2.回すって、どうやるんかいね
翌朝。
山縣は、すでに後悔しちょった。
(なんで引き受けたんじゃろ)
(いや、引き受けてないし)
(あれ、勝手に決まったやつじゃん)
いや、引き受けた覚えはない。
ないんじゃが――
「おう、来たのう!」
元気すぎる声。
――高杉晋作が、手を振っとる。
「ほれ、昨日言うたやつ、頼むで」
軽い。あまりにも軽い。
(……やっぱり、わしなんじゃな)
逃げ道は、なさそうじゃ。
目の前には、昨日の面々。
相変わらず、統一感はない。
むしろ、増えとる気すらする。
(まず、ここからか)
山縣は、ゆっくりと全体を見渡した。
人数。
顔ぶれ。
立ち位置。
(……把握できん)
(いやまず名簿でしょ)
(なんで誰も把握してないの)
これじゃ、話にならん。
「名前、聞いてもええですか」
自然と声が出る。
何人かが顔を見合わせる。
「名前と、何ができるか」
「順に、教えてもらえますか」
しん、と一瞬静かになる。
そして――
「百姓じゃ」
「刀は使える」
「荷運びなら任せろ」
ぽつぽつと、声が出始める。
(よし)
山縣は、頭の中で並べていく。
戦える者。
補給できる者。
指示を伝えられる者。
(分けられる)
(ていうか、これ最初にやるやつでしょ)
ざっくりでもいい。
分類できれば、形になる。
「ええか!」
高杉が、急に声を張る。
びく、と何人かが反応する。
「これからはな!」
山縣の方を、ちらっと見る。
「役割を分ける!」
(……言うたな、昨日)
「戦うやつ、支えるやつ、まとめるやつ!」
どや顔じゃ。
(まあ、ええけど)
もう突っ込む気も起きん。
山縣は、一歩前に出た。
「いまから、三つに分けます」
場の視線が集まる。
「戦う者は、こっちへ」
「荷運びや補給は、あちらへ」
「それ以外――伝令やまとめ役になれる者は、こちらへ」
最初は、動きが鈍い。
だが、一人が動くと、流れができる。
少しずつ、人が分かれていく。
(……動いた)
ほんの少しじゃが、形が見えた。
山縣は、小さく息を吐いた。
(これなら、いける)
だが、そのとき。
「おい!」
声が飛んだ。
「なんであいつはそっちなんじゃ!」
ざわ、と空気が揺れる。
(来たな)
予想通りじゃ。
能力の差。
不満。
衝突。
「……」
山縣は、少しだけ考える。
(ここで崩れるか、持たせるか)
答えは、すぐに出た。
「あいつは、そっちじゃない」
静かに言う。
「伝令です」
短く。
「走れる者は、戦うよりも、伝えた方が活きる」
場が、少しだけ静まる。
「それぞれ、役割があります」
「強さだけで決めると、全体は回りません」
(ちゃんと回すなら、こっち)
完全な納得ではない。
でも、崩れは止まった。
「ええのう!」
高杉が笑う。
「ちゃんと回りよるじゃないか!」
(いや、まだじゃろ)
山縣は、心の中でため息をつく。
(これ、やっと“入り口”じゃ)
回り始めたように見えるだけ。
本当に回るかどうかは――
これからじゃ。
(……回す、か)
山縣は、ほんの少しだけ笑った。
(ほんなら、やってやろうか)
この無茶苦茶な集まりを。
本当に“回るもの”にするために。




