表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それ、ほんまに回るんかいね?……わし、なん?σ (°ロ°)?!!  作者: AZtoM183
第3章 海の向こうは何しとるん?
PR
66/70

12. 月のない夜



【山縣視点】


 月が出ておらんかった。



 密航には都合がいい。



 見つかりにくい。



 追われにくい。



 そういうことらしい。



 山縣には、


 あまり嬉しくなかった。



 見つからないように出て行く。



 それはつまり、


 見つかれば終わりということじゃ。



 海辺には人影があった。



 多くはない。



 高杉。



 大村。



 伊藤。



 井上。



 それから数人。



 みな声が小さい。



 普段ならうるさい連中ばかりなのに。



 今夜だけは違った。



 波の音だけが聞こえる。



 船は沖におる。



 小舟で近づく手筈じゃ。



 山縣は最後の帳面を閉じた。



 人数。



 荷。



 金。



 確認済み。



 何度も確認した。



 それでも不安は消えん。



「まだ見とるのか」



 高杉が笑った。



「見ますよ」



「もう変わらんぞ」



「そうですね」



 一拍。



「でも見ます」



 高杉は少しだけ笑った。



 何も言わない。



 その代わり、


 肩を軽く叩いた。



 それだけじゃった。



 少し離れた場所では、


 伊藤と井上が話している。



 いや。



 話しているというより、


 言い合っている。



 いつも通りじゃ。



「だから向こうでは英語じゃろ」



「知らん」



「知らんで行くんか」



「お前も知らんじゃろ」



「知らん」



 山縣は思わず吹き出しそうになった。



 明日から異国へ行く男たちじゃ。



 なのに。



 昨日と変わらん。



 その様子を見て、


 少しだけ安心した。



 そのとき。



 大村が近づいてきた。



「山縣」



「はい」



「向こうへ行く者は学ぶ」



 一拍。



「お前は記録しろ」



 山縣は顔を上げる。



「記録?」



「長州が何をしたか」



「何を変えたか」



「何が上手くいき」



「何が失敗したか」



 静かな声だった。



「帰って来た者が」



 一拍。



「学べるようにしておけ」



 山縣は黙った。



 派手な仕事ではない。



 だが。



 大村らしい。



 誰かが未来を見る。



 誰かが未来へ残す。



 どちらも必要じゃ。



 そのとき。



 沖から合図の灯が見えた。



 船じゃ。



 出る。



 本当に出る。



 空気が変わる。



 伊藤も。



 井上も。



 高杉も。



 誰も笑わなくなった。



 いよいよじゃ。



 井上が小舟へ向かう。



 伊藤も続く。



 数歩進んだところで、


 伊藤が振り返った。



「山縣」



「なんです」



「帳面なくすなよ」



 山縣は呆れた。



 最後までそれか。



「そっちこそ死なないでください」



「努力する」



 伊藤が笑った。



 井上も笑った。



 高杉が大笑いする。



 緊張が少しだけほどけた。



 そして。



 小舟が離れる。



 ゆっくり。



 静かに。



 月のない海を進んでいく。



 誰も声を出さない。



 ただ見送る。



 波の音だけが続く。



 やがて。



 小舟は闇に溶けた。



 見えなくなった。



 本当に。



 見えなくなった。



 山縣はしばらく海を見つめていた。



 不安もある。



 心配もある。



 帰って来ないかもしれない。



 それでも。



 行かねばならんのだろう。



 知らない世界を知るために。



 高杉が海を見た。



 今度は伊藤たちが見る。



 そして。



 いつか帰って来る。



 その日のために。



 山縣は静かに踵を返した。



 帰る場所を守るために。



 長州へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ