12.締めすぎると、動かんようになるんじゃが
数日後。
今度は――
遅くなった。
(……あれ?)
山縣は、最初に違和感を覚えた。
動きが、鈍い。
前よりも、確実に。
「確認しましたか」
「まだです」
「待て、もう一度数える」
声は出とる。
でも、進まん。
(……止まっとる)
正確には、止まってはいない。
でも、“進んでいない”。
(遅い)
明らかに。
あのときの速さが、ない。
山縣は、少しだけ眉をひそめた。
(なんで?)
頭の中で、順に辿る。
やり方を変えた。
確かめを入れた。
複数で見るようにした。
(……ああ)
すぐに、答えに行きかけて――止まる。
(締めすぎたな)
一瞬、別の考えが浮かぶ。
(……全部見ればいい?)
確認を増やす。
抜けをなくす。
(それなら、確実に防げる)
思考が、そこに流れる。
――でも。
(いや、違う)
すぐに打ち消す。
(それ、さっきやったやつだ)
全部を見て、
全部を確かめて、
全部が遅くなった。
(あれは、ダメ)
止まる。
回らなくなる。
ふと、別の記憶が浮かぶ。
(……これ、テストのときと同じだ)
(全部解こうとして、時間足りなくなるやつ)
一瞬、苦い感覚がよぎる。
(全部は無理)
(優先、決めないと)
山縣は、ゆっくり息を吐いた。
(じゃあ、どうする)
数秒、考える。
視線を、動いている連中に向ける。
全部は見れん。
でも――
(……全部、見る必要ある?)
ふと、引っかかる。
(いや)
(ない)
一部でいい。
全体が見えるなら、それで足りる。
(……抜き出すか)
そこで、やっと形になる。
山縣は、顔を上げた。
「やり方を、変えます」
はっきり言う。
周りが、少しだけ反応する。
「すべては確かめません」
ざわ、と空気が動く。
「一部だけ、抜き出して確かめます」
一拍。
「それで、全体を見る」
(全部見る必要はない)
(流れが止まらんことの方が大事)
そのとき。
「どうした」
軽い声。
――高杉晋作じゃ。
いつものように、横に来る。
――近い。
(だから近いって)
「遅いです」
短く言う。
「前より」
高杉が、辺りを見回す。
「……ああ」
すぐに気づいた顔。
「慎重になっとるのう」
(言い方軽いな)
「ごまかしを防ぐために、確かめを増やしました」
一拍。
「その分、止まってます」
高杉は、ふん、と小さく息を吐く。
「じゃろうな」
(軽いなあ)
「どうする」
にやり、と笑う。
(またそれ聞く?)
(いや、もう決めたけど)
「やり方を変えます」
改めて言う。
「全部は見ません」
「一部だけ、確かめます」
「その分、速く動いてください」
場が、少しざわつく。
不安と、安心が混ざった顔。
(まあ、そうなるよね)
でも、さっきよりは前に進める。
「……それで、ええんか」
誰かが、呟く。
一瞬、間。
山縣は、ほんの少しだけ迷った。
(……完璧じゃない)
(抜けるかもしれん)
でも。
(止まるよりは、いい)
「はい」
短く答えた。
「それで、回します」
静かに言う。
その言葉で、少し空気が動いた。
完全ではない。
でも、納得が少し生まれる。
そのとき。
「ええのう」
高杉が笑う。
「ちょうどええ加減じゃ」
(その言い方やめて)
でも、間違ってはない。
山縣は、小さく息を吐いた。
視線を、全体に向ける。
また、動き始める人の流れ。
さっきより、軽い。
(……完璧じゃない)
(でも)
(これでいい)
山縣は、静かに目を細めた。
(全部は守れん)
(全部は見れん)
(でも、それでも回す)
それが、今の答えじゃった。




