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それ、ほんまに回るんかいね?……わし、なん?σ (°ロ°)?!!  作者: AZtoM183
第3章 海の向こうは何しとるん?
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3. 上海を見た男


【山縣視点】


 外国を見たことがある者は少ない。



 それは分かった。



 鬼だと言う者もおる。



 普通の人だと言う者もおる。



 結局、


 誰もよく知らん。



 その日の夕方。



 山縣は大村の部屋におった。



「長州で一番外国を見た人って誰なんです?」



 何気なく聞いた。



 大村は筆を止める。



 一拍。



「そうじゃな」



 少しだけ考える。



「たぶん」



 そのとき。



 障子が開いた。



「わしかの」



 高杉じゃった。



(いた)



 しかも。



 妙に得意そうじゃ。



「上海まで行ったからのう」



 山縣は固まる。



「……上海?」



 その瞬間、


 高杉の顔から少しだけ笑みが消えた。



「面白いところじゃった」



 一拍。



「そして」



「嫌でも目が覚める場所じゃった」



 山縣は思わず身を乗り出した。



「どんなところだったんです?」



 高杉は少し黙る。



 珍しい。



 普段なら、


 すぐ話し始めるのに。



「臭かった」



(え)



 山縣は目を瞬かせる。



「臭かった?」



「臭かった」



 高杉は真顔じゃ。



「人が多すぎる」



「船が多すぎる」



「荷が多すぎる」



 一拍。



「全部多すぎた」



 山縣は少し笑いそうになった。



 だが。



 高杉は笑っていない。



「長州の城下を十個並べても足りん」



 静かな声じゃった。



「そんな場所だった」



 部屋が少し静かになる。



 山縣は想像してみる。



 出来ない。



 全然出来ない。



 そのとき。



「一番驚いたのは」



 高杉がぽつりと言った。



「清国人じゃ」



「清国人?」



「そうじゃ」



 一拍。



「わしはな」



「外国人を見に行ったつもりだった」



 高杉は窓の外を見る。



「だが」



「本当に見たのは清国だった」



 山縣は黙って聞く。



「大きな国じゃ」



「日本よりずっと大きい」



「歴史もある」



 一拍。



「昔なら」



「誰も敵うと思わん国じゃ」



 その声は、


 いつもの高杉と少し違った。



 軽さがない。



「でも」



 高杉は続ける。



「負けとった」



 静かに。



 本当に静かに。



「外国人に使われ」



「外国人に金を取られ」



「外国人の船が港を埋めとった」



 山縣の背中に、


 少し冷たいものが走る。



 中国。



 清。



 大国。



 そのはずじゃ。



 なのに。



「なんでです?」



 思わず聞いた。



 高杉は少し考える。



 そして。



「知らんかったからじゃろうな」



 一拍。



「相手を」



 山縣は息を飲む。



 部屋が静かになる。



「攘夷もええ」



 高杉が言う。



「外国を嫌うのもええ」



 一拍。



「じゃが」



 そこで山縣を見る。



「知らん相手を追い払うのは」



「ただの意地じゃ」



 静かな声。



 でも。



 今まで聞いた高杉の言葉の中で、


 一番重かった。



 そのとき。



 大村が小さく頷く。



「だから学ぶ」



「だから見る」



 一拍。



「知らんままでは守れん」



 山縣は黙った。



 鬼も蛇も見たことない。



 昨日までは、


 そう思っとった。



 でも。



 高杉は見た。



 実際に。



 海の向こうを。



 だから。



 あんなことを言うのか。



 山縣は少しだけ納得した。



 窓の外では、


 夕日が沈み始めていた。



 その向こう。



 さらに向こう。



 海。



 そして世界。



 山縣は、


 まだ見ぬその景色を思った。



(見てみたいな)



 その気持ちは、


 昨日より少しだけ強くなっていた。

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