杉が笑う。
「勝負じゃな!」
(いや、遊びじゃないんだけど)
でも、止めん。
この形なら、納得が生まれる。
山縣は、静かに全体を見る。
(……これで)
(ほんとに“選ばれる”)
身分か。
能力か。
どちらが、この場に残るか。
答えは、すぐに出る。




