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それ、ほんまに回るんかいね?……わし、なん?σ (°ロ°)?!!  作者: AZtoM183
第3章 海の向こうは何しとるん?
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10. 金を出す馬鹿



【山縣視点】


 商人は忙しい。



 当たり前じゃ。



 忙しいから商人なんじゃろう。



 だから。



 わざわざ若者の話など聞かん。



 山縣はそう思っていた。



 少なくとも。



 今朝までは。



 その日。



 山縣たちは城下の大店を訪ねていた。



 長州でも有数の豪商じゃ。



 店は大きい。



 番頭もおる。



 出入りする荷も多い。



 見るだけで分かる。



 金持ちじゃ。



(断られるな)



 山縣はそう思った。



 普通に考えればそうじゃ。



 若者が来る。



 外国へ行きたいと言う。



 しかも密航。



 怪しすぎる。



 自分なら断る。



 間違いなく断る。



 そのとき。



「では」



 伊藤が頭を下げた。



「お時間を頂きありがとうございます」



 商人は腕を組んだままじゃ。



「用件を聞こう」



 低い声だった。



 試されとる。



 山縣にも分かった。



 その瞬間。



 伊藤が笑った。



(なんで笑う)



 山縣は嫌な予感がした。



 こういう時の伊藤は危ない。



「お願いがあります」



「金か」



 即答じゃった。



 伊藤は少しだけ驚く。



 だが。



 すぐ立て直した。



「はい」



「正直じゃな」



 商人が笑う。



 少しだけ。



 空気が変わった。



「で」



「いくらだ」



 伊藤は金額を告げた。



 山縣は横で胃が痛くなった。



 大金じゃ。



 普通に考えれば断られる。



 そのはずだった。



「何に使う」



 商人が聞く。



 伊藤は一瞬だけ迷った。



 そして。



「未来です」



 山縣は思わず咳き込んだ。



(何言ってるんだ)



 高杉が吹き出しそうになっとる。



 井上は横を向いた。



 笑いを堪えとる。



 だが。



 伊藤は真面目じゃ。



「未来?」



「はい」



 一拍。



「長州の未来です」



 商人は黙る。



 部屋も静かになる。



「外国を見てきます」



「学んできます」



「持ち帰ります」



 伊藤は続けた。



「今の長州に足りないものを」



「必ず」



 静かな声じゃった。



 いつもの軽さがない。



 山縣は少し驚いた。



 初めて見る顔じゃった。



 そのとき。



「失敗したら?」



 商人が聞く。



「失敗します」



 即答じゃった。



 全員が固まる。



(おい)



 山縣は思った。



 だが。



 伊藤は続ける。



「失敗もするでしょう」



「騙されるかもしれません」



「帰れないかもしれません」



 一拍。



「でも」



「誰かが行かなきゃ」



「長州は知らないままです」



 商人は黙って聞いている。



 山縣も黙った。



 言葉が上手い。



 それだけじゃない。



 人の心を動かす。



 そういう話し方じゃった。



 そのとき。



 商人が高杉を見る。



「先生はどう思われる」



 高杉は少し笑った。



「無茶じゃな」



 即答じゃった。



「成功する保証もない」



「帰る保証もない」



 一拍。



「じゃが」



 そこで伊藤を見る。



「こういう馬鹿は」



「放っておくと勝手に行く」



 部屋に笑いが起きた。



 商人も笑った。



 伊藤も笑った。



 山縣も少しだけ笑った。



 本当にそうじゃった。



 この男は、


 止めても行く。



 きっと。



「なるほどな」



 商人が頷く。



 そして。



 しばらく考えた後、


 静かに言った。



「半分出そう」



 部屋が止まった。



 山縣も固まる。



 井上も固まる。



 伊藤だけが、


 ほんの少しだけ笑った。



 まるで。



 最初から分かっていたみたいに。



 商人は小さく息を吐いた。



「未来に金を出すのも」



 一拍。



「商人の仕事じゃ」



 窓の外では、


 春の風が吹いていた。



 海はまだ遠い。



 だが。



 初めて。



 計画は夢ではなくなった。



 動き始めたのだ。

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