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道を極めたおっさん冒険者は金が余りすぎたので散財することにしました。  作者: 空戦型


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断章-1 おじさんたちのみっちり情報共有会議

 コモレビ村、天使族の里、エルヘイム自治区の代表が顔を突き合せた第二回の報告会は、細かいながら重要な報告が数多くあった。


 まずは天使族が調査を進めていたもの――ハジメが『聖者の左腕』を破壊出来た理由について触れられる。


「当時ハジメさんが使用していた大剣――【星屑の大牙だいが】に要因があるのではと考えたのですが、様々な検証の結果、これは誤りでした。しかし、『聖者の左腕』の破壊を可能にしたのは【星屑の大牙】で間違いありません」


 天使族の長であるベルナドットの要領を得ない報告に、そろそろ元の外見年齢に近づいてきたマトフェイがウォーミングアップのシャドーボクシングを始める。遠回りな言い方をせずにさっさと説明しろという意思表示にベルナドットは冷汗を流す。


「えー、とりあえずこれを見てください」


 子供の姿からは想像も出来ないほど軽々と彼が掲げたのは、まさにハジメの持っていた【星屑の大牙】だ。ただ、ハジメの記憶にあるそれよりデザインとしての細かな傷が少なく、やや真新しく感じる。


「ご存じかと思いますが、この世界の迷宮では全滅させたモンスターやアイテムは時間を置くと再現体として復活する場合があります。【星屑の大牙】も実はその類でして、これは天使の部下に現場に取りにいかせたものになります。数は少ないですが他にも同種の剣の所持者や流通している剣が存在します」


 【星屑の大牙】は隕鉄を用いた剣とされており、性能は準聖遺物級と悪くない武器だ。

 ただし、迷宮自体が辺鄙な場所にあるし、デストラップの類も多く過去に腕利き冒険者が死んだ曰く付きの場所だ。おまけに最奥で5機のエレメントゴーレムが一斉に襲ってくるのがあの難易度の迷宮にしてはきつい。ドロップするアイテムについてもギルドの資料で事前に調べれば記載されているので割に合わないと感じる冒険者が多いのだろう。

 わざわざ好き好んで【星屑の大牙】を手に入れるために迷宮に足を運ぶ人間は、蒐集家かスリルを求める物好きくらいだ。


 ベルナドットは剣をテーブルに寝かせてぺしぺしと叩く。


「調べた所、属性による補正に影響されづらいという一種の貫通効果があるものの、悪く言うと地味な性能の武器でした。更に、何度シミュレーションを走らせてもこの剣で『聖者の左腕』を破壊することは出来ませんでした。そこで天使族の特殊な技術を使ってハジメの所持していた方の剣が特殊であったのではないかと着目した所――推測通り、ハジメが最初に握った【星屑の大牙】は何者かによって性能をカスタマイズされた可能性が極めて高い事が明らかになりました」

「そうか……しまったな」


 ハジメはあることに気付いてため息を漏らす。


「俺の持っていた【星屑の大牙】はブンゴに使っているところを見せたことが一度もない。見せていればアイツが何か気付けたかもしれないのに、ままならんな……」

「しかし元勇者のレンヤは未だにそれを使用しているので剣の秘密を知る機会は失われていません」

「元勇者か……噂に聞いたところでは迷走中のようだが」


 彼はあのあと何かに取り憑かれたように魔王軍の残党狩りと称してあちこちで魔物を殺して回っているという。勇者であった頃の仲間は誰も側におらず、全てを一人で片付けようとしているという。


 これは、ハジメが死にたがっていた頃の生き方に類似性がある。

 つまり、限界密度のレベリングとなって彼は勇者時代より強くなっているだろう。特に不意打ちへの警戒はソロ冒険では必須なため、精神的に不安定な彼にこそこそ近づけば襲撃者と勘違いされかねない。


 ベルナドットにとってもまさか彼の状況に頭を悩ませることになるとは予想外であったようで、テーブルに肘を突いて額を指で叩きながら悩ましげな表情を浮かべる。


「いろんなものへの被害者意識が今も根強いようです。というか、彼の異様な被害者意識は恐らく複合的なものと類推されるので真面目にカウンセリングを受けた方が良いと思いますね。自分を正常だと思い込んでいるので拒否するんでしょうが、それは彼の性根というよりはそのような特徴の症状なのが困ったところです……」

「十三円卓議会もまだレンヤに利用価値があると思ってるのかちょろちょろしているんだろう?」

「それも悩みどころです。あの連中、ホント……」


 彼らとしては上手くコントロールすれば彼を【影騎士】もどきとして運用できるかもしれないという打算があるのかも知れない。

 人は自分に優しくしてくれる人に心が傾くことが多い。

 周囲に否定されやすい精神病患者は言わずもがなだ。

 歪んだ世界観を敢えて肯定することで行動を誘導するというのは、その人物を治療に導く際、ないし騙して金をむしり取る際に使われる常套手段だ。


 この件についてはブンゴと相談して彼に全ての絡繰を分析して貰うことになるかもしれない。重要度の高い案件なので報酬金額でタワーを築こう。


「あの剣の絡繰が解き明かされれば、もしまた『聖者の躯』が暴走しても対抗手段として有力なものとなるでしょう。天使族は引き続きこれについて調査を行ない、進展がある度に報告する所存です。それともう一つ――アグラニール・ヴァーダルスタインについての経過報告も」


 ずっと解決しない聖躯アグラの問題も、ベルナドットの頭を悩ませる要因だ。

 『聖者の頭』を自ら取り込んで転生特典で無理矢理御しているアグラは今なお潜伏中であり、NINJA旅団をして尻尾が掴めない状況が続いている。


「彼の足取りは相変わらず掴めませんが、最近ダークエルフの失踪者が相次いで4名も発覚しました。これはコモレビ村に住むダークエルフのヤーニーとクミラの個人的な調べ事のついでに発覚したもので、失踪者の中には二人の父親も含まれています。失踪者はいずれも自分の居場所を隠匿したアングラなダークエルフばかりで、現場には激しく争った形跡もあるため、アグラが『補助脳』の確保をしていると我々は見ています」


 バルグテール大森林で取り込んだ人間達の脳を自分の魔術の情報処理に利用していた聖躯アグラは、そこで取り込んだ人間を引きずり出された失敗を経て量より質を取ることにしたのだろう。

 アングラのダークエルフはベテランクラス冒険者でも苦戦するような厄介者揃いだが、『聖者の頭』を得たアグラにとって彼らの取り込みは児戯に等しかったことだろう。元々曰く付きの人間で自ら隠れているダークエルフは行方不明になっても騒ぎにならず、脳の質もいいので都合が良かったのだろう。


 ベルナドットはこれについても引き続き調査すると簡潔に述べ、話を変える。


「並行してもう一つ。以前ブンゴさんが転生特典を用いてアグラニールがどのような魔法で『聖者の頭』に取り込まれずコントロールしているのかを調べる為に膨大な魔法式をメモしていたのですが、魔法使いの学者さん達の協力もあって基本的な理論が解明されました。既に『聖者の躯』の生体結合性質に反発する装備や膨張を抑制する装備も開発中です。アグラニール・ヴァーダルスタインと『聖者の頭』を切り離す術についてはもう少し時間がかかりますが、一ヶ月以内には完成予定ですので期待して貰ってよいですよ」


 どうやらブンゴの努力は報われたようだ。

 『聖者の躯』への対策が充実することは、その破壊を目標とするエルヘイム自治区のギューフにとっても朗報だ。公務の合間を縫って転移で会議に参加したギューフはまた一歩目標に近づいた喜びを静かに噛み締めていた。


 さて、ここまでは天使族の里からの報告だったが、ここからはコモレビ村からの報告となる。この時のためにしっかり事前準備をしていたフェオが立ち上がって第三の議題を掲げた。


「バニッシュクイーンと関連性のある人物、ヘイズル・スミスについて幾つか報告すべき事があります。どうかご傾聴を」


 ヘイズル・スミス――バニッシュクイーンの中にあった、意思と呼んで良いのかも曖昧で不明な存在。

 ダークエルフの間ではヘイズル・スミスは神代の終わり頃に実在したダークエルフの始祖とされているというのはハジメも最近知ったことだ。


「まず、コモレビ村に在住する不死の転生者――マルタさんは約500年前にヘイズル・スミスと邂逅し、短いながら友人関係を築いていたとのことです。このヘイズル・スミスと神代を生きたヘイズル・スミスが同一人物であるかどうかはいまのところ定かではありませんが、彼女の知るヘイズルという男は己の望む特性を持った生物を創り出す力を持っていたそうです。これが転生特典なのか、それとも彼独自の技術なのかは確認する術がありませんが、少なくとも彼女の知るヘイズルがバニッシュクイーンの生みの親である可能性は現状では極めて高いです」


 口ぶりからしてバニッシュクイーンの中にいたヘイズルはオリジナルを元に創り出された何らかのコピーであると思われるが、マルタは記憶を掘り返して彼について少しだけ教えてくれた。


「マルタさんの証言によると、ヘイズルはずっと何らかの個人的な研究を行なっており、そのためにマルタに近づき……その、気分の悪くなる話ですが、無限に再生する自分の血肉を研究素材としてかなりの量提供した、と。実際にバニッシュクイーンの基幹と思われる人型の部分は顔からスタイルまでマルタさんと酷似していたので、これも無関係とは思えません」


 よくそんな滅茶苦茶な依頼を請けたものだと怪訝に思ってしまうが、マルタはそれについてこんなことを言っていた。


『善も悪もない。あいつはただ純粋なだけよ。そこに突き抜けた行動力と知力が付随してるだけ』


 更に、マルタの身に付けるスライムはマルタに寄生して活力を得ていると説明されていたが、このスライムが得るエネルギーもヘイズルの元に転送されていたという。マルタはこのことをすっかり忘れていたようだ。

 更に、本人も気付いていなかったが、いま彼女に張り付く寄生スライムは彼女の肉を食べていない。せいぜい老廃物を舐め取っている程度で、いつからか素材提供は終了していたようだ。もしかしたら提供終了とバニッシュクイーンの活動開始は重なっていたのかも知れない。


 更にヘイズル・スミスについては他にも色々と情報があるため、フェオとハジメは情報を整理するうちにここ数日ですっかりヘイズル・スミス博士になった気分にさせられていた。

 一つだけ確かなのは、この顔も見たことのない男との因果はもう暫く世界に纏わり付くだろうということだ。


 彼についての報告はまだある。

 フェオは「これは改めての報告になりますが」と前置きする。


「マルタさんの記憶にあったヘイズルと酷似した人物が、5年前にバランギア竜皇国現外交官のイザエルさんに呪いをかけた人物と酷似していることが判明しました。これは天使族が調査したもので、コモレビ村側でイザエルさんに情報共有の許可を頂いて発表した次第です。呪いの内容は生命力が流出して最終的に死に至るものですが、これ自体は既に解呪されています」


 この場の全員がお喋り前回のイザエルにマシンガントークを浴びせられた経験があるのでハッピーエンドに終わったと言いたいところだが、今になると別の見方もできる。


「問題は、呪いの痕跡などを合同で調査した結果、ゼロ転送を相手に強要するものであったことが判明したことです」


 ゼロ転送――旧神のエネルギー転送技術、ないし神獣と人が契約した際に対象に力を送る技術。シルベル王国の第二等級以上の騎士の鎧にも備わっているそれは、時空を超えて転送されるためにタイムロスもエネルギーロスも一切無い。故にゼロ転送と呼ばれている。


「イザエルさんは気配もなく突如現われたヘイズルと酷似した人物によって、生命エネルギーをどこかに転送され続ける呪いをかけられてしまった。通常ならそのまま死亡している所ですが、彼女は竜人の国の皇の母というやんごとない身分であったために延命が可能だった……」


 その結果が5年に亘る昏睡と皇の暴走である。

 契約魔法はそれだけでも難しいのに、それを一方的に相手に植え付けた上にバランギアの魔法技術では解呪も転送の事実も把握できないよう複雑に暗号化してあったことから、術者が常軌を逸した魔法技術の持ち主であることは疑うべくもない。


 何より、『熾四聖天』に匹敵するイザエルの背後を取ったということは恐らくピンポイントで背後に転送し、出現と全く同時にイザエルを無力化したのではないだろうか。そう考えると、イザエルが相手をダークエルフの始祖の方のヘイズルではないかと警戒するのも頷ける。


 フェオは努めて表情を崩さないようにしているが、内心では口にしたくないと思っているであろうことを説明した。


「マルタさんは、ヘイズルが全部承知の上で生かさず殺さずエネルギーを吸い続ける為に仕掛けたのではないかと推測しています。つまり、バランギアは立場の高く人望もある彼女を見捨てられず延命措置を施し命を繋ぎ止める。そうするとヘイズルは熾四聖天相当の強力な竜人の生命力を継続して得られる。更にイザエルさんは趣味として冒険者活動をしており、他の強力な竜人の実力者より襲撃の隙が多かったのも事実だそうです」


 ギューフが「血も涙もないとはこのことか」と呟き、オルセラは眉間に皺が寄っている。自分の家族が同じ目にあったときのことを想像したのか、或いは彼女も血族のはみ出し者で生命力豊富なので自身もターゲットにされていたかもしれないことに気付いたのかもしれない。

 ただ、流石に魔法に長けたエルフが相手では絡繰が露呈して解呪されると候補から外されたというのはあり得る話だ。


「また、マルタさんはヘイズル本人は自分と出会った時点で既に死期を悟るようなことを口にしていたそうです。故に本人はとっくに死んでいて、彼が生前に仕込んだ仕組みが動き続けているだけではないかと仰ってました。『あいつはそういうヤツだし、具体的なことは何も言ってないけどそれっぽいことを言っていた』……だそうです。イザエルさんを襲撃したのも彼の意思を植え付けられた彼そっくりのモンスターの類じゃないかと仰っていました」


 全てマルタからの情報にはなるが、思い通りの生物を想像する力があるヘイズルであれば辻褄が合う。神代から近代までは自分の能力を自分に使って無理矢理寿命を引き延していた可能性さえあるので、神代のヘイズルとマルタの知るヘイズルが同一人物であるという仮説は捨てきれない。


「更にもう一つ……」


 既に十分すぎる情報量なのだが、ここに先ほど軽く触れられたヤーニーとクミラからの頭の痛い報告が加わる。


「結論から言うと、ダークエルフという種族は知らずヘイズルに協力するよう仕組まれた種族の可能性が極めて高い……とのことです」


 話自体はハジメが聞いてフェオに報告したものだ。

 ハジメは、幼いダークエルフの姉弟が先日告げた内容を反芻した。

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