第六十五話 オークション
「ほら、さっさと歩け」
発光魔石を加工したライトで照らされたステージの真ん中に立たされ、目隠しをしていた布が外された。
最初は光が強く、眩しくて状況を把握できなかったけど、目が慣れてあたりを見回すと……私を人間ではなく、物を、商品を見る目でこちらに視線を集めていた。
怖い。
足が、手が、自分の意思で止められない程に小刻みに震える。
全員同じ模様をした、青白いお面に黒いローブを羽織って素性を隠しているので、魔物なのか人間なのかも分からないけど、200人程が入れそうな会場がほぼ満席状態となっていた。
それなのに、まだ出入り口ではヒトが数人この会場に入ってきている。
ここにいる人全員が、闇取引の関係者………。
どうしよう、ここからどうやったら逃げられるんだ……?
このままだと、私は誰かに買われてしまう。でもその方法しか外には出られないのか?
だめだ!弱気になるな、考えろ私。
コハクもまだ見つけてないんだ。
頭をフル回転させて逃げる方法を考えているとステージ袖で聴き慣れた声が聞こえ、バッと振り向くとそこには、檻に入れられたコハクの姿があった。
「コハクっ?!」
恐らく、私の次の競売商品がコハクなのだろう。
見つけた!!やっと見つけたぞ!!
くそ、この枷さえ外せればっ!
ガチャガチャと音を立ててコハクの元へ駆け寄ろうともがいていると、突然頚椎あたりに痛みが走る。
ちくっとした痛みから、何かが私に注入されていくのが分かった。でも、そこから何故か頭がふわふわして、体に力が入らない。
「ったく手間かけさせやがって。商品は商品らしく大人しくしてろっつーの」
強力な鎮静剤?
こうして他の子達も大人しくさせて競売していたのか。
ボーッとしている私は、本当は嫌なのに勝手に体が命令に従ってステージの真ん中へと立たされてしまった。
嫌だ。
誰にも買われたくない。
………誰か……
助けて。
「さぁ、金額を大声で言いながら手元の札を私に見えるようにお上げてください!」
そう競売人が言った瞬間から、沢山のヒトが一斉に札をあげ会場内が騒がしくなる。
「60万」
「80万」
「100万だ!」
「いや、150万!」
「200万」
願いは虚しく、私の競売は始まってしまった。
ガンガンと値段が上がって行く。
躊躇なく高額な値段を言い張っていることに、私は驚きを隠せない。
ここにいるヒト達はそんなにお金持ちの集団なのか、貴族や王族とかが闇取引に関係しているとか?
というかまず、何でこんな高額になるほどこのヒト達は私の事を買いたがるんだ?
一体何のために?
労働力が欲しい……とかならもう少し体力がありそうな人材を選ぶだろうし、魔力欲しさとかなら魔物の方が私より内包魔力は高い筈。
まぁ確かに精霊憑きで珍しいかもだけど、そこだけでこんな高額な値段になるほど買いたがる要点なんだろうか………?
全然分からないけど、面の中から向けられる視線は酷く気持ちが悪いように感じる。
さっきから寒気がおさまらない。
嫌な感じだ。
などと全く脱出方法とは違う事を考えていると、
「300万だ!」
と声をあげた以降、ピタっと競りの声が途絶えた。
「28番が300万!他に300万以上という方いらっしゃいませんか?」
シーンと静まり返る会場。
さ……300万って……。
いくら何でも高額すぎるだろ。これ以上の額を出せるヒトなんて他に居るはずが………。
「300万!300万以上の方!いらっしゃいませんかー?」
競売人の呼びかけに誰も反応をしない。
流石に、この値段以上を私に出そうという気狂いはいないみたいだ。
28番の札をあげたヒトは、肩を上下に震わせて笑いを堪えているように見える。
お面からは息が荒いのか、呼吸が目に見えるくらいの蒸気が溢れ出していた。
あぁ、気持ち悪い。
なんかよく分からないけど、絶対あのヒトには買われたくない。
冷や汗が頬をツーっと伝う。
「いらっしゃいませんね?では300万で落札とさせて頂きま──……」
もう駄目だ。
目頭が熱くなる、涙目を見せまいと顔を俯かせると涙の粒が床にぽつっと落ち弾く。
競売人は手元にある木槌を上に振り、今打たれようとした。
「320万!!」
しかし、それを阻むかのように会場に声が響いた。
ザワザワとする会場。
一気に視線が札を上げた人物に集まる。
「171番札の方が320万!320万が出ました!さぁ他にいらっしゃいませんかー?」
「くそ、350万!」
「おおー!28番更に高額の350万!!」
「380万」
「きましたー!171番の方380万ー!」
何が起きているのか………更に高額な競りが始まってしまった。
171番札のヒトは一体何者なんだ?!
そう思い、顔を上げて目を凝らし見てみると、スラッとした体型に、お面からかわいい獣耳がはみ出ていた。
その隣には少し身長が低めのヒトが立っていて、お面からエルフのよう長い耳が同様にはみ出ている。あとピョンっと立ったアホ毛も。
………まさか!?
♦︎
時間は少し遡る…──。
ギルドから数キロほど離れた場所。中心街から外れた路地裏へとレヴォルに連れられてやって来た。
人通りは全くなく、声を発すると反響して奥の方まで響いてしまうような場所だ。
空き缶やゴミが散乱しているのが目に入る。よっぽどの理由がない限り、ここへは誰も近寄らないだろう。
そんな場所を、レヴォルは何の躊躇もなくスタスタと歩いて行く。まるで一度ここに来た事があるかのよう………。
「んーと確かこの辺に」なんて言いながら、レヴォルは鉄製のヒト一人入れそうな大きいゴミ箱の蓋を開け中を探り始めた。
「マジかこの兄ちゃん。ゴミ漁っとるで?」
「………」
突然の奇行に驚くゼシエとエデン。
まぁ当然の反応だ、俺も驚きを隠せてないからな。
とうとう頭がイカれたのか?と思いながらその奇行の理由を問いた。
「な……何をしている」
「用が済んだ奴らは大体この辺に捨てて行くんだよね〜」
「何を?」
「はい、それじゃぁここからはこれを被ってね!」
ゴミ箱から勢いよく出し渡された物は、青白いお面と黒いローブだった。
「これから行く所はそれがないと中に入れないから、ちゃんと着けてよねー」
「ちょっと待ってくれ」
先へ進もうとするレヴォルを、エデンが懐疑的な雰囲気で呼び止める。
「貴方はどうしてそんなに詳しい?オレ達ギルドはこんなに手間取っているというのに……何をどこまで知っているんだ?何者なんだ」
確かにエデンの言う通り。
レヴォルはたまたま俺たちと一緒にこの国に来た。
黒い霧の話も今日初めて聞いたとこだ。それなのにこんな簡単に場所を見つけ当てる事など不可能だろうし、このヒトにそこまで探索能力が高いとも思えない。
「何を隠しているんだ?」
レヴォルはお面を装着しローブを羽織りながらボソッと呟く。
「今のルーク君と同じようなもんだよ」
その答えは意味が分からなかったが………何となくいつもの陽気なトーンとは違って、少し、昔を懐かしむような、悲しいオーラを放っていた。




