9. 誰に頼む?
【山縣視点】
金はいる。
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それは分かった。
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ものすごくいる。
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それも分かった。
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問題は、
誰が出すかじゃ。
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その日の夕方。
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高杉の部屋には、
またいつもの顔ぶれが集まっとった。
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高杉。
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大村。
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伊藤。
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井上。
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そして山縣。
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最近、
妙な集まりになってきた気がする。
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「さて」
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高杉が言った。
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「誰に頼む?」
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全員黙った。
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昨日までの勢いはどこへ行った。
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金の話になると、
急に現実が顔を出す。
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「藩は難しい」
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大村が言う。
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「正式には無理じゃ」
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全員頷く。
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密航じゃ。
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堂々と予算要求できる話ではない。
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そのとき。
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「商人ですね」
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伊藤が言った。
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迷いがない。
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「また商人か」
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井上が笑う。
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「また商人です」
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伊藤も笑う。
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「金を持ってる人に頼むのは当たり前でしょう」
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それはそうじゃ。
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だが。
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「なんで出してくれるんです?」
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山縣は素朴な疑問を口にした。
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伊藤は少し考える。
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そして。
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「長州が強くなるからです」
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即答じゃった。
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部屋が静かになる。
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「商人は損得で動く」
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一拍。
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「でも」
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「未来にも金を出す」
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山縣は少し考えた。
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未来。
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確かに。
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店を大きくする時もそうじゃ。
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先に金を使う。
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後で回収する。
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投資というやつじゃ。
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(投資家か)
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そんな言葉が頭をよぎる。
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もちろん、
誰も知らん言葉じゃろうが。
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「なら」
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井上が身を乗り出す。
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「誰じゃ」
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伊藤が笑った。
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「そこです」
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「まだ考えてません」
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全員が固まった。
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(おい)
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山縣は思わず天井を見た。
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この男。
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勢いだけで話しとった。
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そのとき。
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高杉が笑い始めた。
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「面白いのう」
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「まず話を作ってから相手を探す」
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「順番が逆じゃ」
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「でも嫌いじゃない」
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伊藤が少し得意そうになる。
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褒められたと思っとるらしい。
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危険じゃ。
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そのとき。
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「いや」
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大村が言った。
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「順番は合っとる」
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全員が振り向く。
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「え?」
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「目的が先じゃ」
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一拍。
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「相手は後で探せばよい」
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部屋が静かになる。
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山縣は少し驚いた。
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確かに。
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奇兵隊もそうじゃった。
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先に必要性があった。
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だから人が集まった。
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長州再建もそうじゃった。
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先にやるべきことがあった。
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だから仕組みが出来た。
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今回も同じかもしれん。
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「なら」
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高杉が立ち上がる。
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「探すか」
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「誰をです?」
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「未来に金を出す馬鹿を」
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伊藤が吹き出す。
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井上も笑う。
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山縣も少しだけ笑った。
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そのとき。
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ふと思う。
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長州は変わった。
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奇兵隊もそうじゃ。
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政変もそうじゃ。
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全部、
最初は誰かの無茶から始まっとる。
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今回も、
たぶんそうなんじゃろう。
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未来を見たい若者。
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それに金を出す誰か。
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そして。
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その全部を繋ぐ人間。
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気づけば、
計画は少しずつ形になり始めていた。
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海はまだ遠い。
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だが。
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もう誰も、
行かないという選択肢は考えていなかった。




