8A. 金はどこから出るんじゃ?
【山縣視点】
密航。
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海外。
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英国。
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部屋の空気は盛り上がっとった。
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高杉は楽しそうじゃ。
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伊藤も楽しそうじゃ。
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井上はもっと楽しそうじゃ。
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(なんなんだこいつら)
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山縣には少し理解できん。
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だが。
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もっと理解できんことがあった。
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「金は?」
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部屋が静かになった。
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よし。
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聞こえた。
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ちゃんと聞こえた。
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今、
確かに静かになった。
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「船代は?」
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一拍。
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「渡航費は?」
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「向こうでの生活費は?」
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誰も答えない。
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高杉が天井を見る。
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伊藤が視線を逸らす。
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井上が咳払いする。
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(おい)
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山縣は思わず額を押さえた。
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「考えてなかったんですか」
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「いや」
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高杉が言う。
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「考えとった」
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「どれくらいです?」
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「知らん」
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(考えてないじゃん)
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山縣は心の中で叫んだ。
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そのとき。
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大村が紙を出した。
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数字が並んでいる。
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金額も。
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見ただけで嫌になる。
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「これくらいじゃな」
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山縣は黙った。
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伊藤も黙った。
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井上も黙った。
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高杉だけが笑った。
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「高いのう」
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「高いですね」
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珍しく伊藤も同意した。
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その額は、
若者がどうこうできる額ではなかった。
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ましてや。
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何人も送り出す。
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さらに帰らせる。
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金がいる。
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ものすごくいる。
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そのとき。
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「藩に出させる」
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井上が言った。
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即答じゃ。
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だが。
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大村は首を振った。
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「難しい」
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「なぜです?」
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「説明できん」
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一拍。
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「英国へ密航したいので金をください」
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部屋が静かになる。
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確かに無理じゃ。
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山縣も納得した。
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「じゃあ」
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伊藤が身を乗り出す。
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「集めるしかないですね」
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その目が少し危ない。
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何か企んどる顔じゃ。
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山縣は知っとる。
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こういう顔の人間は危険じゃ。
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「何を考えてます?」
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「商人です」
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「はい?」
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「長州の商人」
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伊藤が笑う。
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「利益になる話なら聞くでしょう」
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その瞬間。
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山縣は少し驚いた。
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昨日まで、
ただ口の達者な男だと思っていた。
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違う。
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この男。
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人だけじゃない。
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金の流れも見とる。
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高杉が笑う。
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「なるほど」
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「面白い」
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伊藤が少し得意そうになる。
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その隣で。
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井上が言った。
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「俺なら船を探します」
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「先に?」
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「船がなきゃ始まりません」
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山縣は思わず吹き出しそうになった。
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この二人。
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本当に違う。
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伊藤は金。
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井上は行動。
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どちらも必要じゃ。
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そのとき。
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「山縣」
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高杉が聞く。
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「お前は?」
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山縣は少し考えた。
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そして。
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「帳面です」
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全員が固まった。
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「帳面?」
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「はい」
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一拍。
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「誰にいくら払うか」
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「誰が管理するか」
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「途中で足りなくなったらどうするか」
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部屋が静かになる。
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嫌な予感がした。
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そして。
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高杉が笑い始めた。
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大笑いじゃ。
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「やっぱりお前は変じゃ」
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「なんでですか」
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「密航の話しとるのに」
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一拍。
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「最初に帳面が出てくる」
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伊藤も笑う。
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井上も笑う。
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大村だけが頷いた。
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「必要じゃ」
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静かな声。
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「一番必要じゃ」
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山縣は少し安心した。
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少なくとも。
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大村は味方じゃ。
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その日の帰り道。
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山縣は考えていた。
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夢を見る者。
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行動する者。
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金を集める者。
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そして。
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帳面を付ける者。
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全部必要なんじゃろう。
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奇兵隊もそうだった。
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長州再建もそうだった。
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きっと。
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海の向こうへ行くのも同じじゃ。
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世界は遠い。
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だが。
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そのために必要なものは、
案外目の前にあるのかもしれなかった。




