第六十七話 小さな相棒
久しぶりの投稿になりましたが、これからもちゃんと続けて書くつもりですのでよろしくお願いします!
「クー!クゥッ!クゥーッ!!」
どうしよう、シロナが⋯⋯
シロナが遠くへ行っちゃう。
小さな彼女の背中を眺めるだけで、この檻を破ることも、足枷を外すことすら出来ず、ただ無力感に襲われながら、連れていかれるシロナをただ見つめる事しか出来なかった。
情けない。
子供でも僕は白竜だというのに、命の恩人のことも守れないなんて。
ちっぽけだ。どうしてこんなにも僕はちっぽけなんだ。
自分一人ですら生きていけない。いつもシロナの足を引っ張ってばかり。
役に立ちたいのに、一緒に戦いたいのに、…………守ってあげたいのに。
力が足りない。弱い……弱すぎる。
檻に阻まれ、僕は必死に声を荒げて彼女の事を叫ぶしか出来ない。
僕は…………
なんて惨めなんだろう。
ステージ脇で出品される魔物達に埋もれる自分が、ひどく小さく思えた。
⋯⋯⋯⋯それでも、⋯⋯僕が、シロナを!!
ギリっ、と牙を食いしばり、コハクは重く自由に身動きが取れない足枷を無理やり引きずって檻に体当たりをした。
無駄だと本心では分かっていたとしても、何もせずただジッと見ている事は出来ない。
少しでも、この事態を変えることの出来る可能性が1ミリでもあるのなら⋯⋯動かずにはいられないのだ。
「クーーーゥッ!」
小さい体を必死にぶつける鉄の鈍い音がステージ脇に響く。
この子竜の行為を、周りは無駄だと呆れているのか、全く興味を引いていない。
助けようとも、止めようともしない。
それほどコハクは周りから見ても、小さな存在だった。
体が疲れても、無理やり立ち上がって檻に体当たりする⋯それを何回も繰り返していると頭の上から声が聞こえた。
『お前さ、なんでそんなになってまで頑張るの?そんな事しても無駄なの⋯お前も分かってるんだろう?もう諦めなよ、ボクみたいに』
顔を上げるとそこには、朱い色の鱗の緋竜がいた。
コハクの檻の後ろにその緋竜もまた捕われていて、このオークションの商品としてステージへの順番を待っている。
もう諦めなよ。
そう言った緋竜の眼に光は無く、もうどうなってもいいと言いたげな顔で僕を見ている。
『人間など、ボクらをただの珍しい素材としか思ってない輩ばかりだ。それなのに、お前は人間が大事なのか』
僕よりも遥かに大きな竜に一瞬驚き、体が硬直してしまったが、グッと体に力を込めて僕はハッキリ言ってやった。
『シロナは他の人間とは全く違う!僕の命の恩人で、大切なパートナーなんだ!あの子は…………絶対僕が守る。例え他の竜を敵に回したとしても、僕はずっとシロナの為にこの命を使う。あの日にそう誓ったんだ。⋯⋯だから、絶対に諦めない!』
迷いのない、真っ直ぐな瞳で言い放つ。
暫く睨み合いの間が続いたが、緋竜の方が先に目を逸らし顔を俯かせた。
『知ってるぞ、お前コハクって名前だろ』
『え?なんで僕の名前⋯⋯』
『さっきシロナって人間にも同じ質問をしたら、同じような言葉が返ってきたよ。大事だから、絶対に守るって⋯⋯お前らいいコンビだね。少し羨ましいよ』
シロナがそんなことを⋯⋯
緋竜とシロナが知り合いだった事を聞いた直後だ。
ステージが突然ざわめき始め、木槌の甲高い音が何回も鳴り出した。
きっとシロナのオークションが始まってしまったんだ。もう一刻も考えている余地はない。
『シロナ!』
口だけじゃダメだ。そんな事で簡単に強くなれるなら、もうとっくの昔にそうしている。
魔力はこの枷で封じられているし⋯一体どうしたら⋯。
無理にでも引き出してみるか。
魔力を引き出すため力を込めたその時、突然全身に痒みが走った。
体の内側から何かがズルズルと這い出てくる感覚。非常に気持ち悪く、毛は逆立ち、全身が敏感になる。
これはシロナと繁華街に行った時にも同じことがあった。
それから⋯⋯
あの黒い精霊が僕の体を憑依した時と同じ⋯⋯。
まさか⋯⋯この魔力は⋯⋯
自分の身に起こっていることに動揺していると、緋竜が突如檻の中で暴れ出し錯乱状態に陥っていた。
ガタガタと音を立てて、今にも檻が倒れそうなほどの力で檻に体当たりを繰り返す。
『ど、どうし⋯──』
先程まで普通に話していた相手がいきなり暴れ出したことに驚いたが、声をかける前に彼からテレパシーが伝わって来た。
『心配無用だ。ボクの演技で奴らを引きつける、チャンスは一回⋯⋯隙を見て抜け出せ』
『ついさっきまで僕に諦めろって言ったくせに、どういうことなのそれ』
『竜はみんな気まぐれなのさ。あと、ボクもシロナって人間に少し興味が湧いた』
『ム⋯』
僕のシロナなのに、なんて少し嫉妬心から顔を歪めたら緋竜は薄ら口角を上げニヤッと笑顔を浮かべる。
またライバルが増えた。
「こらこのトカゲめっ、いきなり暴れやがって、暴れんな!くそ!」
ステージ脇にいた関係者が騒ぎに気づき、わらわらと緋竜の前に集まって槍で押さえ込もうとするが、ドラゴンの力は人間より遥かに強く沈静させることが出来ない。
人間など簡単に飛ばされる。
「わっ!」
「グ⋯ッ、ガハッ」
「畜生、駄目だな。おい、キッツイ鎮静薬持ってこい!とっとと眠らせてしまえ」
「無茶ですよ!こんな暴れてるドラゴンに遠距離型鎮静剤なんか打ち込んだら、これから出品するのに高値で売れなくなっちゃいますよ!ここは少し大人しくなるくらいの量を打ち込まないと、ボスに叱られるのは先輩ですよ?いいんですか?!」
「うっ⋯。ちっ、仕方ねぇな。んじゃ魔武器もってこい!」
男がそう言うと別の下っ端が、先端に大きな魔鉱石を嵌め込まれた電流を放つ長い杖と、軽く眠ってしまう程度の鎮静薬を入れた注射器を持って男に手渡した。
「グアアア!!」
暴れ回る緋竜の檻にジリジリと近づく男は、杖を構えて魔鉱石が嵌め込まれている先端を思いっきり緋竜に突き刺す。
ビリビリと電流の渦が緋竜に巻きついていき、何万ボルトもの電気が緋竜の体を駆け巡った。
『緋竜!!』
何が心配無用だよっ
こんなの大丈夫なわけない!
思わず檻から身を乗り出す。
電流が収まると緋竜はそのまま前のめりに大きな地響きを立てて倒れ込んだ。
室内には倒れた時の衝撃で埃が立ち込める。
「ごほっごほ、ちょっと先輩!何やってんですか!」
「あ〜ちょっとやりすぎたか?まぁいい、このあとすぐ動かれても困るしさっさとこいつを打ってしまうか」
腰ベルトにぶら下げている鉄の輪っかには、数種類の鍵がぶら下がっていて、鍵それぞれ先端に色の違う魔石が嵌め込まれている。
緋竜に使った杖同様、魔石を加工して作った魔具なのだろう。
どの檻にも鍵穴はなかった、多分魔具で独自の魔法を生み出した特殊の鍵で、あれじゃないと絶対に開かない仕組みになっていたんだ。
「え〜と、こいつの檻の鍵は⋯あぁこれだこれだ」
鍵を檻に近づけると、ガチャっと音を立てて扉が静かに開きだした。
杖をつきながら男は中に入り、緋竜の足下へ近づいて注射器を持つ。
「はいはいトカゲちゃん。おねんねの時間ですよ〜なんつって!がはははは」
誰もがこの緋竜はさっきの電流により気を失っていると、そう思っていた。
だから、誰も緋竜の後方を気にする者など、誰一人いなかったのだ。
ゆらっと動く影に誰も気づかない。
注射針が緋竜の皮膚に刺さる手前で、男の手元の光が遮られたことで気づくこととなったが⋯⋯
もう、遅かった。
「《悪いね、今日は寝付きがよくないみたいだ》』




