30.なんか今の長州、妙に動き早くないか?
最初に気づいたんは、
商人たちじゃった。
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「……長州、変わったな」
そんな声が、
城下で少しずつ増え始める。
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頼んだ荷が、
前より早く来る。
返事が返ってくる。
昨日聞いた話が、
今日には共有されとる。
しかも。
武士だけじゃない。
百姓も。
町人も。
普通に動いとる。
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「前は、許可待ちで止まっとったのにのう」
「最近、妙に早い」
「誰が決めとるんじゃ?」
そんな話が、
少しずつ広がる。
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その頃。
山縣は、
机に突っ伏しとった。
「……眠」
本気で眠い。
紙。
報せ。
人。
飯。
見張り。
全部、
止まらん。
(……文化祭後の片付け三日目みたい)
いや。
(終わりがない分、もっときつい)
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「山縣さん」
伊助が、紙を持ってくる。
「小倉の商人からです」
「……商人?」
山縣は、
少しだけ顔を上げる。
紙を開く。
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“長州、動きが変わったと聞く”
“今後の取引について確認したい”
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(……っ)
山縣は、
そこで少し止まる。
(外に見えてる)
中だけじゃない。
もう。
(長州の“空気”が外へ出始めてる)
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そのとき。
「当然じゃ」
後ろから声。
大村益次郎。
「動く組織は、外から目立つ」
一拍。
「止まった組織は、見えん」
静かに続ける。
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「……怖くないですか」
気づけば、
山縣は聞いとった。
「目立つの」
大村は、
少しだけ山縣を見る。
「怖い」
即答。
(即答なんだ)
「じゃが」
一拍。
「止まれば、もっと死ぬ」
短い。
でも。
妙に重い。
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そのとき。
廊下の向こうが、
少し騒がしくなった。
「使者じゃ!」
「幕府側の様子を見に来たらしい!」
(……っ)
空気が、一瞬で変わる。
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山縣の背中に、
冷たいものが走る。
(来た)
外が。
本当に。
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そのとき。
「おもろいのう」
横から声。
――高杉晋作。
めちゃくちゃ楽しそうじゃ。
(……この人)
「やっと、長州が見つかったか」
一拍。
「前は、死にかけとったからのう」
さらっと言う。
でも。
(……あ)
山縣は、
そこで少し理解する。
前の長州は、
怖がって、
止まって、
縮こまっとった。
だから。
(外から、見えなかった)
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そのとき。
廊下の向こうから、
緊張した顔の若い武士が走ってきた。
「山縣殿!」
(……殿?)
一瞬、
ちょっとだけ変な気分になる。
「幕府側の使者が」
一拍。
「“今の長州は誰が動かしている”と」
「確認したいそうです」
場が、
一瞬だけ静かになる。
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(……誰が)
山縣は、
少しだけ周囲を見る。
高杉。
大村。
伊助。
武士。
百姓。
町人。
(……誰なんだろ)
高杉だけじゃない。
でも。
自分でもない。
たぶん。
(流れだ)
誰か一人じゃなくて。
止まらなくなった、
この空気そのもの。
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そのとき。
高杉が、にやりと笑う。
「さて」
一拍。
「誰が動かしとるんじゃろうな」
山縣は、
少しだけ笑った。
そして。
長州の外側が、
本格的に、
こちらを見始めていた。




