6. 会うてみるか
【山縣視点】
正直。
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期待はしていなかった。
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いや。
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期待しないようにしていた。
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高杉が褒める人間は、
大体変じゃ。
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高杉本人が変じゃから。
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その日の昼。
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山縣は高杉に連れられて城下を歩いとった。
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「どこ行くんです?」
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「会いに行く」
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「誰に」
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「面白いやつらじゃ」
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(またそれか)
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最近、
その説明しか聞いてない気がする。
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しばらく歩く。
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すると。
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前から大きな声が聞こえてきた。
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「だから言うとるじゃろ!」
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若い男の声じゃ。
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「今のままじゃ遅いんじゃ!」
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さらに別の声。
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「そんなこと言うても金がない!」
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山縣は思わず足を止めた。
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(喧嘩?)
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「いや」
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高杉が笑う。
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「いつものじゃ」
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(いつもの?)
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意味が分からん。
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部屋へ入る。
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すると。
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二人の若い男が言い争っとった。
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一人は小柄。
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目がよく動く。
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喋る。
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とにかく喋る。
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もう一人は背が高い。
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腕を組んでいる。
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そして。
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全然引かん。
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「おう」
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高杉が声をかける。
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二人が振り向く。
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「高杉先生」
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さっきまでの勢いが嘘みたいじゃ。
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「紹介しよう」
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一拍。
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「伊藤じゃ」
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小柄な方が頭を下げる。
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「伊藤俊輔です」
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だが。
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目が笑っていない。
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いや。
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違う。
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頭が動いとる。
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人を見とる。
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そんな目じゃった。
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「こっちは井上」
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背の高い男が軽く頭を下げる。
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「井上聞多です」
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こちらは逆じゃ。
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考えるより先に動きそうじゃ。
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山縣は思わず思った。
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(高杉殿が二人に増えたら困るな)
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その瞬間。
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「失礼ですね」
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伊藤が言った。
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山縣は固まる。
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「顔に出てます」
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(うわ)
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この男。
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よく見とる。
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高杉が大笑いする。
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「じゃろう」
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「だから面白いんじゃ」
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伊藤は少し得意そうじゃ。
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井上は呆れとる。
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「また始まった」
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慣れた様子じゃ。
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そのとき。
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「で」
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伊藤が聞いた。
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「今日は何の用です?」
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高杉の顔が少しだけ真面目になる。
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「外国じゃ」
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部屋が静かになった。
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伊藤も。
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井上も。
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急に笑わなくなる。
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「上海の話ですか」
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伊藤が聞く。
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「そうじゃ」
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一拍。
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「もっと見たいと思わんか」
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井上の目が変わる。
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山縣はそれを見逃さなかった。
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さっきまでの若者じゃない。
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何かを追う目じゃ。
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「思います」
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井上が即答する。
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「見なければ分からん」
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高杉が頷く。
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次に伊藤を見る。
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「お前は」
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伊藤は少し笑った。
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「思いますよ」
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一拍。
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「ただ」
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「長州のためになるものを持って帰りたいですね」
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部屋が静かになる。
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山縣は少し驚いた。
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昨日、
自分が言ったことと似ていた。
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見て終わりじゃ意味がない。
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持って帰らなきゃ意味がない。
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高杉が笑う。
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「そうじゃ」
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「それでええ」
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そのとき。
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山縣は初めて思った。
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(ああ)
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(この人たちか)
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まだ若い。
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まだ未熟じゃ。
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口も達者。
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生意気でもある。
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でも。
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目だけは同じじゃった。
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高杉と。
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大村と。
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そして。
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あの日の自分と。
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知らないものを見たい目。
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その目だけは、
間違いなく本物だった。
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窓の外では、
春の風が吹いていた。
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世界はまだ遠い。
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だが。
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その世界へ向かう若者たちは、
もうここにいた。




