番外編 行ってらっしゃい《レヴォル過去》
険しく聳え立つ渓谷に、霧に囲まれている広大な深い森があった。
「妖精王様ー!どこですか?!レヴォル様ー!」
その森は《 妖精の森 》と呼ばれており、高濃度のマナに満ちた言わば精霊や魔物の楽園。
妖精に属する種族は皆この神聖な森に囲まれ静かに暮らしていた。
妖精属をまとめ上げている長、つまりこの森の王を勤めているのが、ピクシーに呼ばれているけど聞こえないフリをして木の上に隠れいるオレ。
レヴォルなのである。
オレは4代目で、特にそういう決まりがあるわけじゃ無いんだけど、今までの妖精王はオレと同様全員がエルフ族。
初代から大体4千年以上は経っている。
因みにオレの祖父は2代目で先日寿命をまっとうし天に召された。
正確な年齢は忘れちゃったけど、まぁ1500歳くらいだったと思う。
何でまだ100歳程度の俺が妖精王の座に座っているのかというと、それぞれの種族のリーダーを集めてくじ引きで決めた。
適当だよねー?
王って言ってもやる事ってそうそう無くて、それなのに何かあれば全部王に丸投げなもんで誰一人なりたがらなかった。
エルフ族で不運にもリーダーに選ばれてしまったオレは、さらに王決めのくじ引きでも運が無かった………ただそれだけのこと。
「レヴォル様ー!レヴォル様ー!!」
どれだけ呼んでも見つからないオレを探して、そろそろ涙目になってきたピクシーが可哀想になってきたな。
仕方ないなぁ。
めんどくさいけど相手するか。
「なーに〜?オレに何か用〜?」
フワッと軽やかに木から飛び降りると、ピクシーは満面の笑みでオレのもとに飛んで来た。
ピクシーなのでサイズも可愛らしい手のひらサイズだ。
だから余計に苛めたくなってしまうのは、仕方ないだろう?
「もぉ!僕で遊ばないでくださいっ、それより大変なんです!今隣国の魔軍騎士団から使いのヒトが来ていて、レヴォル様に騎士団入団をと言ってこられているんです!どうしましょう……っ」
「騎士団?あ〜何かその話前にも聞いたなぁ、また来たの?もう何回目よ」
「今日で……16回目です」
「マジ?騎士団めげないね!!」
この頃の騎士団は腕の立つ人員が数少なく、指導員すらまともな人材がいなかったそうだ。
オレはこれでも妖精王。
弓、剣、武道、魔法には自信があり、自分で言うのもおかしいけどそこら辺の魔物よりは強いと自負している。
それに戦闘も暴れられるからストレス発散になるし好きなんだよね。でもこの森は平和すぎて全くもってつまらない。
妖精王にもなりたくてなったわけじゃなかったし、この際、騎士団に入団した方が面白いんじゃないの?
とか考えてしまったオレは
「よし!そんじゃぁオレは騎士団に入るから、今日から君が妖精王ね!後は頼んだよ〜」
「……………………はい???え、ちょっ、ちょっとレヴォル様?!何言っておられるのですか?!レヴォル様?!レヴォル様〜〜〜〜〜〜!!!!」
と、無理やりオレの世話をしてくれいたピクシーに押し付けて隣国の魔物の国、魔軍騎士団へと入団したのであった。
☆
魔軍騎士団が設立されてまだ間も無い頃。
入団した当時はまだ魔国に結界は張られていなかった。
そのせいで人間との衝突が頻繁に起こっており、魔国は度々戦場地のように治安は最悪の状況。
混乱に乗じて、ある人間達は非力な魔物を狙い連れ去っていることが明かになった。
新米だったオレは、本丸から離れてその連れ去られた魔物達の救出任務を命じられ、長い耳をフードで隠し、他の団員と共に人間の街へと潜入した。
団員の囮り作戦が成功し、魔物が連れ去られている場所が判明する。
そこは闇取引の競売場。
仲間を助けるため、オレ達は競売の参加者を待ち伏せし身に付けている物を奪って中に潜り込むのに成功した。
わざと連れ去られて先に潜入していた団員は、仕掛けていた時限爆発魔法を発動し、会場を崩壊させ見事捕らえられていた魔物を解放することが出来たが………
撤収の合図と共にその場から離れようとした時、オレの目の前に一人の少女が瓦礫に阻まれて逃げ遅れているのを見つけてしまった。
この頃は、人間と魔物は激しく対立している時代。
オレはあの時、本当は見捨てなければならなかった。それなのにオレはいつの間にか、彼女を抱き抱えて助け出してしまった。
後でひどく後悔したオレは、街から離れた林の中で彼女を解放しそのまま立ち去るつもりでいた。
魔物と人が仲良くするなんて事は、絶対にあり得ない。
もし交友関係があってでもしたら、オレは仲間からの信頼を全て壊してしまうだろう。
もちろん、それは人間側でも同じ事だ。
だからオレはこれ以上関わるまいと、静かに別れるつもりでいたが………彼女は、ベルは満面の笑みでこう言った。
「知らない優しい人、助けてくれて……ありがとう」
魔物にお礼を言う人間などオレは初めてだった。
彼女の名前はベル。
綺麗で腰まである白金色の髪。
美しく透き通った青い瞳。
細くか弱い華奢な体。
まるで人形のようで、目を奪われたオレはベルに一目惚れしてしまった。
ただ、ベルには一つ欠点があったのだ。
このオレの姿を見て、「人」と言った彼女は……盲目だった。
人間だと思い込んでいるベルに、オレは自分の都合で魔物である事を打ち明ける事なく、行き場がなくて困っているベルを自宅に匿うことにした。
魔物の国から少し離れた森の中に、小規模の結界を張って、小さな家で二人暮らしを始めた。
「いいかい?結界内なら散歩してもいいけど、それ以上外に出ちゃだめだからね!こわーい魔獣が襲ってきちゃうからさ」
「うふふっ、分かったわ。気をつけるわね」
「それじゃぁお昼休みには帰ってくるから、いい子にしててよね」
「うん、行ってらっしゃい!レヴォルさん」
「行って来ます、ベル」
朝、オレは騎士団に行って昼休みは家に戻って一緒にご飯を食べて、夜まで仕事して戻ると、ベルが温かいご飯を作って待っていてくれる。
「あ、お帰りなさい!」
笑顔で出迎えてくれるベルに、愛おしい気持ちでいっぱいで、オレはベルにくびったけになっていた。
ベルもオレの事を好いていてくれて、お互いの気持ちが分かった時、ベルが16になったら結婚しようと約束をした。
幸せだった反面、オレが魔物である事を隠している罪悪感がずっと心に引っかかっていて、騙している事にひどく苦しんだ。
魔物とバレたら、ベルの気持ちが遠のいてしまうんじゃ無いか。
もう、この幸せな日々が終わってしまうんじゃ無いか。
そう思うと、喉の奥で詰まり言い出せなかった。
次第に今が幸せならそれでいいと思い始めたオレは、静かに小さなこの家でオレ達は愛を育んだ。
しかし
それも長くは続かなかった。
二人の間で流れる時間の速さが違いすぎたのだ。
この頃の人間の寿命は50年程。ベルはこの時19歳。
若く少年のような容姿のレヴォルに対し、人間であるベルはどんどん大人になっていく。
初めから分かっていた事ではあったけど、それでも辛い現実であった。
二人で過ごせる時間がどんどん減っている事、それがとても怖い。
そして更に二人に追い討ちがかかる。
ベルが病に伏した。
咳が止まらず、吐血し、熱も下がらない。
決定的な治療法がない病で、街の医者に診てもらおうと説得したが、ベルはこの家から離れたくないと言って聞かず。
魔物の国で最近若い銀狼が効き目のいい薬を売っていると評判があるのを聞きつけ、足繁く通う日々が続いた。
「兄さんまたこの薬?ちゃんと効いてる?よかったらその魔物俺に見せて欲しいんだけど」
「ゴッメンね〜。ちょっとそれは出来ないんだよね……まぁまた来るから、よろしくねーバンくん」
薬の効果は………残念ながら効いているとは到底言えないものだった。
それでも、飲ませないよりかはマシだろうと、オレはそう自分に言い聞かせていた。
その日、仕事の帰り道に家の周りに張っていた結界を内側から誰かが出ていくのを感じ取ったオレは、急いで家に帰った。
いつもなら灯りがついている家は暗く、ドクドクと脈打つ心臓が耳で煩く鳴る中ドアノブを回し家の中に入る。
灯りをつけるとベッドにいるはずの彼女の姿は無く、代わりに可愛い朝顔柄の便箋が置いてあった。
綺麗に畳まれたシーツ。
冷たいベッドに腰掛け、震える手を抑えながら手紙を開いた。
《 レヴォルさんへ
先に勝手にいなくなってしまった事を謝ります。ごめんなさい。
隠していたのでしょうけど、レヴォルさんが魔物である事、実は気付いていました。それでも私は貴方のことが好きで、愛おしく思った気持ちが変わることはありません。
私を救ってくれたヒーロー。
私はどんな貴方でも心の底から愛しています。
しかし、私はもう長くありません。もし病気が治ったとしても、私は貴方と一緒に年老いていく事が出来ない。
貴方に苦しい思いをさせてしまう………それは嫌なのです。
だからせめて、まだ綺麗なうちに姿を消そうと思います。
今までありがとう。
まだ先になるだろうけど、あちらの世界で貴方の事を待っています。
いつも行ってらっしゃいを言う側だったから、ちょっと可笑しいけど……最初で最後。
なるべく、ゆっくりこちら側に後から来てくださいね。
レヴォルさん……行って来ます。》
彼女は近くにあった湖に入水し、自ら命を絶った。
それ以来オレは妻の面影を重ね綺麗な若い女性を追い回すけど、本当に愛していて一途に思っているのは………
妻ただ1人だ。
「ベル……行ってらっしゃい」




