5. 誰を行かせる?
【山縣視点】
人を育てる。
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言うのは簡単じゃ。
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じゃあ。
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誰を育てるんじゃ。
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そこが問題じゃった。
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その日の夕方。
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山縣は高杉と大村の前に座っとった。
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机の上には紙。
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そして名前。
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何人かの若い者の名が書かれとる。
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「なんですこれ」
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「候補じゃ」
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高杉が言う。
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「候補?」
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「外国を見せる候補」
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山縣は紙を覗き込む。
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知らん名前が多い。
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その中で。
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一つだけ。
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妙に目立つ名前があった。
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伊藤俊輔。
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「誰です?」
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高杉が笑った。
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「面白いやつじゃ」
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(雑だな)
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相変わらずじゃ。
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「何がです」
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「よく喋る」
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「はい」
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「生意気じゃ」
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「はい」
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「金が好きそうじゃ」
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「はい?」
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高杉が笑う。
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「じゃが頭は回る」
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山縣は紙を見る。
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全然分からん。
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その隣。
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井上聞多。
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「この人は?」
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「これも面白い」
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またそれじゃ。
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「説明になってません」
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大村が少し笑う。
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珍しい。
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「井上は行動する」
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一拍。
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「考える前に動く」
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「高杉殿みたいですね」
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高杉が吹き出した。
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「確かに」
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部屋が少し和む。
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山縣はもう一度紙を見る。
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若い。
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みんな若い。
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自分と大して変わらん。
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いや。
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下手をすると年下もおる。
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(この人たちが?)
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外国へ?
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そのとき。
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「若いからじゃ」
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大村が言った。
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まるで心を読まれたみたいじゃ。
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「年寄りは変わらん」
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一拍。
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「若い者は変われる」
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静かな声。
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だが。
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妙に重い。
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山縣は少し黙った。
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確かにそうかもしれん。
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自分だって、
去年の自分とは違う。
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功山寺の夜があった。
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奇兵隊があった。
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長州再建があった。
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人は変わる。
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特に若いうちは。
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そのとき。
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「まあ」
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高杉が笑う。
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「全員無事帰ってくる保証はないがの」
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部屋が静かになった。
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山縣も黙る。
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外国は遠い。
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船旅じゃ。
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病もある。
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事故もある。
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帰れないかもしれん。
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それでも。
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行かせる。
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そういう話を今しとる。
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「だから」
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高杉が続ける。
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「戻ってくるやつを選ばんとな」
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山縣は少し驚いた。
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昨日、
自分が言った言葉じゃ。
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高杉は覚えとったらしい。
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「見て終わりじゃ意味がない」
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一拍。
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「持って帰ってこそじゃ」
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山縣は静かに頷いた。
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机の上には、
未来の名前が並んどる。
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まだ誰も知らん。
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長州の若者たち。
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だが。
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もしかすると。
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この中の誰かが、
日本を変えるのかもしれん。
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そんなことを、
山縣は少しだけ思った。




