7.動かすだけじゃ足りん、止め方も決めとかんと
夜。
焚き火の明かりが、揺れとる。
声は少ない。
皆、疲れとる。
(……動いた)
山縣は、そう思った。
確かに、動いた。
昨日より、ずっと。
(でも)
視線を落とす。
昼の光景が、残っとる。
前に出すぎた列。
崩れた形。
(止まらなかった)
それが、一番引っかかっとる。
(動かすことばかり考えてた)
(止めることを、決めてなかった)
当たり前のことに、今さら気づく。
(……遅いな)
小さく息を吐く。
(じゃあ、どうする)
考える。
“止める”。
それはつまり――
(どこで止まるか、決める)
でも。
(戦の中で?)
(それ、無理じゃない?)
状況は変わる。
敵も動く。
(全部決めるのは無理)
思考が、そこで止まる。
(……まただ)
全部を決めようとして、詰まる。
そのとき。
「まだ考えとるのう」
横から声。
――高杉晋作。
(だから近いって)
「はい」
短く答える。
「止め方、か」
にやり、と笑う。
(分かってるよね)
「全部は決められません」
山縣は言う。
「状況が変わるので」
一拍。
「なら、決めるな」
あっさり言う。
(は?)
思わず顔を上げる。
「決めんでも、止まるじゃろ」
軽い。
でも、引っかかる。
(……いや)
(それじゃダメだ)
「止まったら、遅れます」
山縣は即答する。
「判断で止まるのは、危険です」
一拍。
高杉は、少しだけ笑う。
「じゃあ、どうする」
(またそれか)
でも。
今度は、少しだけ違う。
山縣は、ゆっくり考える。
(全部は無理)
(でも)
(“条件”なら)
頭の中で、何かが繋がる。
(……あ)
浮かぶ。
テストのとき。
迷った問題。
(時間が来たら、飛ばす)
(点が取れそうなとこだけやる)
(条件で決める)
その感覚。
(……これだ)
山縣は、顔を上げた。
「決めます」
短く言う。
「全部じゃなくて」
一拍。
「条件で止めます」
高杉が、目を細める。
「ほう」
「距離」
「人数」
「時間」
一つずつ、言葉にする。
「この距離に入ったら止まる」
「この人数を超えたら下がる」
「この時間で切り上げる」
静かに続ける。
「考えなくても、止まれる形にします」
沈黙。
焚き火の音だけが響く。
(……言えた)
でも。
(これでいいのか)
少しだけ、不安が残る。
そのとき。
「ええ」
後ろから声。
大村益次郎。
「それでええ」
短く言う。
山縣は、振り向く。
「戦は、判断を減らすほど強い」
一拍。
「人は、迷うからな」
(……)
その言葉が、すとんと落ちる。
「条件で動かす」
「それが一番、速い」
それだけ言って、黙る。
(……合ってる)
山縣は、小さく息を吐いた。
やっと、腑に落ちた。
(全部決める必要はない)
(でも)
(迷わない形は作れる)
そのとき。
「おもろいのう」
高杉が、にやりと笑う。
「動かして、止めて」
「次は何じゃ」
(……まだあるの?)
思わずそう思う。
でも。
(あるんだろうな)
山縣は、焚き火を見ながら思った。
(……終わらん)
回す。
動かす。
止める。
その全部を、作る。
(……やるしかない)
山縣は、そう思った




