第六十二話 黒い霧
ギルドにて、ゼシエの協力もありやっと牢獄から開放されたルークとレヴォルは、ギルドの外に出ていた。
太陽は登り切って降り始めた時間。あまりモタモタしていると今夜泊まる宿が無くなってしまう。
ここは旅人も多く立ち寄る街だから、宿はすぐにいっぱいになるのだ。
急ぎ仕事を終わらせなければ・・・・・。
でもその前に。
「悪いが先に俺の助手を拾ってから納品でもいいか?」
「助手?助手なんておったん?」
「まだ新米だけどな。ギルドの奴等の話によるとギルマスと出掛けて行ったらしい・・・・シロナの事だ、早く見つけないとまた何か面倒を起こすかもしれん」
「へぇ〜そうなんや、そのシロナって子?、なんや大変そうな子やなぁ…。ほなそういう事ならウチも一緒について行くわ!ヘイドにルーくん達を助けてやれって言われとるし。ウチ結構人探し得意やから力になると思うで!」
「助かる」
ゼシエの現職は側近だが、元々子供の頃から暗部として育てられたらしく、この街の事は隅々まで把握しているらしい。
情報屋とも昔から繋がりがあるとか・・・・・。
俺も人探しは得意でよく鼻が利く方なのだが、魔物の国より広いこの街では、流石にシロナの匂いを辿れない。
人口が多すぎて匂いが混ざるのだ。
そうだ。
確か、レヴォルは空を飛べたな…。こんな時くらい役に立ってもらわないと困る。
「レヴォル。頼みがあるんだが」
と声をかけた瞬間。びゅっと風が吹く。
レヴォルはすでに宙に浮いており、この場から離れようとしていた。
「あ〜ごめんねぇ、オレはこの辺で自由行動させてもらうとするよ。折角の旅行なんだし、ちょっとそこ等へん見物してくるね!用が済んだ頃に戻ってくるから!よろしく〜っ」
俺たちにウィンクをすると、彼はそのまま遠くへ飛び立ってしまった。
はぁ、全く自分勝手なヒトだな。あれで元団長だったことが信じられない。
「仕方ない。ゼシエ行くぞ」
「……なぁええの?あのヒトほっといて。連れなんやろ?」
「勝手に俺たちについて来ただけだから気にしなくていい、それより早く探そう。………何と無く、嫌な予感がする」
その予感が、当たってしまうとは………思いたくもなかった。
♢
「お前·····!何故ここが」
ハァハァと荒れた呼吸を整え、ギルドにいるはずの俺に驚いている人間に近づき、俺は乱暴に肩を掴んだ。
「·····どこだ。シロナはどこに行った?お前と一緒だったんじゃないのかっ!人間!!」
「──ッ」
「エデン!」
心の奥底から、ふつふつと湧き出る怒りを制御することが出来ず。
力任せに掴んだことで、俺の尖った爪が人間の肩に食い込む。
じわっと少し、血が滲んだ。
たまにあるんだ。
こうして自分の怒りを制御出来なくなることが·····。
あの時、
シロナが凶暴化したリザードマンに襲われていた時。
俺の目を見て恐がっていたシロナの事も⋯俺は気づいていた。
抑えられないこの衝動は、俺の中に流れている人間ではない、もう半分の血のせいなのだろうか。
「ちょっと!いきなりエデンに何すんのよ!!半端者がうちの子に勝手に手出さないでくれる?!」
アミーが険しい顔つきでルークに怒声を浴びせるが、全く相手にする様子は無く無反応。
小さな声で「すまない」と呟く人間を睨みつけていると、背後から駆け足でゼシエが追いかけて来た。
「ルーくん走るん早いわーっ、このウチでさえ追いかけるんがやっとってどうなんそれー?ちょっとチートちゃう??」
ゼシエが追いついた事で、頭に血が上っていた俺は落ち着きを取り戻し、力の入った手を緩めてそっとエデンの肩から腕を下ろした。
「⋯はぁ、俺が早いんじゃなくてお前が遅いだけだ」
「んなわけないよー!これでもウチは国王の側近で裏の仕事もこなしとんやよ?脚の速さには自信が⋯⋯って、エデンちゃんやん!どないしたん?そな暗い顔して」
「?!、ぜシエ様?!おい魔物、どうしてゼシエ様とお前が一緒なんだ?!」
まぁ、驚くのも無理ないか。
さっきまで捕縛していた魔物と、この国のトップの右腕が一緒にいるのだからな⋯⋯。
「言うてなかったかな?この兄さんはヘイドのお客さんやねんよ。発注した薬を納品に来てくれたんよ〜」
「えっ?!そうだったのですか?!そのような大事な話はちゃんと言っていただかないと困ります!」
「へ、うそ。ウチ、ホンマに言ってなかったん??」
「初耳です!!!!」
「……………………」
ほ〜。
納品に行くことは伝えてあったにも拘らず、何故これほどにも不信に疑われるのかと思っていたが。
なるほど、全ては伝達不足だったゼシエの失態ってワケか……。
後でヘイドに追加料金を請求しよう。
俺からの冷たい視線と目を合わせないように、ゼシエは冷や汗をたらりと流しながら話題を変えた。
「そや!そんな事よりシロナちゃん…やっけ?遠目で見えたんやけど、さっき通り過ぎてった馬車……あれって例の黒い霧っちゅう組織の馬車ちゃうの?」
「何だその組織は?」
「黒い霧っちゅうのは闇取引の大本。大体裏で動いとる奴はそこに関わっとんやけど、掴んでもすり抜けてく逃げ足の早い悪党の組織でなぁ。物も人も魔物も魔獣も、なーんでも奪っては拐っては競売にかける奴等や。もしかしなくても、アレに乗ってたん?シロナちゃん」
「………本当にすまない。オレがついていながらこのような事に」
相当責任を感じているのか、小刻みに肩を震わせ、視線を下ろすと拳に力が入っている。
今、この娘を責めていても仕方がない。
小さい悪魔と目が合うと、鋭い眼光が刺さってきたが俺はそいつを無視し、ポケットから透き通った水色の液体が入っている小瓶を取り出して娘に渡した。
「…傷薬だ、そいつを肩に塗っておけ」
「しかしオレは……!」
「謝罪はいい。俺も謝らない………こうなった以上誰かを責めても仕方ない。だが、どうしても責任を取りたいと言うのなら協力……いや、依頼を受けてもらうぞ」
「依頼?」
「ギルドマスターなんだろお前、ならギルドらしく仕事しろ。 シロナの捜索及び救出依頼を出す!」
♦︎
「遅かったなゲイロ、今日の収穫は?」
「はァい。今日は子供のホワイトドラゴンと人間の娘が一人でございまァす。ほらオグ、連れてきてくださァいヨ」
「了解」
「ちっ、なんだ二点だけか」
「あら、ちゃんと見てから文句言ってくださァいヨ?うちは量より質なんですかァらネ」
黒いローブを纏った長身の狐仮面の男はゲイロと呼ばれ、つり目に燻んだ金色の短髪をしており前髪をオールバック、尖った耳には複数の金属加工されたピアスをしている。
「持ってきましたデス」
同じく、黒いローブを纏った鬼仮面の小柄のヒトは、褐色肌に淡い水色の長髪を三つ編みに束ねていて、頭に鬼の角が一本生えている。
大人二人がかりでも、重くて運ぶのが難しい鉄製の檻を、軽々と持ち運ぶので誰にも気付いてもらえないが、れっきとした大人の女性だ。
どすん、と檻を地面に下ろすとチェック係の男が表情を変えた。
「ほぉー。これは珍しい灰色の髪か」
男は近づき、檻に手を入れるとシロナの目蓋を無理やり開く。
「美しい翡翠色の瞳……左頬の火傷が惜しいが、何か特別な高い魔力を感じるな。これは………もしや悪魔憑きか?調べてみるか」
そう言って掌に魔力を集め、シロナの胸に手を当てる男は突然驚き笑いだした。
「はははは!こりゃぁスッゲェ掘り出し物だぞゲイロ!」
「?」
「まだこのご時世に存在してたなんてなぁ!精霊憑きにお目にかかれるとは思ってなかったぜ!この娘……高値で売れるに違いない。お手柄だ二人とも」
「お気に召して頂けたようで、なによりでェすヨ」
「今夜の競売に出品する。奥の牢に入れておいてくれ、後はこっちでする」
「「了解」」




