8.決まり作った本人が、破るんかいね
連休は、お休みをいただきました。本日から、再開します。状況説明の回を、一章な終わりと、二章のはじめに、連休中に足していますので、話数が変わっているかもしれません。
翌朝。
空気は、少し変わっとった。
昨日までとは違う。
迷いが、少ない。
声が出る。
動きが揃う。
(……効いとる)
山縣は、そう感じとった。
距離。
人数。
時間。
止まる条件を決めた。
考えんでも動けるように。
(前より、ずっといい)
「前、三十歩!」
「そこで止まれ!」
声が飛ぶ。
ぴたり、と止まる。
(……いい)
ちゃんと、止まっとる。
昨日までとは違う。
(回っとる)
そのとき。
前方で、声が上がった。
「敵、右へ展開!」
報せが飛ぶ。
組が、少し揺れる。
でも――
「右組、対応!」
指示が飛ぶ。
止まらん。
(……いける)
山縣は、小さく息を吐いた。
(これなら)
その瞬間。
「前、出るぞ!」
聞き慣れた声。
――高杉晋作。
(……え?)
山縣の視線が、前に向く。
高杉が、もう走っとる。
しかも。
(……三十歩、超えてる)
一瞬、思考が止まる。
(いや)
(止まれって決めたよね?)
「隊長!」
誰かが叫ぶ。
でも、高杉は止まらん。
「今じゃ!」
笑っとる。
(いやいやいや)
山縣の頭の中で、何かが崩れる。
(決めた本人が)
(破るんかい)
一瞬、本気でそう思った。
しかも。
周りが、迷っとる。
(来た)
(一番ダメなやつ)
止まるべきか。
追うべきか。
条件か。
隊長か。
(……また前提が割れる)
さっきまで揃っとった流れが、揺れる。
(どうする)
頭が、一気に回る。
(高杉を止める?)
(いや)
(この距離じゃ無理)
(じゃあ、追わせる?)
(条件が崩れる)
一瞬、完全に詰まる。
(……これ)
(会社でも見た)
ふと、記憶がよぎる。
(部長が“今回は特別”って言った瞬間)
(全部ルール崩れるやつ)
一瞬、苦笑いしそうになる。
(いや、笑えん)
(あのあと、現場めちゃくちゃになった)
そこまで思い出して。
(……あ)
繋がる。
(条件は破っていい)
(でも)
(誰でも破っていいわけじゃない)
そこで、答えに届く。
山縣は、息を吸った。
「追うな!」
叫ぶ。
場が、一瞬止まる。
「条件はそのまま!」
「動くのは隊長だけじゃ!」
一拍。
「他は持ち場を守れ!」
沈黙。
でも。
数人が、止まった。
(……いける)
もう一度。
「追うな!」
「前提は変えん!」
今度は、通った。
流れが、戻る。
(……よし)
高杉だけが、前に出とる。
でも。
組は、崩れん。
(これか)
(例外の扱い)
条件は、条件。
でも。
(全部に同じじゃない)
そのとき。
「ふむ」
後ろから声。
振り向かんでも分かる。
大村益次郎。
「条件は、人を縛るものではない」
一拍。
「役目を分けるものじゃ」
(……)
山縣は、何も言えん。
(また一段、上だ)
そのとき。
前方から、高杉の笑い声。
「おお、ええのう!」
戻ってきながら、笑っとる。
「崩れんかったな!」
(……分かってやった?)
一瞬、そう思う。
でも。
たぶん、半分は本気。
(この人、ほんと……)
山縣は、小さく息を吐いた。
でも。
(……なるほど)
仕組みは、人を揃えるためにある。
でも。
(例外も、決めとかんと)
それもまた。
(前提、か)
山縣は、そう思った。




